幕間 明日へ向かって

 ――愛純に会いに行く。


 そう言って、ムーちゃんはわたしの元を去って行った。


 それを見送った後、わたしはしばらく放心状態で、天井を見上げていた。


「終わったんだなぁ……」


 わたしは、負けた。


 結局、幼馴染なんて負けヒロインなのかな。


 三年ぶりに戻ってきた幼馴染って、激強いと思ったんだけどな。


 それ以上の強キャラが、ムーちゃんの身近にはいたらしい。


「ああ、そうだ」


 わたしはあることを思い出して、自分のスマホを取り出した。


 とりあえず制服を全部脱いで、下着姿になる。パシャパシャと自分の下着姿を自撮りして、また制服に着替える。


(ムーちゃんは身体だけの『愛』は求めてないとか言ってたけど……ムーちゃんにも性欲はあるわけで、エロ方面からわたしの魅力を伝えていくのも悪くないよね)


 なんだかんだ言っても、エロは武器だ。そこはこれからも、存分に活用させていただく。


「ああ、でもよく考えたらわたし、ムーちゃんのLINE持ってないんだっけ」


 こんな自撮り写真を撮っても、彼のLINEを持ってないなら送れない。しかも、あすみんはわたしとムーちゃんがLINE交換するの嫌がるだろうしなぁ。はあ……。


 わたしは大きなため息を一つ吐いた。でも諦めないよ、わたし。


「ヒメちにも報告しなきゃな」


 わたしは今朝のうちに、ヒメちとはLINE交換をしていた。お互いに情報交換を行うために、ムーちゃんよりも優先的に彼女の連絡先をゲットしたのだ。


 わたしはヒメちとの個人チャットを開き、ぱぱぱっとメッセージを打ち込み、送信する。


【ごめんヒメち。二人を別れさせるの、無理だった】


 既読はつかない。返信を待たずに、わたしはさらにメッセージを送る。


【でも、ムーちゃんに好きになってもらおうと努力すれば、ムーちゃんはそれをちゃんと見てくれるって言ってくれた。ヒメちも、ムーちゃんに気持ち伝えてみたらどうかな? きっとムーちゃんなら、ヒメちの気持ちも受け止めてくれるよ】


 そう送った後、わたしは無責任にも「頑張れ!」というスタンプを送った。わたしがヒメちの気持ちをムーちゃんにバラしてしまったことは言わなかった。言えなかった。


(そういうところが、わたしのズルくてダメな部分なんだよ)


 今は無理でも、これからそういう部分を変えていけるように努力しよう。それが、ムーちゃんに好かれる上で大事だと思うから。


(まあ、ある程度の狡猾さは、残しておきたい気持ちもあるけど)


 きっとそうでないと、ムーちゃんを落とせないとも思うから。要するに、ほどほどに改善していくってことで。


「さて、帰ろうかな……」


 今日は一人でカラオケでも行って、思いっ切り歌おうか。そうすれば、少しは気分も晴れるだろう。


 そう思って立ち上がると、わたしのスマホがぶるっと震える。


 スマホの画面を見ると、ヒメちから返信がきていた。


【報告ありがとう】


 わたしの計画は失敗したのに、わざわざありがとうって言ってくれるなんて、この子はなんて良い子なんだろう。


 立て続けに、ヒメちからメッセージが送られてくる。


【アタシ、頑張るっ!】


 その文字を見て、わたしの顔は自然と笑顔になっていた。


 わたしは応援の意味を込めたスタンプを送って、スマホを学生鞄にしまった。


 教室の窓から空を見上げて、大きく伸びをする。


「わたしも頑張るっ!」


 空にそう宣言して、わたしは特別教室を出た。


「でも帰ったら悲しみのオ◯ニーしよ……」


 それくらいは許してね、ムーちゃん!

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