1 ユニコーンは死んだ(後編)(チャンベッラ教官視点)

 ……なにかの魔術まじゅつびせられて、気絶きぜつしていたのか?

 そう。わたしは、実習じっしゅう失敗しっぱいぎるあのうたがうって。こころのままに。

 テロリストばわりにした。

 そこまではおぼえている。

 でも、ここはどこだろう?

 さっきまでは、附属ふぞくこうの実習しつにトラモント大尉たいいといたはずだ。


 つめたいゆかに、かみ両頬りょうほほがはりついている。

 仰向あおむけでは無く、うつせのまま目覚めざめた。

 上体じょうたいおこすと……。

 見覚えがあるようで、ないような、薄暗うずぐら施設しせつ

「……え?

 なんで、ぐん刑務所けいむしょ

 ……刑務所じゃない。

 ここはどこ!

 わたしはもとクレメン統領とうりょうこく陸軍りくぐんのチャンベッラ!

 ここからいますぐ、出しなさい!」

 ひらかないとびらたたいたり、ったりして、軟禁なんきん理由りゆうを扉のそとう。


「ここはどこにも存在そんざいしない収容所しゅうようじょ

 そして、貴方あなたはどこにも存在しない収容しゃ

 だから、貴方は陸軍じんなんかじゃない。

 だって、戦争せんそうわったのだから、テロリストも存在しなくていもの。

 実習に使用しようした魔術まじゅつ遺産いさん危険性きけんせいづいていたのなら、くそにもおとるし。

 気づいていなかったのなら……やっぱり、糞にも劣るわね。

 どっちでも良いのよ、もう。

 もう、貴方はおしまい」

 扉の小窓こまどがほんのすこけられて、わたしをのぞなぞおんな

 この女は、だれ

 嗚呼ああみとめたくない。

 あの、かおに。

 わたしの元夫もとおっとうばった泥棒どろぼう女に目とはなている。


 あっ。

 部屋へやすみに、布製ぬのせい一角いっかくころがっている。

まえはいっていた収容者は一日いちにちられたけれど。

 それは幸運こううんね。

 滅多めったにない。

 でも、貴方はユニコーンのぬいぐるみなんてあるいていないから、現実げんじつ主義しゅぎね。

 たすかるわ、いつもどおりの収容者が、目のまえにいてくれて」

 謎の女がはなしているのに、つい、その布にれてしまいたくなる。


 とうとう我慢がまん出来できずに、布にが触れた瞬間しゅんかん

 それは今まで、たしかに布だった。

「ユニコーンはんだ」はず。

 何故なぜか、わからない。

 でも、そうあたまかんだ。


 いっ瞬、布ではない質感しつかんになった。

 それは。

 気のせいか。

 気のせいではないのか。

 もう、わからない。

 わたしのりょう手のひら皮膚ひふはズタボロに引きかれていた。

 わからない。

 いたみが引かない。

 手が。

 手がえるようにあつい。

 布製の一角はメラメラと暗黒あんこくほのおおどらせながら、燃えている。


「また、角の幻影げんえい

 あの角はヴィーニュへ返還へんかんしたんだったわね?」

 謎の女は誰かにそう質問しつもんした。

 そして、嗚呼、かれ愛用あいよう歯磨はみがにおいが小窓からただよって来た。

 まさか、彼がここにいるの?

「ええ、そうですね。

 しかし、少年兵しょうねんへい入国時にゅうこくじあつかいに配慮はいりょはありませんでした。

 子どもの玩具おもちゃげて、人道的じんどうてき尋問じんもんおこなったのは間違まちがいなく我々われわれなのです。

 元つま無礼ぶれいを」

「わたしの可愛かわいいもうとのトッポリーナは順調じゅんちょう

 産休さんきゅうに入らないで、大丈夫だいじょうぶ?」

体調たいちょう不良ふりょうおおい中、トリーナをやすませるわけにはいきません。

 トリーナも秘密ひみつ軍人です」

「あら、ルーメ元夫人ふじんかれちゃったかしら?」

 聞こえているのに、のどけて、何も話せない。

 くるしい。

 いきおうとするのに、すべてをき出したくなる。

 おぼれる。

 こののろいは、何?

 いったい、わたしが何をしたの?

 火はまだ暗黒の不気味ぶきみいろのまま。

 まるで、ふくせられるように、火がおそって来た。

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