幕間2 天地に満ちよ ピアニストたち ー後編ー




 妙なことが起っている。


 今朝少しだけ目にしたSNSの書き込みで、何やら普段と雰囲気が違う書き込みが目に留まったが、出勤直前だったため、その『ざわめき』の正体をしっかり確かめようとせず、牧村ソヨギはそのまま市役所に向かった。


 仕事中は、そんなSNS上の違和感などすっかり忘れ去っており、再びそれを思い出したのは、昼休みに何気無く携帯端末を開いたときだった。


 みんな、へぐ・あざぜるの話ばかりしている。


 先日、『上三川Deep』の探索をした前後の期間にへぐ・あざぜるについてSNSを利用して調べたことがあり、それ以後、別に知りたくもないのにソヨギのタイムラインはへぐ・あざぜるに纏わる話題をおすすめとして勝手に表示してくる。

 そのような感じで、イヤでもへぐ・あざぜるの情報が集まって来る状況だったのだが、今のコレは明らかに違う。

 普段へぐ・あざぜるの話題などしないようなフォロー対象でさえへぐ・あざぜるの話をしているのだ。


 それらの書き込みは一様にひとつの動画のリンクを貼っている。


 サムネイルからして様子がおかしい。


 燕尾服を着込んだへぐ・あざぜるが恍惚とした表情で仰け反りながらピアノを弾いている。


 タイトルは非常にシンプルで『へぐ・あざぜるとピアノ』とのこと。


 関連タグとして付けられた『#Is the piano noise?』『#ピアノとは騒音なのか?』の2文が妙に目を引いた。

 更に妙なのは、その動画には解説が何も書かれていない。配信側は動画の内容について何も説明せず、タイトルと、ふたつのタグだけを付けて配信をしたのだ。


 イヤホンを用意し、動画を再生してみる。


 再生と共に、ピアノの前に座るへぐ・あざぜるの姿が映し出される。

 非常に高級感のある燕尾服を着ているのだが、若干華奢な体型のへぐ・あざぜるには燕尾服は絶妙に似合わず、お仕着せのような違和感が拭えない姿に思えた。


 どうやら生配信のストリーミング配信らしいその動画で、へぐ・あざぜるはまず、文字盤に10:00の表示されたデジタル時計をピアノの上に置き、ボタンを押す。


 数字が秒刻みでカウントダウンを始める。そしてへぐ・あざぜるは喰い入るように楽譜を覗き込み、探るように鍵盤に指を落とす。


 そう、探っている。

 どこが『ド』で、どこが『レ』なのか探るような手付きだ。

 

 ……SNSによると、へぐ・あざぜるがピアノを弾いている場所が都内の大きな駅の構内に設置されているストリートピアノらしい。

 動画の映像は注意深くへぐ・あざぜるとピアノしか映らないように角度が調整されているが、床の質感や雑踏や音の反響から、なるほど確かに駅の構内らしいなと読み取れる。


 そのストリートピアノで今日の10時頃、へぐ・あざぜるが演奏をしていたようだ。


 いや、演奏をしていない、出来ていない。


 へぐ・あざぜるは目を見開きながら楽譜と鍵盤を交互に凝視し、探り当てるように音符ひとつひとつをたどたどしく鳴らしている。


 ピアノは弾けないけど、義務教育で身に付ける最低限の楽譜を読む知識を動員してなんとか音を出している、というレベルの状態である。


 弾いている曲が『きらきら星』であるらしいと気付けたのは動画再生から1分が経った辺り。

 主旋律でさえ四苦八苦している様子なのにへぐ・あざぜるは両手弾きで演奏に挑んでおり、楽譜と鍵盤を交互に見比べ、両手の指の位置を確かめ、指を押し込む、という動作をゆっくり丁寧に行っているため尋常ではなく演奏スピードが遅い。

 上手い下手とかいう次元よりも遥かに下、そもそもピアノを弾くのが今日初めてではないかと思わせる。


 都会の曇天で星を無理矢理探すような重く暗くたどたどしい演奏が淡々と配信され続ける映像。


 しかし慈悲深くもピアノの上のカウントダウンは刻々とゼロに近付き、残り10秒の辺りでへぐ・あざぜるは居住いを正し、かなり中途半端なパートで恭しく鍵盤を押し込み、音楽の歓喜に身を任せるように身体を仰け反らせ恍惚とした表情を浮かべ最後の一音とした。


 まるで、天才ピアニストが全霊をかけてひとつの音楽を造り上げたかのような大袈裟さで。

 上っ面の取り繕いっぷりに恥も外聞も無い。流石、第一線で活躍している迷惑系動画配信者と言わざるを得ない。


 タイマーがゼロになったあと、映像はそのまま切り替わる。著作権フリーの楽曲をBGMにどっかのスタジオで人を馬鹿にしたようなダンスを踊るへぐ・あざぜるの姿を映しながら『チャンネル登録・高評価よろしくお願いします!』のテロップが流れる。


 なんの説明も無いまま、動画が終了してしまった。


 ……起ったことを纏めるとこうだ、へぐ・あざぜるが、駅に設置されたストリートピアノで、全くピアノが弾けないのにピアノを弾いたのだ。しかもそれをわざわざ生配信で全世界に配信している。


 一体何だったんだこれは?


 映像の感想云々以前に、映像の意味がわからず、ソヨギはただただ困惑させられた。


 10分強の映像の下手くそ未満の演奏風景を再度思い返したが、何かメッセージが隠されている様子は全く見て取れなかった。






 ……その後、へぐ・あざぜるの演奏が何だったのか知るために昼休みの間中SNSを渡り歩いて情報を集めた。その結果、想像を絶する珍妙な事態が世界中で起こっていることが明らかになった。


 全くピアノが弾けないにも拘らず人々が往来する只中でストリートピアノを弾く行為は、へぐ・あざぜるの独断ではなく、世界中に設置されているストリートピアノで同時多発的に行われている活動らしい。


 ソヨギが昼休みに携帯端末を覗いているいまこの瞬間も、世界各地の駅や、空港や、街角に設置されているストリートピアノで同時に演奏が行われている。


 しかも、その演奏者全員がピアノ初心者。


 へぐ・あざぜる程度の演奏能力しかない集団が世界中のストリートピアノを占拠しているのだ。


 いや、正確には占拠ではない。


 どのストリートピアノにも5人前後のピアノ初心者が並び、ピアノを設置した団体が規定するルールやマナーを守って利用している。

 『ご利用は10分以内でお願いします』と看板なりに書かれていればキッチリ10分間の演奏で後続のピアノ初心者に交代し、『ご利用は1~2曲まででお願いします』とどこかに書かれていれば、そのたどたどしい演奏で2曲たっぷり演奏する。


 演奏を終えたピアノ初心者は、そのまま何食わぬ顔で列の最後尾に並び、次のピアノ初心者が演奏を始める。


 ……一人の演奏者がストリートピアノをルールで定められた時間を大きく超えて演奏を続けマナー違反を指摘される、みたいな話をたまに耳にするが、彼らはその問題を事前に回避するためにストリートピアノ一台につき5人の参加者を集め、ローテーションを続けることで一人の演奏者が長時間占拠するマナー違反を避けている。  

 長時間特定の集団でピアノを独占している状況には変わりなく、まぁ十分マナーは悪いのだが、一応脱法だと言いたいのだろう。


 ちなみに、この5人以外の後ろに並んで別の誰かが演奏しようとしてもピアノ初心者達は特に止めようとしない。

 粛々と順番待ちを続け、自分の番が来れば、その演奏技術(の無さ)を存分に披露する。

 

 謎の対抗意識でピアノ経験者が並んで演奏する姿が稀に見られたそうだが、ただ淡々とローテーションを続ける5人組の数の優位と平然と40分並び続ける意志性に根負けし、いつの間にか去っていくケースが殆どだった。


 ルール・マナーの順守は演奏風景の撮影にも反映されており、動画配信されている下手くそな演奏風景は全て演奏者とピアノのみが映るように調整されており、周囲にいるであろう観覧者の姿が一切映っていない。

 それにどうやら全面的に撮影や動画配信が禁止されている場所では、配信は行われず、撮影機材が無い状況で5人組が並んで旋律の連なりに欠ける演奏が繰り広げられているらしい。


 SNS上にはピアノ初心者達が各所に設置されたストリートピアノを演奏する姿がそれを取り囲む群衆と共に映し出されている写真や映像が幾つも掲載されているが、 それらは通行人が勝手に撮ったもので、ストリートピアノを占拠する集団が撮ったものではないらしい。


 恐らく無断で撮られたのであろうネットワークを行き交う映像群は、世界中のストリートピアノの様々な情景を映し出す。




 オーストラリアの空港では草原に落としたコンタクトレンズを探すように恐る恐るといった指遣いで『サウンド・オブ・ミュージック』が奏でられ。


 アメリカの広場の噴水前では暗闇で足元を確かめるような全く疾走感の無い『トルコ行進曲』が弾かれ。


 イギリスのショッピングモールではサビに入ってからようやく曲名が判断出来、観衆から変な溜め息が漏れた『ウィー・アー・ザ・チャンピオン』が披露され。


 オランダの歩行者天国では繰り返される有名なメロディの部分だけ妙に流暢になる『エリーゼのために』が鳴り響き。


 シンガポールの駅では果てしなく繰り返される酷い演奏に通行人と奏者達が軽い揉め事になり。


 日本ではへぐ・あざぜるとハイタッチして入れ替わったピンク髪の若者(それなりに有名なストリーマーらしい)が水底へ沈み這い上がって来られなくなりそうな『浦島太郎』が駅構内の雑踏に加わる。




 つまりこの世界中のピアノ初心者集団は最大限マナーやルールを守った上で世界中のストリートピアノでたどたどしい演奏を一日中続けることを目的に活動している。


 このピアノ初心者集団の異様な点はまだあり、これほどに大規模な活動にも拘わらず、自分達が何をやっているのか一切明言しないのだ。

 彼らの活動に何の意図があるのか、参加者は誰一人発信しようとしない。

 騒ぎを起こすことを金儲けの手段と捉えているへぐ・あざぜるでさえ、事前予告無しにこの国際的事業に加わり、生配信から2時間以上経った今に至るまでなんの発言もしていない。


 そのせいで、SNSでは様々な憶測が飛び交い、議論が戦わされていた。

 こいつらは、一体何がやりたいのかと?


 ソヨギは、ピアノを弾く人々の真意が知りたくて様々な意見を眺めていたが、途中から、ある特定の意見を中心に集めている自分自身に気付いた。


 そう、多分へぐ・あざぜるの演奏を聴いた時点で、何となくソヨギ自身の中で答えが出ていたのだ。


 世界中で行われている活動の真意を確かめるため、というより、自分の中の『答え』を明文化するための意見を探すためにSNSを利用してしまっていたのだ。






 人前で即興で一芸を披露して周囲から瞬く間に喝采を受け注目を集める。


 そんな光景に出くわしたことが人生で何度かある。


 ちなみにソヨギにはそんな技能は無い。完全に喝采する側の人間だ。


 チートスキル『グングニル・アサイン』はそういう一芸には含まれない。

 少なくともソヨギ自身はそういうカテゴリーには含んでいない。


 絵を描くとか、ダンスが巧いとか、ピアノを演奏するとか、それらの技術の素晴らしさと共に、その技術を習得するまでに費やした努力に対する賞賛も含めて人々の心を動かす。ただダンジョンに入ってポッと身に付けただけのゴミスキルは、そういう努力と研鑽の賜物とはまた別のカテゴリーの代物なのだ。そういう喝采やらを受けるべきものではないとソヨギは考えている(まぁ動画配信には利用してしまっているのだが)。


 そしてソヨギは、その一芸にて喝采を受けている人物を傍目に、ぼんやりと嫉妬していることがあった。

 いや、嫉妬と言うほど強い感情ではないのだけれど、ぼんやりと、モヤモヤしたわだかまりが胸中を満たしてくる感覚がある。


 割とその辺の後ろ暗い感情を巧く纏めてくれているSNSの反応集を、この騒動の数日後ソヨギはネット上で見つけ、当日に漁っていたSNSの文章群を思い返すことになる。『ストリートピアノ占拠騒動を可能な限り好意的に解釈してみる』というタイトルの反応まとめ集である。






~ストリートピアノ占拠騒動を可能な限り好意的に解釈してみる~



@Dreturner2002

「あいつらがやったことはただ騒音をまき散らす迷惑行為だ」とか「音楽を冒涜してる」とか批判している連中がいるけど実際は違うと思う。

むしろ『音楽とは斯くあるべし』という固定観念に対する皮肉なんじゃないだろうか?


@MiDNightsGaZe

まぁそもそもピアノが弾けない奴らがストリートピアノを弾いてはいけないって道理は無いしな。


@zzz22zzzMAd

趣旨はぼんやりと理解出来るけど規模がデカ過ぎる。ピアニストへの嫉妬心にどんだけの人間を動員してるんだよw


@zqwnI7ooNbdeh

参加者の目的同様によくわかってない。一日数人しか通り掛らないような僻地のストリートピアノでも弾いてる人間が居たらしいし。

ピアノ1000台を占拠していたとしたら最低5000人? 途中で交代してたり撮影スタッフが同伴してた場合とか、関係者を含めるともっと多そうなんだけどな。


@TinyTeeTimE

そもそもどういう理由でピアノ占拠が行われたかって明かされてないの?


@MiDNightsGaZe

明かされてない。海外で有名なストリーマーらしい〇〇〇〇〇〇が発起人らしいけど、そこからも説明は一切無い。


@BuziiiBeanz

主張が無いのが主張ってことやろうね……


@MiDNightsGaZe

無論主張は成されている。『音楽』という手段で。


@K422Taro

今回のことを『騒音の暴力』とか『テロ行為』なんて言う人もいますね


@Dreturner2002

正直、精神性はテロリズムに近い部分はあると思うよ。


@MiDNightsGaZe

抗議活動を『正当な主張』と捉えるか『テロ行為の萌芽』と捉えるかみたい話になってきそうだけどな……


@TinyTeeTimE

ストリートピアノでちやほやされる奴に対する嫉妬心の暴走で数千・数万人が集まって一日中下手くそなピアノを弾いてたっていう理解で良いのか?


@zzz22zzzMAd

嫉妬心もあるだろうけど……、もっとストリートピアノに対する構造的な部分への皮肉って感じはあるんだよな。

『音楽』とか『演奏者』とかに対してのやっかみと言うより、街の片隅に置かれたピアノで素晴らしい演奏が行われるシチュエーションを勝手に期待する観衆やピアノを設置する側に対する皮肉。


@Dreturner2002

参加者達が音楽やストリートピアノに否定的な考えを持っているわけではないのは参加者達のピアノ演奏に対する姿勢で見て取れる。全員、真剣に音楽を演奏しようとしていた。プロに限らず素人に限らず、10分間真剣に集中してピアノを演奏しそれを一日に何回も繰り返すのは大変な労力。配信されていた映像からも、演奏者達が終始真剣に演奏していたのは見て取れる。

彼らは音楽やストリートピアノを馬鹿にしていた訳ではない。ただ絶望的に演奏が下手だっただけ。

ピアノを弾いた経験の無い人間が他人に音楽を聴かそうとするのは失礼なんじゃないのかみたいな主張をするのもまた頓珍漢極まりなくて、そもそも全世界に置かれているストリートピアノの存在理由が『音楽を通じた地域コミュニケーションの促進』とかそういう感じだったはず。マナーを守って演奏をしている範囲ではその要件を満たしている。その演奏が下手だからダメなんていうのは周りの人間の勝手な理屈でしかない。大衆に届けられる音楽が常に完璧で洗練されているべきなんて考えは、結局それは大衆の傲慢だから。


@MiDNightsGaZe

まぁ現に、先日の同時多発下手くそ演奏のお陰で世界のコミュニケーションが活発になっている訳で……。


@zzz22zzzMAd

言いたいことは何となくわかるんだよ。でもこの主張ってどこまで行っても音楽で目立ってる奴らへの僻みでしかないんだよねぇ……


@Dreturner2002

それはそう。でもそんなことをただ口で主張した所で非生産的な無能の悪口にしかならないから、その無能ぶりをエンターテイメントに昇華させなければならなかった。

彼らの目的はストリートピアノの『正しい在り様』を固定化させて消費していたありとあらゆる人間へのアンチテーゼだったんじゃないかと考えている。


@TinyTeeTimE

でもまぁ、ストリートピアノ弾いて目立ってた奴らへの嫌がらせみたいな部分も大きいと思う。


@Dreturner2002

まぁ正直、それは大いにあると思うw






 持たざる者の嫉妬心をエンターテイメントで包み込んで提供する執着。


 多分へぐ・あざぜるが弾けないピアノを公衆の面前で無理矢理弾いている姿を動画で観た時点で、ソヨギは無意識化でぼんやりと共感していたと改めて振り返った。


 ソヨギは基本的に、『持たざる者』の立場で物事を見ている節がある。動画や現実で、他の『ちゃんとした』ダンジョン探索者達の地に足の着いた高い能力を見せつけられている自分と、公衆の面前で下手くそなピアノを弾いた彼らに重ねてしまう部分があったのだ。


 無論まぁ、こんな劣等感を吐露した所で負け犬の遠吠えにしかならない。


 だから彼らは吠えなかった。


 無言のままストリートピアノの前に座り不快極まりないほぼ騒音に近い音楽で世界を包み込む道を選んだ。


 その不満に正当性など何もない。

 ただ不満は不満として常に燻り続けを、不満と気取られない形で表明せねばならなかったのだ。


 そして、へぐ・あざぜるがこの騒動に参加しているのがソヨギにとって多少ショックで、へぐ・あざぜるはそういう『凡人の劣等感』を理解出来てしまう側の人間だということがここから見て取れる。


 へぐ・あざぜると共感してしまえる部分が存在してしまった事実が、ソヨギを軽く憂鬱にさせるのだ。






 騒動当日の19時半頃、自宅に帰ったソヨギの元にSNSのダイレクトメッセージで灯藤オリザから画像が送られてきた。弾いてるとこ、見てきたよー。というメッセージと共に。


 画像を確認すると、群衆に囲まれた中でロン毛の男が両手をピアノに添え楽譜を睨み付けているシーンだった。場所は屋内、多分何処かの駅と思われる。




ソヨギ:これだけ見たら、上手いのか下手なのかわからない。名ピアニストの風格  

  があるようにも見て取れる。


オリザ:ちゃんと下手だったよ。聞くに堪えない『ふるさと』だった。


ソヨギ:聞くに堪えない(笑)


オリザ:動画も撮ろうかと思ったんだけど、無断撮影は良くないよねぇと思って止め

  た。ホントはこの画像も良くないんだけどねぇ。


ソヨギ:まぁ、厳密にはあんまり良くないね。


オリザ:周りの人の何割かは演奏を固唾を飲んで見守るみたいな感じになっててすご 

  い独特な空気感になってた。


ソヨギ:……子どもの発表会を見守る親みたいな感じ?


オリザ:そう、そんな感じ。演奏が終わる度に軽い歓声が起きてたし。


ソヨギ:マジかwww




 ……オリザはこの騒動もある種のエンタメ・お祭り騒ぎとして無邪気に消費しているようだった。

 多くの人々にとっては『どこかの変わり者が主催した奇妙なイベント』程度の印象しか受けないのかもしれない。


 ちなみに、オリザは子どもの頃、別にピアノを習ってはいなかったと思う。


 ただ何故かハッキリと記憶に残っているエピソードは、小学校の音楽室で、ピアノを習っていたオリザの友達と二人で、並んでピアノを連弾しているオリザの姿だ。

 ピアノを習った経験の無いオリザだったが、その友人に軽くピアノ弾き方を教わり、数分も経たないうちに美しいアンサンブルを成功させていたシーンを、ソヨギは何故かありありと思い出すことが出来た。




 オリザには彼らピアノ初心者達の奇妙なイベントをただただ楽しみ、その奥の後ろ暗い意図に気付かないでいて欲しいと切に願うソヨギであった……。





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