【掌編集】琥珀のかけら

那月 結音

時を食む

「不味い」

 目の前の男が、顔を歪める。整い過ぎたその容姿から発せられる低い声に、全身がぞわりと波立った。

 今しがた、彼は私の時間を食べたらしい。

 ……記憶がない。たった数十秒の出来事のはずなのに、記憶がごっそりと抜け落ちている。自分はいつのまに道路を横断してしまったのか。

 振り向けば、一台の車が、猛スピードで赤信号を突っ切っていった。

「あー不味い」

 舌舐めずりした彼が、不敵に笑った。

 彼は、確かに私の時を食んだのだ。

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