久しぶりの青春

睡田止企

プロローグ

 令和五年十月三十一日。

 S市立S高等学校では、令和元年以来、四年ぶりの文化祭が行われた。

 ハロウィンが始まる以前からの風習で、私服登校が許可される文化祭においては、仮装をする文化があった。

 学校としては四年ぶりの開催となるが、在校生にしてみれば一年生から三年生まで全ての生徒にとって初めての文化祭となり、大いに盛り上がるはずだった。

 しかし、文化祭中に起こった二つの事件により文化祭は静かに暗く終わることとなった。

 事件の一つは、窃盗事件で、空き教室から金目のものが盗まれた。

 もう一つの事件は、生徒の死で、転落死した生徒の死体が見つかった。

 死んだ生徒の名前は金子かねこ光士こうじ

 ミイラ男の仮装姿で発見された。


 月原つきはらじんは文化祭で起こった事件の被疑者になっていることを幼馴染である火村ひむら灯子とうこに相談をしていた。

 時刻は文化祭当日の令和五年十月三十一日の夕方。

 場所は灯子の部屋。仁は勉強机に備え付けられた椅子に座り、灯子はベッドの上に座っている。

「それでさ、なんか僕が疑われているんだよね」

「窃盗の方だよね」

「もちろんそうだよ。いや、もちろん窃盗容疑であってるっていうと僕に窃盗のイメージがあるみたいだけど、もちろん金子の死に関わってる訳じゃないって意味でね」

「分かってるよ。それで? なんで疑われてんの?」

「僕のカバンに盗まれた物が入っていたんだ」

「何が入ってたの?」

「財布とか、タブレットとか、充電器とか。盗まれた物が全部僕のカバンに入ってたんだ」

「その感じだと、間違って紛れ込んでいたって感じでもないな」

「そうなんだよ。それでさ、やってないって言っても信じてもらえなくてさ」

「まあ、そうだろうな」

「灯子が文化祭に来てれば一緒にいただろうから盗んでないっていう証人ができたのに」

「行っても行かなくてもいい学校行事なんて行かないよ」

「いや、高校最後の文化祭なんだから行くよ、普通は。しかも、僕たちなんてコロナのせいで高校生活初めての文化祭なんだから」

「で、信じてもらえなくって、今どういう状況なの?」

「カバンの中のものは全部持ち主に返して、僕をどうするかは、職員会議で決めるから今日は帰れって」

「あー、なんか思ったよりヤバそうだな」

「そうなんだよ。だからさ、助けてほしいんだよね」

「助けるって?」

「本当の犯人を探してほしいんだよね」

「私に? 犯人探しなんて何すればいいか分かんないんだけど」

「他に頼める人いないんだよ」

「友達いないもんな」

「お互いにね。ねぇ、頼むよ」

「えぇ……。私今日学校行ってないから、誰が怪しいとか分からないしなぁ」

「最悪、僕が退学とかになったら灯子も困るだろ、学校に友達一人もいないの」

「うーん。言ってもあと六ヶ月だけだしなぁ」

「………………」

「まあ、やるだけやるけどさ。期待はすんなよ」

「ありがとう」

「はぁ……。じゃあ、今日の朝から仁が何をしていたか、話してみて」

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