第5話

結局私には、錬金魔法も火属性魔法も使う才能はあった。しかも、人より多い目の魔力もあった。

あれから20日間、私の修業はひたすらに精銀作成。

おかげで、コツが掴めたのか量も速度も上がっている。

その外にも、自分が作る商品の具体案を書き出し、模様や金具位置などを考えてまとめていった。


「エリア、随分熟達してきたね。そろそろ、成型してみる?」

「いいのですか?」

「うん、作るものの案はできているんだよね?見てもらったやつでいいのかな?」

「はい!お見せしたものです」

「では、成型に入ろうか。それと、明日もお店の表は任せてもいいかい?」

「はい。お店はお任せください。では、今日の目標は、成型ですね」

夕食後の時間を私の修業に充ててもらっているので、あんまり長くは修行できない。

それが逆にいい重圧となって、私の成長を助けてくれているのかもしれない。

私の仕事は、お店の番と補充陳列、会計と梱包。

二人で朝晩の掃除片付けをして、閉店。

彼はたまに、呼び出されたり完成した商品を届けたりで出かけていく。

忙しいけれど、充実した毎日を送っていた。


「うん、初めてでここまで滑らかに成型できたのはすごいね。エリアは将来有望みたいだ」

「ありがとうございます。きっと、クレメンテ様の商品を作る姿をずっと見ていたからですわ」

「ありがとう。エリアは、素敵な奥さんで優秀な弟子だね。僕は、幸せ者だ」

「あなた…恥ずかしいです…」

イチャコラしながらの平和な毎日が、突然破られたのは、そのすぐ後だった。



「エリア、行ってくるよ」

「お気をつけて…」

その日の朝、開店後すぐにお店の扉を開けたのは、王城からの使者だった。

曰く、緊急案件につき、使者の乗った馬車で王城まで来るようにとのこと。

彼は、最低限の身だしなみを整える時間だけを貰って、馬車に乗り込んでいった。

私は、店番をしながら、初めての銀細工の制作に取り掛かった。

見習いの習作として安価で売り出される予定の商品は、手紙を書く時などに使われる重石。

透かし彫りができれば格好いいものが出来るが、私の力量ではまだ出来ない。

だから、作るのはきれいに整えた上部に大き目の彫りを入れたもの。

持った時の感触も考えて、上面の角には丸みをつけたり、彫った面にも少しの丸みと滑らかさを出したいと、悪戦苦闘中。

クレメンテ様が帰ってきたのは、夕食後の修業を始めて暫く経ってからだった。

「ただいま。遅くなってごめん」

「おかえりなさい。お食事は?」

「食べるよ。あちらで頂いたけど、食べた気がしなくって…」

「ふふ。すぐに用意しますね。座って待っていて」

パタパタと一人分の食事を食卓に並べて、彼の正面に座った。

「ん、おいしいね。肉がほどけていくようだよ」

「今日のホロッカの肉は、時間をかけて煮込んだの。大成功ね」

「いつもありがとう」

「どういたしまして。それで、何のお話だったの?」

食べながら話してくれたことを要約すると、国外から大事なお客様がいらっしゃるお土産の銀細工をクレメンテ様に作ってほしいとのことだったらしい。

最近のクレメンテ様は、国内有数の銀細工師として名が上がってきていた。

お客様の国まで名が通るほどの銀細工師になってるとは驚きだったけど、誇らしい気持ちでいっぱいになった。

問題は、お客様が物作りに定評のあるドワーフ族の王族であること。

ドワーフ族は、美しいものや精巧な作りのものとお酒が大好きな事で有名で、審美眼は相当なもの。王族ともなれば、尚更。

クレメンテ様は、自分でいいのかと何度も確認したらしい。

お父様曰く、「美しさで有名な王女が降嫁した、名うての銀細工師渾身の一品が欲しい」との御指名なので頑張ってくれとのことらしい。

そんな話をされながらの食事では、食べた気がしなくても当然だと思う。しかも、食事の相手が国王であり義父なのだから、味すらしなかったのではないかとも思う。

「なんというか、私のせいでごめんなさい?多分、まだ私が生まれたての頃にご挨拶にいらした時の、『美人になったら、うちの王子の嫁に』って言う冗談の延長だと思うわ…冗談の話だよと、お父様は言ってらしたのに…」

「ふ…ふふ。いや、エリアが謝ることじゃないと思うよ。君は、生まれた時から、美人だったんだね。大丈夫、何とか頑張るよ。だから、どんなものがいいのか案を一緒に考えてほしい」

「それは、もちろん。一緒に頑張りましょう。あちらの方々は、緻密な意匠を好むといわれていますもの、あなたの腕ならきっと気に入ってもらえるものが出来るはずです」

「ありがとう。先ずは、今ある物を終わらせてしまわないと…」

「案は、いくつか考えておきますわ。あなたは、今ある案件に集中して終わらせてくださいませ」

「うん。お願いするよ。エリアがいてくれてよかった


こうして、私とクレメンテ様の職人としての戦いの火蓋が切って落とされた。

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