俺だけ開ける聖域《ワークショップ》!~ガチャで手に入れたスキルで美少女達を救う配信をしてしまい、ダンジョンの英雄としてバズってしまい追放したやつらにざまあして人生大逆転です~

椿紅 颯

第1部・第一章

第1話『俺だけが追放されるなんて』

 俺は今、公園のベンチで項垂うなだれている。


 つい先ほど、パーティメンバーとの晩食後に追放を言い渡された。

 そして突きつけられた現実を受け入れられず、千鳥足でここまで来たわけなんだが……。


「俺はこれからどうすればいいんだ」


 この言葉に尽きてしまう。


 探索者となって2ヵ月、俺達は初心者同士のパーティでダンジョンへ潜っていた。

 追放される理由は、誰よりも自分が一番わかっている。

 なんせ、他のメンバーは目に見えて強くなっていくのにもかかわらず、俺は一歩進んで二歩下がるような活躍っぷり。


 毎日のようにビクビクしていたから、薄々はこんな結末が訪れるのを毎晩のように悪夢としてみてた。


 が。


「でもだからって、こりゃあないよなぁ……」


 俺だって、自ら好んで成長していないわけじゃない。

 たしかに『寄生虫』と呼ばれているぐらいは、みんなで稼いだ経験値分の働きをしていなかったのは自覚している。


「あぁ、はぁ――」


 背もたれに両手を掛け、淀む俺とは正反対にキラキラと輝く星空を眺める。


「んなこと言われてもなぁ。俺にだって目標はある」


 星空みたいに輝いていたみんなと同じで、俺にだって目標はある。


「……」


 最後に言われた言葉を思い出す。


『目標も目的もないお前とは違って、俺達には立派な目標がある』


 正直、傷ついた。

 反論をしようにも……あの時、俺へ向けられていたみんなの表情から、そうしたところで既に無意味だと気づいた。


 ここで腹が減っていたら泣けてくるんだろうが、生憎と腹はパンパン。

 仲良くしていたみんなの顔を思い浮かべるより先に、来月の家賃をどうやって支払おうかが脳裏をよぎる。

 なんせ、俺は率先して戦闘するなんてことはできず、誰かの後ろから安全が確保されてから攻撃することしかできないからだ。


「……それもそうだな」


 最後、俺は女子組に「クズ」「役立たず」「ごくつぶし」「能なし」なんてことを言われていたけど、まさにその通りじゃないか。


「行くか――」


 こんなところでうだうだしていても仕方がない。

 パーティを抜けたのであれば、冒険者組合に報告して……。

 立ち上がって歩き始めても気分は晴れず、足が重い。


「あいつに相談するしかないな」




 探索者組合に辿り着いた俺は、一直線に受付へと向う。

 いつ来ても、ここは安心する。


「あれ、一心いっしんどうしたの? いつもならこの時間は、ご飯の時間だったよね?」

「おう美和みより。そう、いつもなら・・・・・、な」


 人通りが少なくなって静まり返った道とは違い、あちらこちらでダンジョンから帰還した探索者達が反省会をしたり、所々に設置してある机と椅子で談笑して賑わっている。

 そんな中、俺は一番信頼している人物へ会いにきた。


「ん? というか、なんか元気ないね。誰かに告白して惨敗でもしたの?」

「まだそれだったらよかったんだが」

「ふぅーん?」


 首を傾げ、疑問を抱いている表情で俺へ視線を向けるのは、探索者組合の受付嬢であり幼馴染の内風うちかぜ美和みより

 別に家は近くってわけじゃないが、両親の知り合いということから同じ学校に通ったり、こうしてほぼ毎日のように顔を合わせている。


 整った容姿で美少女の枠に入り、小さい頃から何度も告白をされているらしいが一度たりとも首を縦に振ったことはないとか。

 清楚系美少女と、いつのいつでも人気でモテていて、黒い長髪がなびく後ろを男子が追っているのを何度も目の当たりにしているのに不思議なものだ。


「実は俺、ついさっきパーティを追放されてきたんだ」

「えぇ!? ……事前告知とかなしに?」

「ああ」


 こういう時、いつもなら声を大にして怒り出すはず。

 誰か俺の代わりに怒ってくれるのを、美和に期待してしまっていた。


「まあでも、それはそれでよかったんじゃない?」

「へ?」


 予想外な返しに、腑抜けた声が漏れてしまう。


「だって、一心いっしんのことを観ていたけどあのパーティは楽しかった? いつも言っている目標に少しでも近づけている感覚はあった?」

「……どうなんだろうな」

「一心がわかっていなくても、私から観たら面白そうじゃなかったし辛そうにみえた」


 さすがは幼馴染っていうか、優秀な受付嬢ということか。

 目標のために頑張らないと、強くなるためには我慢しないと――そんな気持ちが、知らず知らずのうちに出てしまっていたのかもしれない。


「だって、伝説の鍛冶師のあの人みたいになるんでしょ?」

「……」


 そうだった。

 他の誰かに笑われても、美和だけは一度も笑わずに背中を押し続けてくれている。


「どうせいつものことだから、『これからどうしよう』『もしかしたらこのまま夢を追えなくなってしまうかもしれない』なーんて思ってるんじゃない?」

「どんだけ俺の心の声が聞こえているんだよ」

「何年、一心の幼馴染をやっていると思うの? それに、そうは思っていても夢を諦められないから私のところまで来たんでしょ?」

「探偵に転職した方がいいんじゃないか?」

「無理よ。推理できるのは一心のことだけ」


 そうだな、愚痴にでも付き合ってもらおうかと思っていたが、今やるべきことはそうじゃない。


「パーティの脱退申請に関しては私がやっておいてあげる」

「ありがとう。感謝する」

「それにしても、その人達は随分と見る目がないわよね。鍛冶師なんて滅多にみつけることができないのに」

「俺がもっと役に立つ存在だったら、そうなんだろうけどな」

「まーたそうやって自分を卑下する。だって駆け出しの鍛冶師なんだから、いろいろとしょうがないでしょ。探索者だって実戦経験を積んでいって強くなるんだし、なんだってそうでしょ」


 完全に論破された。

 本当にその通りすぎて、マイナスな発言をする気すら起きない。


「あの人達は成長するのが偶然にも速かっただけ。それにそもそもの話なんだけど、鍛冶師としての役割を果たせる場面があったわけ?」

「い、いや。ほとんどなかった」

「戦える人達が強ければ、武器の手入れをする機会は必然的に減る。しかも討伐するモンスターの数が少なければ少ないほど。それで不得意な戦闘面だけを評価され、挙句の果てに活躍をしていないから追放? なにそれ、普通に考えて頭がおかしいんじゃないの。パーティが結成した時にちゃんと知っていたくせに」


 望んでいた通りに怒り始めてくれたけど、その口から出てくる情報はエグすぎる。

 受付嬢であり、その優秀さからいろいろと情報を持っているのだろうが、少ない情報だけでそこまで推測できるのは凄すぎるだろ。


「――っと、いけない。つい熱くなっちゃうところだった。それで、次のパーティを探すんだろうから候補を絞っていかないとね。できるだけレベルが低いパーティの方がいいとして――今のレベルっていくつ?」

「レベル5」

「なるほど。だとして、レベルだけ一緒でも理解がないところはダメで……とりあえず今すぐには探せないから、後日改めてかな」

「ありがとう、助かるよ」

「ううん。これも受付嬢としてのお仕事ですから」


 爽やかなお仕事スマイルを返され、なぜか俺は安堵した。


「あ、でも。あの人達がまた来ちゃうんじゃないの?」

「それに関しては心配しなくて大丈夫だ。なんせ、拠点を変えるらしい」

「ふーん。予想するに、一心が居なくなったからお金も浮いたし生活水準を上げようって考えなんだろうけど、すぐに破産するわね」

「俺はそう思わないが」

「確かに1人分の費用は浮くかもしれないけど。でも、武器の手入れは一心がやってたんでしょ?」

「うん。宿で休んでいる時とか、みんなが買い物へ行っている間にやってはいた」

「だったら、やっぱり後々になって一心が居なくなって後悔することになるわよ」

「そうか……?」

「知らないと思うけど、武器を手入れできる人ってかなり少ないし、ましてや鍛冶師ってさらに少ないんだよ? 仲間に居る時は気づきにくいだろうけど、その重要性はもっと認知されるべきなんだよ」

「な、なるほど」


 俺は、今の美和が言ってくれているほど誰かに認められたことがない。

 本来ならば喜んだりするべきなんだろうが、反応に困ってしまう。


「とりあえず、今日はいろいろとありがとう。本当に助かったよ」

「いいの。私は受付嬢である前に、いつだって一心の味方なんだから。相談したい時はいつでも私のところに来てね」

「ああ、そうするよ。それじゃあまた明日」

「うん、また明日」


 ここへ来た時の心持ちはどこかへ消え、清々しい気持ちで探索者組合を後にした。

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