第16話『今までの戦闘がかなり快適になった件』

「ふぅ~、体を動かせていい感じ~」

「引き連れてくる頻度をもう少し自重して欲しかったけどね」

「えぇ~いいじゃんいいじゃん。連携の練習に多大なる貢献をした、褒めてもらいたいところなんだけど」


 ラッターを計30体討伐した俺達は、更なる強いモンスターと戦うために先へ進んでいた。


 しかし、さすがに休憩を挟みたいと満場一致で通路をゆっくりと歩いている。


「それにしても、一心いっしんくんのスキルって凄く便利だね」

「まさか結界の中から攻撃できるなんて思ってもみなかった。タイミングさえ合えば、数体を相手にしても安全に戦えちゃうんだから」

「うんうん。槍とかの長い武器だったら、安全に狩りができちゃうんじゃいかな」

「でも忘れちゃいけないのが、どんな攻撃でも1撃で壊れちゃうからね」


 そう、俺のひ弱な攻撃だったとしても。


「要は使い方なんじゃないかな。確かに防御として考えるのであれば、頼り過ぎてしまうと危ない。だけど、攻撃の手段をして考えれば戦闘の幅が広がるということでもあるからね」

「ははぁ~、真紀まきって本当に頭が回るよね」

春菜はるなはもう少し、頭を使った方がいいと思うけどね」


 春菜はべーっと舌を出して挑発している。

 さすがにじゃれ合うだけの体力は、今のところないらしい。


「でも、一心くんのスキルを観ているとスキルガチャってものが気になっちゃうよねぇ」

「だけどそれってかなりの賭けになるんじゃなかったっけ」

「う、うん。美和みよりからも忠告を受けた。基本的には、探索者として熟達した人がスキルガチャを回すらしい。でないと、物凄いスキルを手に入れたとしても使用者が制御できなかったり、性能に気付くことすらできないとか」

「ほほぉ~、それはたしかにそうだね」

「仮に、もしも俺が手に入れた聖域ワークショップというスキルの認識が間違っているかもしれない。初心者だからこそ、検証する方法がそもそも間違っているかもしれないし、使用用途や使用方法が全然違うかもしれない」

「言われてみると、そうかも。私達には探索者としての知識は浅く、ダンジョンやモンスターについても全然知らない。名前は聖域で結界。一心くんは使用用途を防御だと思っていたけど、攻撃にも使うことができる」

「ははぁ~なるほど。じゃあじゃあ、もしかしたら聖域の結界内で別のなにかをするためだったりするって可能性もあるってことだよね」

「そういうこと」


 ここまでは、美和みよりと話し合った内容だ。


 たしかに、使用者である俺は鍛冶師であり、それを活かすためのスキルであるならば防御用の結界ではなく、作業用の結界ということになる。

 そうすれば、呼び名となっている『ワークショップ』は、『鍛冶師の作業場』という意味になるはずだ。


「俺が鍛冶師で結界内で作業をする。でも、俺にできる作業は主に武器の手入れぐらいなわけで……駆け出しの鍛冶師――と、名乗っていいのかわからないほどの新米には宝の持ち腐れってことなのか?」

「難しいところだね。その考え方なら、そのスキルは確かに手に余るものかもしれないってことになる」

「私達の間で話し合っても、やっぱり難しいねー……そういうのって、誰かに相談ができないんだったっけ?」

「そうらしい。基本的にスキルガチャで手に入れたスキルっていうのは、系統こそ似てる人が居ても完全一致するものはないらしい。いや、報告されていなかったりするだろうから、実際のところはわからないけど」

「ふむぅ……そう言われちゃうと、探索者になり立てでスキルガチャを回すのはリスクが高いってなるね」


 だが、そこら辺を了承したうえで回したんだ。

 結果こそ微妙な感じになってしまったが、それを勧めてくれた美和のせいにするわけにはいかない。

 俺がやらなきゃいけないのは、こんな無能にスキルガチャを勧めてよかった、と美和に思ってもらうことだ。


「だけど、忘れちゃダメだよ一心くん」

「……ん?」

「一心くんのスキルは物凄く役に立っている」

「うんうんっ。まずね、しっかりと思い出して。私達は、一心くんとそのスキルに助けられたんだよ」

「そう。だから肩を落す必要はないし、なんなら胸を張っていてくれないと、肩身が狭いっていうか、ちょっとだけ悲しいかな」

「……そう、だな」


 そうだ。

 まだまだ自信が身に付いたわけじゃないけど、前とは違って2人の役に立てている。

 狩りの効率が良くなっているのは事実なんだし、もっと有効活用できるイメージを沸かせないともったいないじゃないか。


「さてさて、お次のモンスターについて話をしておこーっ」

「そういえばあの熊、どっから湧いて出てきたんだか」

「もう二度と遭遇したくないんだけど、言われてみればあんな強いモンスターが出現するのって普通じゃないよね」

「やっぱりそういう感じだったんだね。タイミングを見計らって美和に質問してみる」

「普通に出現するんだったら、もうここら辺からダンジョンに入るのをやめるんだけどなぁ。まあまあ。あんなのは出てこないと想定して、あそこら辺に出現するのは【石モグラ】ってやつなんだよ」

「ほほぉ」

「モグラって言っても、全然地面に潜らないでのそりのそりと4本足で地面を這ってくるの」

「動きはラッターより鈍いんだけど【石モグラ】って名前を意味している、体のあちらこちらに付いている石が厄介なの。後、倒す時は姿勢を低くしたりする必要もあるし」

「ちなみに、攻撃方法は特になしだよっ。簡単に言ったら防御特化で、根競べみたいな感じ」

「な、なるほど」


 なら一方的に攻撃をすることが可能ってことなんだろうけど、話の流れからするに、闇雲に攻撃をしたら武器が壊れてしまいそうだ。

 鍛冶師だからといって、折れた武器を修繕できる技量は持ち合わせていない。


「歩いていたらいい感じに疲れが抜けて来たし、石モグラとの戦闘はそこまで疲れないからこのままいけそうだね。数体を討伐してみたら、配信やってみちゃう?」

「まだまだ調整が必要な気もするけど、そこら辺も含めてありだと思う」

「一心くんもそれで大丈夫そう?」

「う、うん。配信の方は超初心者だから、いろいろと勉強させてもらうよ」

「おっけーっ。じゃあ、一心くんも配信しちゃおう」

「え、俺も?」

「うんうん。どうせなら宣伝になるし、3人がそれぞれ配信してたら視聴者が大変だろうけど、2人までだったら大丈夫だと思うし」

「そういうものなんだな」

「そうそう、そういうものなの」


 よくわからないが、やるだけやってみよう。

 どういう感じになるか、どういう反応があるのか怖くもあり楽しみでもある。


 でも、配信者としても活動をするって決めたんだし、なにより美和みよりをガッカリさせないためにも頑張らないとな。

 どうせカッコつけようがないんだ。

 焦らず、飾らず、自分らしくやっていこう!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る