第6話『こんなスキル、どうしたらいいだろう』

「これだよ、これ」


 施設内に複数ある中の飲食店にて、和食セットを食べながら心を落ち着かせる。


 俺が手に入れたスキル【聖域ワークショップ】。

 さっき少しだけ使ってみた感じだと、どう考えたって最前線で敵をバッタバッタと薙ぎ倒せるようなスキルではない。

 どちらかと言うと支援系や防御系に分類さるんだろうが……自分の攻撃でも1撃で壊れる結界って、控えめに言って弱すぎないか?

 それとも、どんな弱い攻撃でも壊れるけど、逆にどんな強い攻撃でも1撃だけなら防げるってやつなのかな。

 もしもそうだったとしたら、それはそれでありと言うか強いのかもしれない。


「鯖の味噌煮うまっ」


 普段、家では家賃を支払うために食費をケチったりしているから、こういう味のバリエーションに富んだ料理は心が躍る。

 なんてったって探索者はこの施設を使用する時は割引してもらえるから、家で食べるよりいい。


「もっと家から近ければ、3食ここら辺でいいんだけどなぁ」


 そんな愚痴は置いておいて、スキルなぁ。


 聖域といういい感じの名前で結界のような効果。

 これに関しては、連発はできないだろうけど使い方によってはいい感じになるはず。


 なら次はその読み方であるワークショップ。

 意味合い的には仕事場や作業場という意味で合っているだろうから、探索者にとって必要なものなんだろう。

 脳裏に過るのは、ダンジョンの中でも考察したキャンプ。

 しかしそうじゃないとしたら、なんだろうなぁ。

 探索者で仕事……探索者で仕事……ん~、わからん。


「ごちそうさまでした」


 ここで考えていても試せないし、ダンジョンに戻るか――。




 ――誰も居ない、と。


「ん~、どうしたものか。ここで色々試していたところで知識もなく誰からも襲われない状況下で、得られる情報は少ないだろうな」


 じゃあ実践前の最後にっと。


聖域ワークショップ展開」


 中から斬ったら結界は壊れないし、貫通する。

 しかし外に出て結界に斬りかかれば、『パリンッ』とガラスが割れたような音と一緒に光の破片となって散り散りに消えていく。


「聖域展開」


 ……。


「なるほど、再使用できるまでにはある程度の時間が必要、と」


 ここまでわかってくれば、後は実戦で使用するだけだな。

 なんて軽々しく言っているが、控えめに言って怖い。

 前のパーティでは常に後方待機で、攻撃をしたとしてもモンスターが完全に弱っている時だった。

 そんな俺が、たった1人でモンスターと戦闘? 軽く考えただけでも全身に悪寒が走る。


 だけど、せっかくスキルを手に入れたんだし頑張らないとな。

 このまま戦えないままだったら、どこのパーティにも入ることができない。

 いや、入れるかもしれないけど、またパーティから追放されてしまう。


「行くか」


 広場から複数方面に広がる通路の1ヵ所へ向かう。

 歩いている最中、自分でもわかるぐらいには手汗が滲んだり、呼吸が浅く早くなっている。

 お願いだからこのまま誰とも会わずに終わってほしい。

 派手に戦っているように見えて、引き腰で戦っている姿なんで見られたくないから。


 俺が1人でも戦えるとしたら……やっぱり、超初心探索者が戦うモンスター【ラッター】だろう。

 通常の鼠より大型な体にかなり長い脚でぴょんぴょんと移動するんだけど、攻撃手段は口から出ている2本の歯ではなく、体より長い尻尾だけ。

 体を回転させてその勢いで攻撃を仕掛けてくるんだけど、威力は弱いし速度も遅い。


「すぅー、ふぅー」


 目標が姿を現すまで【ラッター】の復習をしながら歩いていると、視界に入ってしまったから足を止めた。

 たぶん大丈夫。

 あいつはどのモンスターよりも弱い――はず。

 少なくともここら辺では最弱判定されているモンスターだから……そうわかっているなら、俺の手よ、どうか小刻みに震えないでくれ。


 まずは左腰に携えている鞘から剣を引き抜き――正面に構える。


 できることなら、気づかれてしまう前に先制攻撃をしてあっさりと討伐したい。

 ……だが、今の俺はただ狩りをするためにここへ来たわけじゃないんだ。


 とかなんとか考えていると、ラッターは俺を観測。

 小さくぴょん、ぴょんと跳ねながらこちらへ向かってきた。


「【聖域ワークショプ】展開」


 見掛け倒しのバリアだってのはわかっている。


『キュッ』

「よし」


 モンスターにもバリアが見えているようで、クルッと回って尻尾を叩きつけてきた。

 しかしこの後に待っている結果をわかっていながら、ただそれを眺めているわけにはいかない。


 震える手で剣を握り締め――。


「たぁああああああああああっ!」

『――』

「――った」


 ラッターの脇腹へ見事に剣が突き刺さった。

 結果、たったの1撃で討伐成功。


「やった。やったっ。やったぞ!」


 モンスターを倒せた!

 たった1人だけでモンスターを倒せたんだっ!


 握った拳を前後に振って喜びを表すだけじゃ足りない。

 ジャンプしたり、拳を天井に突き上げたり、「よしよしよし」なんて声が漏れちゃったり。

 それはもう小さい子供がはしゃぎながら喜んでいるように。


「――あっ」


 喜びの舞を一通りやり終えて我に返ると、気づく。

 ダンジョンの中で、しかもいつモンスターに襲われるかわからない状況でなにを踊っているのか、と。


「ははっ。でも、嬉しい」


 それともう1つ。


 移動しなければ、なんて気持ちだけ前に進んでいるのに足が動かない。

 なんせ膝が笑ってしまっているから。

 でも移動しなくちゃならない。


 心臓もうるさいぐらいに騒いでしまっているから、一旦ここから離れなければ。

 大丈夫、モンスターは視界に入っていない。


 ゆっくりでいいから、移動しよう。

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