第29話見え隠れする真実

「もしかしたら何の役にも立たないかもしれないけどもう一度あの日記を読み返してみる?」


「確かまだ全部のページには目を通してなかったはずよね」


日記、無月が住んでいた家から持ってきたその日記は家に持って帰ってきてからまだ一度も開いていない。


俺はそう言われて隣の部屋の本棚から日記を取り出す。


テーブルの上に置きゆっくりとページをめくる。


「それにしても何でいきなりパタッと日記を書くのをやめちゃったのかしら?」


疑問の言葉を漏らす。


「日記を書くことをただ単純に忘れてしまったとか?」


日記を書くという作業をただ単に習慣化できなかったというのは可能性として十分にある。


「ただ日記を書こうとして忘れてただけだったら私も納得できると思うんだけど」


「何のためにこのノートのページを破く必要があったのかっていう疑問はやっぱり残る」



「まぁ普通に考えれば何かの情報を隠したかったからっていうところなんでしょうけど」


俺はこの日記を初めて見た時と似たような言葉お口にする。


「考えられる可能性があるとすれば

お母さんが何かしらの知ってはいけない情報を知ってしまいそれを知らずに日記に書いてしまった」 


「だが後になってなんらかの形でそれを知ってはいけない情報だったと気づき慌ててその日記に書いたページを破いて処分した」


「でもそれって結構リスクがないかしら」


「リスクですか」


「もしその日記を見た時にその破られてる場所を見て何か疑問に思ってお母さんがそのバレてはいけない情報のことについて知っていると考えてもおかしくないんじゃない」



「だからこの日記のノートをそもそも見つけられないようにあの物置の中に隠したってことですかね」


「無月さんが家に住んでた時はその物置に入ったこと一度もなかったんですよね」


「ええ、そうよだからあの時あの物置に出入りできたのはお母さんとお父さんのどっちかだけ」


「私の知らない他の誰かが物置のスペアキーを持ってるとかだったらまた話が変わってくるけど」   


「やっぱりこの日記のページを破ることができたのはお母さん本人かお父さんのどちらか」


もしお父さんの方がこれを破いたとしたら一体何が理由なんだ。


宗教の知ってはいけない内容をしってしまったから?


2人でその宗教に所属していたのだから特に問題はないはずだ。


となると考えられるとすればお父さんとお母さんの宗教の中での立場が違い教えられない秘密を片方が持っていたという可能性の方が高いか。


「このまま頭を悩ませてたって仕方がないしこの前行った公園に行ってみない?」


俺が言葉を返す前に玄関に置いてある靴をそそくさと履き準備をする。


断る理由は特になかったのでその言葉に従う。



公園に行ってみると前に来た時と同じようにジョギングコースで何人かのお年寄りが歩いている。


「公園の中を適当にブラブラ歩いてたら何か思いつくんじゃない」


「そんなに簡単に思いつくもんなんですかね」


そう言いながらも車椅子を漕ぐ。


ゆっくりと前に進みながら今まで集めてきた情報出会ってきた人の言葉を思い出す。


何か俺の考え方の前提が間違ってるのか。


何かに届きそうで何かの道に繋がるドアの前に立っているのになかなかそこに手を伸ばせないような不思議な感覚をずっと感じている。


そんなことを考えているとどこからかボールが転がってきた。


「ごめんなさい」


言って1人の小さな男の子が俺の方へかけてくる。


「大丈夫だよ気をつけてね」


言葉を返すとボールを拾ってあげることができない俺の代わりに無月がボールを拾う。


「ありがとうお姉ちゃん!」


元気に手を振りながらその場を去っていく。


「子供とか好きなんですか?」


「別に好きでも嫌いでもない」


相変わらずのポーカーフェイスではあるがその表情はどことなく嬉しそうな表情をしているような気がした。


「そんなことより少しは糸口は見つかったの?」


「あんまり」


「さっきから考えてはいるんですけどぐるぐる同じところで思考してるような気がするんですよね」


「今まで集めてもらった情報あの宗教の目的日記に書かれていたはずの破られたページ」


ブツブツとつぶやきながら今まであったことを確認していく。


横に無月が立ってくれているのでギリギリ周りから見れば話しているように見えるはずだ。


俺の言ってることに無関心の状態で反対方向を向いていない限りは。 


考えを巡らしているといつの間にかこの前公園に来た時に入った森のような道の前までたどり着いていた。


再びその中へと入る。



この前宗教メンバーの人達から聞いた話と照らし合わせていく。 


ふと1人の人がタンカーで運ばれてどこかに連れて行かれているところを見たという話を思い出す。


もしかしたら…


「何か思いついた?」


足を止め俺の方を振り返り尋ねてくる。  


「ええ、これはまだ単なる仮設でしかありませんけど」


「聞かせてくれる」


「まずお父さんの方の話ですが元中国にいました」


「ですがお父さんは何かが原因で赤ん坊の頃に捨てられてしまいそのまま一生を終えてもおかしくはなかった」


「そんなところに中国の宗教と関わりのある誰かにお父さんは拾われこのままにしておくわけにはいかないということで育てることになった」


「それって…」 


「そうお父さんを拾った人はおそらく30年前に爆発事故を起こした宗教メンバーの1人です」


「その中国の宗教に所属してその事件に関わってた1人ってこと?」


「まあとりあえず最後まで聞いてください」


「それにこれは俺の単なる仮説であって現実ではありません」


それから俺は1つの仮説を話し終えた。


「なるほどそういうことだったのね」


「って言ってもまだもしかしたら新しい何かに気づいてここからひっくり返るかもしれませんけど」


「もういいわ…」


青い空を見ながら呟くように言葉を口にする。


「もういいって何がですか?」


「あなたにこれ以上考えてもらう必要はないって言ってるの」


「それはどういう…」


「お父さんとお母さんが宗教にはまった理由なんて今更わかったところで何も変わらないし」


「私が自殺をやめることもない」 


「だったら私にこれ以上生きる意味なんてない」


「色々とありがとう」


「それじゃあ私はこれで行くわね」


そう言って足早に去ろうとする。


俺はとっさに無月の腕を掴む。


「何!」


平坦な口調ではあったがその口調はいつもよりもどこか強いトゲトゲしい言葉に聞こえる。


俺はその疑問には何も答えずただ無月の目を見続けた。


「あなた私と初めて会った時言ったわよね」


「自殺をしたいと思った人間を誰にも止める権利はないって」


「寸分の狂いもなく同じ経験をした人間はいないから」


真剣な目で静かにその言葉に頷く。


「だったら…」


「だったら何で…」


「あなたは私を止めようとするの?」



「せめて俺の推理ショーが終わるまではこの世界にいてくださいよ」


「もちろん今すぐこの世界からいなくなりたい消えたいと思う気持ちがあるのは分かってます」


「だけどせめて俺の推理の結果を横で見届けておいてください」


「でももう私にはこの世界を生きる理由はない」


「そんなの俺だって何でこの世界を生きてるかなんて分かりません」


「でも死ぬなんて洗濯するのもめんどくさくて先延ばしにしてこの状態」


「でもいずれ死ぬんだったら暇つぶし程度に人生を楽しむのはいいんじゃないかなって最近は思ってるんです」


「だから暇つぶし程度に俺に付き合ってくれませんか?」


「自分で言ってて何言ってるかわかんないんですけど」


「はぁ…」


「ええ、分かった」


「乗りかかった船だし泥船だろうが沈もうが最後まで付き合う」

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