あとかたもない

香坂 壱霧

第1話

 寝苦しい夜が続いていた。


 エアコンが効いているはずなのに、ねっとりとした汗が滲む。額や背中の汗が、きもちわるい。

 ベッドのそばの水のペットボトルに手を伸ばす。

 起き上がって少しだけ口に含み、時計を見る。


 午前三時。

 まだ眠っていたい。

 再び横になり、目をつむる。

 私しかいないはずの部屋のはずなのに、何かがいる――ような気がする。

 生ぬるい空気が揺らいでいるように感じるから。

 じっとりとした空気が、視界の隅にあるような――。

 みえていないうちは、気のせいでいい。




 熱帯夜は続く。

 人工的な冷たい空気のなか、寝つけなくても目はつむる。

 今日はアレを感じない。ただ、足の指が妙に冷たいだけ。

 それだけだ。

 



 休日の昼間、暑さで外出する気分にならず、本を読んでいる。

 静かな部屋にスマホの通知音が響く。画面には、雨雲が近付いているという天気アプリからの通知が表示されていた。

 外が次第に暗くなっていく。雨雲が近付いているんだろう。

 本を閉じた。

 からだがだるくなっている。寝つきが悪い日が続いているせいかもしれない。

 ベッドに横たわり、一時間後に起きるようタイマーをセットする。

 

  

 

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