第4話 曇りなのに暑いとか終わっている

 人間界、特に日本の夏は酷い。


 今日は曇りなのよ。直射日光でギランギランしているわけでもないのに。


 暑い。


 むわんむわんしているし、心なしか嫌な臭いもする。


 こんな日は、部屋で大人しくしているに限る。


 オレ、レオナルド・ナルシズ・ルシファー君は、ボロアパートの一室でウチワ片手に寝そべっていた。


 畳ってヤツはいいね。


 日本に来て良かったな、と、思う理由のひとつが畳だ。


 床に寝転がっても、服が汚れない。


 魔法で体を保護しながら寝そべる、とか、浮き上がる、とか、手間かけなくていいんだよ。楽ちん。


 ウチワで自分に風を送りながら、窓から外を眺める。


 カーテン。アイツが必要だな……。


 そんな事を薄っすら思う。


 扇風機もエアコンもガンガン回っている部屋だが涼しくないのは、そのせいか?


 いや、違う。


 安アパートは屋根からしてが安普請だから熱が部屋にそのまま来てしまうんだ。


 壁も薄っすいしね。


 扇風機やエアコンをガンガン使う電気代のことを考えたら、高くても良いマンションとかの方を選んだら良かったのでは? とか思うが。


 そこは悪魔だから。


 考え方が違うんだろうな、と、他悪魔事のように思う。


 でも、マジで部屋を決めたのはオレじゃねぇ。


 ジーサンなんだよ。


 金がないわけじゃねぇーし、エアコンの使用はオッケーなんだよ。


 意味ワカンネェーよな、悪魔のする事って。


 意味ワカンネェ―、と言えば、人間界の虫。


 皆さまの嫌われ者、その名は『G』。


 なんなんだアイツは。


 アイツとの出会いは昨夜。


 隣室から聞こえる、絹を引き裂くような悲鳴から始まった。


「キャー――ッ!」

「まひるさん!?」


 隣室に住む日向まひるは、細身の癖に胸だけはデカい美少女だ。


「もしや、変質者!?」


 と、思ったオレは、急いで駆けつけようとしたんだ。


「あっ、やべっ。服っ」

 

 風呂上りで素っ裸だったオレは、うっかり自分が変質者になる所だった。


 あぶねぇ。


 慌てて服を着ると、隣の部屋のドアを叩く。


「まひるさんっ!? まひるさん!? どうしました!?」


 ドンドンドンッ!


 薄いドアを叩き続けるオレ。


 部屋の中から聞こえる悲鳴。


 修羅場である。


「まひるさんっ! まひるさ……」

「ウッウッ、レオさん、来てくれたんですね」


 ドアが開いて、潤んだ目をした日向まひるが覗くようにして見上げてくる。


「どうしました? 何があったんですか?」

「お騒がせして申し訳ありません……実は……出たんです」

「出た、とは?」

「……Gです……」

「は?」

「……Gが……でました……」

「G、とは?」

「ゴ……ゴキブリ、です」

「ゴキブリ?」


 日向の震える指先には、茶色くて平たい、そこそこの大きさのある虫がいた。


「えっ? 虫?」


 ゴキブリとは、昆虫のことらしい。


「虫で……悲鳴?」

「だって、ゴキブリですよ? 怖いじゃないですか」

「ゴキブリ、だから?」


 この時、オレは『ゴキブリだから』と悲鳴との間に関係性を見いだせずに戸惑った。


 ちなみにゴキブリとは、昆虫綱ゴキブリ目の昆虫らしい。


「キャー、コッチ見てるぅ~。怖い~」

「いや、ただの虫だし……」


 昆虫綱ゴキブリ目に属する白アリ以外の昆虫の総称、ってことらしいが、日向の怯え方は尋常ではない。


「だって害虫ですよぉ~。しかもアイツ、飛ぶんですよ? 怖いじゃないですかっ」


 日向は何故か途中からキレ気味になった。


 ゴキブリは室内害虫なるものとして認知されているものが多いらしいから仕方ないようだ。


「キャー、狙ってる~。私、狙われてるぅ~」


 それにしても日向の怯え方は尋常ではない。


「あー……退治しましょう「はい、お願いします」か?」


 何か食い気味に頼まれてしまった。

 

 オレは、ホウキと殺虫剤を渡されて、 生きた化石の一つとも言われるゴキブリと戦った。


 そう、戦ったのだ。


 ヤツはしぶとかった。


 なかなか死なない。


 カサコソ動く、飛ぼうとする。


 逃げようとしているかと思うと急にコッチに向かってくるのた。


 なかなかの強敵だった。


「手強いヤツだったぜ。まぁ、オレの勝利、だったけどな……」


 さしものオレも、もう少しでウッカリ魔法を使っちまう所だった。


 壮絶な戦いだった。


 そして、今。


 ソイツが部屋の片隅から、オレを見ている――――――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る