第35話純白の心
「今日の夜ご飯を作るための材料買ってくるわね」
「それなら俺も一緒に行きますよ毎回1人で買い出し行かせるのも申し訳ないですし」
つい最近にも似たような会話をしたような気がするなと思いながら言葉を口にする。
「別にいいわよすぐそこに買い物行くだけだし」
「だったら俺がついて行っても問題ないですよね」
「あなたがどうしてもついて行きたいって言うなら私には止める理由はないけど」
別にわざわざ一緒に買い物に行きたかったとかそういう理由ではないのだが。
ただ単純にここ最近は家の中でじっとして何かを考えることが多かったのでたまには外に出なければいけないと思いついていく。
俺はもともとどこかに遊びに行ったり遠出をしたりということはあんまりする方ではなかったのだが、さすがにたまには外に出ないとと危機感を覚えた。
だからといって無月と買い出しに行くのが初めてかと言われれば別にそうでもないずいぶん前に1回だけ一緒に外に出たことがある。
「少し前にもあなたと一緒にこうして買い出しに出かけたことがあったわね」
どうやら本人もそのことを覚えていたらしい。
「そういえばそんなこともありましたね」
思い出した口調でそう言いながらなんとなく上に目を向けてみるともうすっかり辺りは暗くなり夜になっている。
「さっきスマホ見てた時にたまたま 押したんですけど今日は気がよく見える日 みたいですよ」
「じゃあ夜ご飯は行事食にした方が良かったかしら?」
「いやいいですよいつも通りで」
「でもこの場合の 行事食って何になるのかしら?」
「やっぱりお月見 なんでお餅 じゃないですか」
「ずっと気になってたんですけど、いつも作ってくれる料理のメニューってどうやって決めてるんですか?」
俺は思い出したような口調で言う。
いつも当たり前のように3色朝昼晩作ってくれるがまだ一度も料理がかぶったことがない。
「小さい時に私が覚えてる料理が多い方なのかわかんないけどそれなりに作れるようにはなったから」
「いくら小さい頃から料理をしていたとしてもそんなに1日の献立って簡単に決まるもんなんですか?」
いくら小さい頃から自分で料理をしなければいけない状況だったとはいえそんな簡単には思いつかないと思うんだが。
「基本的には私が今まで作ったことのある料理の中で失敗したことがなるべくないやつを選んだり」
「後はスマホのアプリで今冷蔵庫の中にある食材を入力すると料理を提案してくれるアプリがあるからそれを使ったり」
「料理のサイトを見て作ってみたりとか色々」
「後あなたに直接何が食べたいか聞いたりとか」
何度か何が食べたいか聞かれたことはあったがほとんど何も聞かれずに作ってもらうことの方が多かった。
「確かに最初の方は何が嫌いかとかは聞かれましたけどそれは本当に最初だけでほとんどなかったじゃないですか」
話をしているといつも無月が使っているスーパーにたどり着いていた。
スーパーの中に入る。
「さて今日のご飯何がいい?」
「うーん…」
「無月さんの手料理が食べたいです」
考えるふりをした後言う。
「あなた真面目に考える気ないでしょ」
「無月さんが料理を作ってくれるまで俺こういうスーパーとかのサンドイッチとかジャンクフードしか食べてなかったんで作ってくれるだけでとても嬉しいんです」
「それじゃあ栄養のある手料理を作ってあげる」
「ありがとうございます」
栄養が取れる食事をと言っているがいつもそこの部分はなんとなく気にしてくれているような気がする。
買い物かごにいくつかの食材を入れそのかごをレジに持って行く。
「会計お願いします」
俺はそう言って財布を取り出し店員に言われた金額を手渡す。
ありがとうございましたと軽く会釈をしながらいいスーパーを出る。
家に帰る道を歩いていると無月がなぜか進めていた足を止め下に顔を向ける。
不思議に思っていると目の前から3人の女子生徒が歩いてくる。
俺はその3人を見てどうして下に顔を向けたのか理由がわかった。
なぜならその女子生徒3人組は無月が持っている高校の制服と同じ制服を着ていたからだ。
「無月じゃん、久しぶりやく1ヶ月ぐらいズル休みしてるけどあんた大丈夫なの!」
3人のうちの真ん中に立っている女子生徒がバカにしたような口調で言う。
「ええ、ちゃんと前期までは学校に行って単位取ってたからそんなにすぐ留年てことにはならないと思う」
女子生徒の馬鹿にした口調など一切気にした風もなくいつも通りの淡々とした冷静な口調で答える。
「私の内申点はそんな簡単に揺らぎませんって優等生気取り!」
苛立ちを含んだ言葉をぶつけてくる。
おそらく分かっているからなんだろう。その言葉に答えてしまったら敵に餌を与えるだけだと。
だから何も答えずに嵐が過ぎるのを待っている。
「そういえば前に貸した漫画2巻とも呼んでくれた?」
短く頷く。
「だったら少しはそのくらい見た目もなんとかなるかと思ってたんだけど全く効果なかったみたいね」
さっきと同じように馬鹿にした口調で言う。
「あのそろそろ行っていいかしらこの後少し用事があるから」
「久しぶりの学校の友達との再会なんだからもうちょっと4人で喋りましょうよ」
「悪いけど私は今そんな気分じゃないのまた今度にしてくれない?」
「まあまあまあそんなこと言わずに」
言いながら目の前の道を4人で両腕を大きく広げ通せんぼする。
「あ!買い忘れたものがあるのでお話のところ悪いんですけど向こうの方に買い物に行ってきますね」
「行きましょう無月さん」
わざとらしい芝居がかった口調でそう言って手を引く。
「はぁはぁここまで来れば多分もう大丈夫だと思います」
上がった息を整えながら言う。
「ありがとう助けてくれて」
「それで買い忘れたものって何かしら、 もうスーパーとっくに通り過ぎちゃってるけど」
「あれはただあの状況から抜け出すための方便と言うか」
「少し疲れましたしあそこのべンチに座って休憩しませんか?」
俺はたまたま横に置かれていたベンチを指差す。
無月はゆっくりとベンチに座りしばらく沈黙の空気が流れる。
「あの子たちね私が通ってた高校の同じクラスメイトなの」
俺はその言葉には何も答えず黙って聞く。
「クラスで何度か関わりはあったけど数える程度だったし」
「関わりがあるって言ってもちょっかいをかけてきたり馬鹿にしてきたりのどっちかだったけど」
「ある日あの4人に2冊の少女漫画を渡されたの」
「あなたもこの漫画を読めば少しはそのくらい雰囲気が治るんじゃないって、皮肉を込めてね」
「今まで漫画なんてまともに読んだことなかったけど、でも図書館にある本は結構読んでたか」
「今まで本を買ったことは何度かあったけどそういう少女漫画は1回も買ったことがなかったから」
「その書かれてる漫画の内容を見た時は驚いた」
「明らかに幸がの薄い地味な女の子がイケメンの男の子達にモテるんだから」
「現実世界と漫画の創作物の世界を混同しちゃいけないっていうのは分かってるんだけど」
「それでもそんなことは起こらないよって思った」
苦笑しながら言葉を口にする。
「でも俺もこれは創作物の中の話だって分かってるんだけど思わず現実とのあまりの違いに少しショックを受けたりしますよ」
話がひと段落ついたところで俺も同じように苦笑しながら言う。
「私ね…自分の手首を切ったことがあるの」
言って服で隠れている手首の部分を見せてくる。
「でも結局最後までやりきる勇気がなくて中途半端に血が出てやめちゃったんだけどね」
俺は何も言葉を返さずただ黙って聞く。
「もう戻れないの…」
天を仰ぐようにしながらつぶやくように言う。
その夜空にはっきりと綺麗な月が見える。
「純白の心であの月に手を伸ばしたらどうなるのかしら」
言いながら夜空に浮かぶ 綺麗な月に 手を伸ばす。
「……」
「そろそろ家に帰ってお腹も空きましたしご飯作ってくれませんか」
「そうね帰りましょうか」
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