星の使者

 雪の降り積もる星月夜。

 記憶を失った少女は、たったひとつの所持品を手に、街外れの時計塔へとやってきた。時を刻むことなく、静かに眠った天文時計。その文字盤と、自身の懐中時計のそれが、著しく似ていることに気づく。

 使い方などわからない。わからないはずなのに、気づけば懐中時計を空へと掲げていた。

 錆びついた音とともに、天文時計が動き始めた。まるで、彼女が来るのを待ち侘びていたかのように。

 空が割れ、辺りが光に包まれる。

「やっと迎えに来てくれたのね」

 

 誰もいない雪原。

 再び眠りについた天文時計の下には、白いカラスの羽根が一枚残されていた。

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