第39話国籍

次の日。


俺がちょうど車椅子に乗ったところでスマホに電話がかかってくる。


まだ完全に開いていない目をこすりながら自分のスマホに表示されている電話に出る。


「もしもし」


「ちょうど起きたところか」


「ああ」


「よくわかったな」


あくびをしながら答える。


本当に見計らったようなタイミングだ。


「俺の家に防犯カメラでも仕掛けてるのか?」


冗談交じりの口調で言う。


「そんなことより昨日お前に頼まれた件だが」


「分かったか!」


「ああ、お前の予想通りだよ」


「トップのやつらは全員既婚者で元中国人だ」


「まさか2つの国籍を持ってたとはな」


「あの宗教の建物が中国にあるってことが分かった時に気づいてもよさそうなもんだったんだけどな」


「つまりあの情報屋の人が言ってたことは間違ってなかったってことか」


確認を兼ねて調べてもらった情報を一通り教えてもらう。


「それだけ分かれば十分だ」


「ありがとうな色々調べてくれて」


「別にこのぐらい何でもねぇよ」


「まぁちょっと危ない橋を渡ったりしたけどな」


「今回の礼は必ずする」


俺がちょうど電話を切ろうとしたところで。


「あ!真神」


「なんだ?」


再び自分のスマホを耳に当てる。


「気をつけろよ何があるかわかんないからな」


とても静かなでもとても真剣な口調で一言言ったその言葉は若干の不安を宿しているような気がした。


「ああ、言われなくてもわかってる」


俺は言葉を返して今度こそ電話を切った。


無月がいつも通り朝ご飯を作りテーブルに運んできたところで俺もいつものテーブルの位置に着く。


「無月さん」


「何?」


「俺は今まで情報を集めてそれらしい事実をでっち上げ無月さんを納得させるつもりでいました」


その言葉には何も答えず黙って無表情のまま聞いている。


「ですが、嘘の事実をでっち上げる必要はなくなりました」


「つまり?」


「つまり今から俺の推理ショーを見てもらうということです」


「分かったわじゃあ聞かせてもらおうかしらあなたの推理とやらを」


「それじゃあ行きましょうか」


「行くってどこに?」


「今からあなたの推理ショーが始まるんじゃないの?」


「その推理ショーを始めるためにもう1人重要な人物を踏まえて話をしなければいけません」


いつもは比較的無表情だがその言葉をうまく理解できていないようで首をかしげている。


俺は犯人がいる、無月の家庭を破壊した加害者がいる場所へと向かう。



「あなたが推理を始めるために必要な人物が今から向かう場所にいるっていうの?」


「ええ、俺の予想が正しければこの場所にいるはずです」


俺は行ったと同時に車椅子を漕いでいた手を止める。


「ここって宗教が入ってる建物じゃない」


「ここにいるって言うの?」


言葉は返さず強くはっきりと頷く。


中に入る。



「すいませんこの方って今どこにいますか?」


受付の人に前見せた写真と同じものを見せる。  


「この方なら今いると思います」


「その方がいる場所まで案内いたします」


「ありがとうございます」


俺たちはお礼を言って後ろについていく。


「こちらがその方がおられる部屋になります」


「それでは私は仕事がありますのでここまでで」 


もう一度2人でお礼を言って3回ドアをノックする。


失礼しますと言いながらドアを開ける。


「お久しぶりです璃司りしさんいや…」


張俊ちょうしゅんさん!」


「何ですかそんな人知りません私は…」


「何ってあなたの本当の名前ですよ今のあなたになる前のね」


俺は言葉に被せるように少し大きな声で言った。


「確かに私は結婚して名前は変わっていますがそんな名前ではありません!」


その言葉は一切無視して俺は言葉を続ける。


「あなたは30年前中国の宗教団体の爆発事故に巻き込まれ右の頭に大火傷を覆ってしまった」


「くだらないそんなのあなたの妄想だ」


鼻で笑い飛ばし言葉を否定する。


「だったら見せてくださいよ俺の推理がただの憶測だって言うなら自信を持って見せられるはずです」


「その修道服に隠れた頭の部分」


「私の頭にそんなものはない!」


「だったら見せられるはずでしょう」


「見せられないからそんな言い訳をしてるんじゃないんですか?」


冷静な口調で俺は詰め寄っていく。


「それはそうですよねあなたが本当に何も秘密を隠していないんだったら」


「あの時代わりの人に俺たちがいる場所に行かせる必要なんてなかったわけですから」


「あなたは俺たちと美術館で会う前に一度直接会うことを躊躇しあの待ち合わせ場所に来ることを拒んだ」


「あなたはおそらく早くの段階から無月が実の娘があなたを探していることを知っていた」


待ったをかけるように無月が手を上げ言う。


「ちょっと待って、あなたの推理には重要な情報が出てきていない」



「あの30年前の事件を取り上げた新聞に載ってた顔とこの人全然違う」


「それにそもそもこの人の顔私のお父さんと全然似てない」


「そうだその子の言う通りだ本当に父親だって言うなら証拠はあるのか!」


「この前あった時無月さんを見て何か言ってましたよね」


「あの時発した言葉はこう」


「幸虧你還活著」


「中国語で生きていてくれてよかったという意味」


「初対面の人間にいきなりそんなことを言うのはどう考えてもおかしい」


「話を少し戻しましょうか」


「顔が変わっているのは今までの人生で2回整形をしているからですよ」


「30年前の爆発事故の消化が終わってすぐそこから抜け出そうとした?」


「でも、もしこの人が私のお父さんだとしたら30年前だから子供だったはず」


「だったら逃げる理由なんてないんじゃ」


「子供って基本的に日本以外の国でも法的責任を負わせることはないんじゃなかったかしら?」


「ただの子供がそんな法的理由なんて考えられると思いますか?」


「しかもそんな爆発が起きたなんていう危機的な状況で」


「確かにそうね」


「あなたは子供ながらにまずいと思った」


「かなり大きな爆発事故だったみたいですし自分の顔がニュースや新聞に取り上げられているんじゃないかと考えて整形をすることにした」



「それからあなたは何らかの方法でお金を手に入れ整形をしてもらうことができた」


「まだその時10歳程度だったあなたが普通の病院で整形の手術を受けられるとは到底思えません」


「なのでどこかの藪医者にやってもらったんでしょう」


「まだその時10歳程度だったあなたが普通の病院で整形の手術を受けられるとは到底思えません」


「なのでどこかの藪医者にやってもらったんでしょう」


「そう考えると顔のところどころにある傷跡も頷けるんですよ」


「まさかそれだけの理由で今あなたたちが探してる人が私だと言うんですか!」



「それに私のお父さんは記憶してる限り今40代ぐらいだと思うけど!」


「失礼だけど今そこにいる人はどう考えても40代以上だと思う」


「それはおそらく整形の後遺症で皮膚組織が劣化し実年齢より老けてしまったからです」



「俺は初めてあなたと会ってお茶をした時違和感を感じたんです」


「ようやくその違和感の正体が分かりました」


「あなたはあの時コーヒーを持っている方の小指が立っていた」


「あれはただの私の癖で」


「普通の人はその言い分で納得するでしょうね」


「ですがあなたのそれは爆発事故に巻き込まれた際に残ってしまった後遺症の一つです」


「なんであなたにそんなことがわかるんですか!」


「それは俺が生まれつき脳性麻痺の障害を持ってるからです」


「俺も飲み物を飲むときそういう風になるんですよ」


「初めて会った時は確証は持てませんでしたけど後になってよくよく考えてみたら身体障害の独特の指の症状だって気づいたんです」


「もういい!」


いきなり大きな声で言葉を発した。


「もうそれ以上説明はしなくていい…」


今にも消え入りそうな声で言葉を口にする。


「そうだあなたの言う通り私がこの子の父親だ」


言いながらゆっくりと頭にかぶっていたものを取る。


すると新聞に載っていた写真と全く同じ傷が頭の部分にある。


「いつから私がこの子の父親だと気づいていたんですか?」


「実際に確信に変わったのはあなたとカフェでお話をしていた時」


「あの時か!」


「ええ、あの時会話をしている最中あなたは一度手にコーヒーをこぼした」


「暑いコーヒーを手にこぼしたはずなのにすぐにあなたは暑いとは言わず少し遅れてその言葉を発した」


「人間頭の部分に火傷を覆ってしまった場合温度の間隔を感じることができなくなる場合がある」


「しばらくなぜなんだろうと考えていたら1つの答えにたどり着いたんです」


「30年前の爆発事故に巻き込まれた怪我の後遺症で腕の部分の感覚を感じられなくなってしまったんじゃないかと」


「なるほどあの時もうすでに感づかれていたというわけですか」


「でもあなたの推理は一つ間違っている部分がある」


「間違っている部分と言うか足りない部分と言った方が正しいか」


「あの火事の現場から逃げていた私は闇の組織に顔の写真を撮られ」


「このままじゃその組織に何をされるかわからないと思った私は知り合いの藪医者のところまで行って顔を変えてもらったんです」



「でも私にはまだ分からないことがあるなんでお父さんはお母さんとわざわざ結婚したの?」


「中国から抜け出してくることが目的ならもうすでに達成されてるはず」


その問いに対して気まずそうに目をそらす。


俺が答えていいものかとしばらく悩んだがこのまま沈黙の状態では埒が明かないと思いこう尋ねる。


「無月さん海外国籍の人が日本に住むためには何が必要ですか?」 


「…まさか!」


「そう!国籍を手に入れるための方法は色々ありますが、結婚するのが一番手っ取り早い」


「全部その人の言う通りだ」

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