第1話 田所さんの観察日記

3月某日


今日は本屋さんであの人にばったりと遭遇した。私は料理の本を見ていたけれど、あの人はマンガコーナーの方でなにか物色していた。


今日はあの人の好きなマンガの単行本の最新巻が出る日。当然買いに来たのだろう。

私は知っている。あの人のことはいつも見てるから、どんな本が好きなのか、どんな料理が好きなのか、休みの日は何をしているのか。も、もちろん性癖なんかも…。


料理コーナーからあの人のことを眺めている私。もう少し近づいてみようかな?

で、でも大丈夫だよね?バレないよね?

本を握りつつマンガコーナーのあの人のところちょっとずつよっていく。


あ、動き出した。手にはやっぱり好きなタイトルの最新巻。その本好きだもんね。

あれ?どこに行くんだろう?お会計はそっちじゃないのに。

握ってた本を元の場所に置いてあの人の方に行ってみる。本屋の奥の方にどんどんどんどん。

あの人はとあるコーナーに入っていった。


そこは成人コーナー。欲望にまみれた本が置いてあるところ。やっぱり男の子だもんね。でも私は引いたりしないよ?男の子だもん。性欲がない方が私はダメだと思う。

でもなぁ…。なんだかモヤモヤする。AVと違って架空の人物だから大丈夫だけど、なんか胸がこうモヤモヤって。

わ、私だったら…別にいいのに。いや、違うの!

あの、あれなの2次元にばかり倒錯しちゃダメだと思うの。で、でもだからといって実際の女の人とそういうのはだめ!



そんなの私耐えられない。あの人が違う女とそういうことするのは許せない。

そう考えたらまだ…いいのかな?うーん。



あ、なんか1冊持っていってる!どんなやつなんだろう?ちょっ…ちょっと待って!!

私は近くにあった適当な本を手に取って、レジの方に向かっていくあの人の後ろをついていった。


さすがにすぐ後ろだとバレちゃうから5人くらい後ろのところから様子を伺ってみる。

レジに置かれた本は3冊、上にはあの人の好きなタイトルの最新巻で下にさっき見てたエッチな本、そしてまた別のマンガの本だった。


レジは女の人だった。大学生くらいの若い娘だった。ちょっと恥ずかしそうにしてるのが後ろからでもわかった。

ふふっ。可愛いな。


あれ?なんかレジの人と話してる?なんか…楽しそう…。知り合いの娘なのかな?

………。



私の番がきた。私は適当に取ってしまった本。

「読みやすくて簡単!観葉植物の育て方」レジの女の子に渡して会計をした。

私はどんな女の子だろうと思ってじっと見た。

眼鏡をかけた、ショートカット大人しそうな娘だった。制服のエプロンについていた名札を見た。

「高見」。憶えておこう。もしかしたら同じ大学の人かもね。


レジを済ませて店から出ていった。

さすがに5人前にいたからもうあの人はどこか行ってしまった。


帰っちゃったのかな?ちょっと失敗しちゃったな…。まぁいいか?どうせすぐに会えるし。


私は自宅に帰ることにした。家に帰ると部屋に明かりがついていた。

やっぱり帰ってたんだ。でもカーテンでよく見えないな…。


今日はもう終わりかな?






私は部屋の電気をつけてノートを取り出した。今日あったあの人とのできごとをこうやって毎日つけている。

もう観察日記をつけて6年くらい経つのかな?机を見ると棚がびっしりとノートで埋め尽くされていた。


これは全て観察日記。

私が彼と出会いそして想いはじめてから病気になろうとも欠かさずにつけた観察日記。


私に告白する勇気があればいいのになぁ…。



伊坂くん…。





















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る