5 ユニコーンは生きているか?

 午後ごご十一時十分。

 プラトール市内しないからえらばれた少年しょうねんへいはわたし一人ひとり

 背負せおっているリュックサックには、洗面具せんめんぐと。

 着替きがえには学校がっこう制服せいふく長袖ながそでのブラウスとジャンパースカート)、下着したぎ。きれいな服はそれしかい。

 ぬいぐるみはドラゴンか、ユニコーンかでまよったけれど。結局けっきょく、ユニコーンにした。


 本来ほんらいなら、くらで、「街灯がいとう」の無い夜道よみちのはず。

 でも、プラトール市庁舎ちょうしゃ夜間やかん修繕しゅうぜん照明しょうめいのおかげで、こんなにはなれていてもビッカビカ。

 西駅にしえき途中とちゅう、たくさんのひとたちと言葉ことばわした。

 嗚呼ああ

 あの女性じょせいは、義肢ぎしのお客様きゃくさまだ。

貴方あなたのおかげで、息子むすこくらせます。

 本当ほんとうに、ありがとう」

 挨拶さいさつわりにるのも、うでつかれる。

 西駅周辺しゅうへんひろがる見送みおくりのれつえない。


 そこへあらわれたのは。

解散かいさんしろ!

 治安ちあん維持いじ拘束こうそくするぞ!!」

 夕方ゆうがたった憲兵けんぺいふえきながら、あわててやってる。

 それをめたのは、西駅の駅長えきちょうさん。

さないか。

 あの御方おかたは、このくに英雄えいゆう一人だ」


 わたしが西駅のなかはい直前ちょくぜんには。

総員そういん、ヴィーニュ陸軍りくぐんzく義肢職人しょくにんミエル・オスに敬礼けいれい

 そんな号令ごうれいまでこえて来た。


「ミエル~!ミエル~!」

 うえほうから何故なぜこえが聞こえて来たかとおもえば。

 西プラトール駅まえの、とおりをはさんだかいにある、グラン病院びょういん。その窓辺まどべで、っている大人おとなども。


戦争せんそうわらせたんだ!!

 夜間外出がいしゅつ禁止きんし令をまもらないもの暴徒ぼうととして拘束する!!!」


 それでも、憲兵は熱狂ねっきょうするプラトール市みん制御せいぎょ出来ず、夜空に向かって、威嚇いかくの「冷却れいきゃく魔術まじゅつ」をはなった。

 あたまのてっぺんにつめたい何かがって来た。ゆきだ。

 子どもたちは「ゆっきだー!ゆっきだー!」とぎゃくにはしゃいでいる。

 大人たちはしゃべることが無くなったのか、おたがいに「うちには徴兵ちょうへいじょうが来なくてかったわ」とヒソヒソはなしている。



 さて。

 いよいよ出発しゅっぱつだけれど。

 見送みおくりはちちだけ。

「おとうさん」とはもうびかけることが出来ない。


「義肢職人になれなくて、ごめんなさい」

 繊細せんさい作業さぎょうを維持するには、戦地せんちへ行ってはならない。作り手のケガ一つでも、義肢の品質ひんしつとす理由りゆうになってしまう。

 義肢にゆがみが目にえるかたちのこっていなくとも。魔術で作った義肢たちは、「作り手のケガ」をってしまう。

 だから、もうわたしの職人人生じんせいはおしまい。

 父にただただ、頭をげることしか出来ない。


「さようなら」


ちなさい。

 御前は一人いちにん前だ。

 そんなれた迷信めいしんで手をめるな」


 そして、父はいの陸軍兵がまゆをひそめるのもにせずに、わたしのひだり耳元みみもとで、こうささやいた。




「ユニコーンはきているか?

 休暇きゅうか旅行りょこう中は、あそくしてみなさい」




 ふふふふーん。

 お父さんも、わたしも、りの笑顔えがおでおわかれした。

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