「第八章」ジークの遺言
「第三十六話」廃れた王
四人は荘厳な扉の前に辿り着いた。各々が各々の事情、主義、目的……それらが全て異なるにも拘わらず、ここまで武器を収めていられたのは僥倖だと言えよう。
「開けるぞ」
四人のうち一人、セタンタがドアを開けようとする。手には槍が握られており、いつでも戦える、殺してやるぞという思いが滲み出ていた。無論、彼にはそれをする権利と動機がしっかりとあった。──だが、ソラはそれを静止した。
「待って、私が開けたい」
「……ちっ、好きにしろよ」
ここまで来ればヤケクソだとでも言いたげに、セタンタは後ろへ引っ込んだ。額に汗を浮かべたスルト、腕を組んであくびをしているアイアスも見守る中、ソラはドアノブに手を添えた。手に武器は握られておらず、あろうことか構えてすらいなかった。
セタンタは舌打ちをした。
「あいつ、死ぬぞ」
「いんや? アイツぁ不意打ち程度で死ぬようなタマじゃねぇよ」
一蹴したアイアスは、まるでこれから起きることが全て分かっているとでも言いたげに腕を組んでいた。実の息子であるスルトでさえ剣を構えているというのに、赤の他人であるアイアスは妙に隙だらけである。彼女と対峙したセタンタでも、彼女が何を考えているのかは全くわからない。
そんな事を考えている暇はない。セタンタは槍を構え、今から開かれるであろう扉に
目を向けた。
「……開けるよ、お義父さん」
苦虫を噛み潰したような声だった。嫌な音を立てながら、扉はゆっくりと……その部屋の中の全貌を明かしていった。
ソラにとってそこは、まるで別世界である。整っていた全てが荒れ果てており、怪しげなものばかりが散乱している……ゴミ屋敷だ。
「……ようやく、来たか」
そしてソラは、そのゴミ屋敷の中で不敵に笑う男を知っていた。雰囲気は様変わり、まるで魂を何者かに盗まれたのではないかと思うような豹変ぶり……しかし、ソラには分かる。彼は、彼のまま変わってしまっているということを。
「……お久しぶりです、ジグルドさん」
生気のない者に、生気のない返事をした。
ジグルドと呼ばれた生きる屍は、顔の形を『笑顔』に組み替えていた。
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