「僕のお空をあげる!」と、その邪神様は言った

隅田 天美

序章 ゴル・ゴロスと老人、剣岳の氷壁を登る

 ゴル・ゴロス。

 

 ハンガリーなどを中心に崇められている邪神であり、謎多き神話生物である。



 のはずだが、今、氷壁を自身が出す粘着質の体液を出してゴル・ゴロスは登っている。


 場所は異界ではなくドリームランドなどではなく、北アルプスこと飛騨山脈にある富山県の剣岳である。


 それを深夜。


 月明りのみで二つの生命体(?)は氷壁を登っていた。


 ゴル・ゴロスの斜め前を進む、老人は人間の姿をして懐に仕舞った十五センチほどの釘を打ち付け、それを支えに逆の手の釘を抜いて、それを氷壁に打ち付ける。



 剣岳はちゃんと装備をして、登山の心得があれば初心者でも登れる山ではあるが、元来は修験道の修行場であり、プロのクライマーでも命を落とすほどの険しい山である。


 氷壁はクライマーの技術がなければ常人には登れない。


 命綱などが必要であり、それを扱う技術もまた求められる。


 それを、邪神であるゴル・ゴロスはともかく、人間だった老人が着流しと下駄とくぎだけで登る。


 それはまさに、自殺行為である。


 まあ、老人は元から死んではいるが、その精神力や体力はゴル・ゴロスに関心のため息を吐かせた。



 では、なぜ、この邪神と人間が剣岳に登ることになったのか?


 話の発端は、五百年ほど前、ゴル・ゴロスたちの時間感覚で五年ほど前にさかのぼる。

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