第15話情報発信
俺たち2人その銭湯の風呂から上がり帰り道でさっきの話の続きをしていた。
「今までの情報を踏まえて考えると前に勇輝が言ってた形からは結構逸脱してないか?」
「俺が言ってた事って何だ?」
「随分前に全く新しい宗教を作る場合は人が集まりにくいとかなんとか?」
俺もずいぶん前に聞いた話なので自分の記憶が正しいかどうかいまいち自信が持てない。
「そういえば随分前にそんなことを言ったような言ってないような?」
同じように曖昧な口調で言葉を口にする。
「でもそうか?」
今市納得がいっていないというか腑に落ちていない口調で前に言っていた言葉を鮮明に思い出そうとする。
「今まで手に入った情報を踏まえた上で考えるとその宗教から抜けたり入ったりする人もおそらくいたはずだ」
「今は人数的にだいぶ減ったかもしれないが昔はもしかしたら結構な数いたのかもしれない」
「もしかしたら宗教に隠された何かを目にして気づかれないうちにその宗教から離れようと抜け出したのかもしれないし」
「宗教をやめたんだとしてもそれぞれの別の理由があるとは思うけど」
静かな真剣な口調で俺の言葉に返してくる。
「今日家に来ないか?」
家の近くまで来たところで言を投げかける。
「でもあのお嬢ちゃんに俺が来ること言ってないだろう」
「俺が急に押しかけて行ったら困るんじゃないか?」
「多分大丈夫だと思う」
「真神がそう思ってても向こうは…」
言葉を遮るように言う。
「今お互いが持ってる情報を確認しておきたいし」
お互いの持っている情報に食い違いがないように時々3人で話すのは重要なはずだ。
「分かったよ、確かに俺たちだけでずっと情報交換してるんじゃお嬢ちゃんが仲間外れみたいになっちゃうしな」
「おかえりなさい」
「今日は勇輝さんも一緒なのね」
「急に押しかけちまって申し訳ねぇなお嬢ちゃん」
「いいえ別に私は構いませんけど」
「もしよかったら家で夜ご飯食べて行きますか?」
俺がわざわざ話を持ちかけるまでもなく尋ねる。
「それじゃあせっかくだから頂いて行こうか」
「今日肉じゃがとご飯と味噌汁なんですけどアレルギーとかありますか?」
「いや特に俺はアレルギーとかないから気にしなくて大丈夫だ…」
初めて会った時はお互いに話さなければいけないことがあったから別に違和感はなかったが、 話題がない状態で年頃の女の子と話すのはどこか緊張するらしい。
喋っている間に俺が持ってきた座布団の上に座ってもらう。
ちょうど夜ご飯ができたらしくテーブルの上に支柱とスープとご飯が運ばれてくる。
「いただきます」
3人でそう言って俺は作ってもらったご飯をスプーンで口に運ぶ。
「それで何の話?」
無月がいきなり言葉を口にする。
「わざわざこうして2人で家まで来たってことは何か私に伝えておきたいことがあるからじゃないの?」
話の切り出し方を考えるまでもなく全てお見通しのようだった。
「伝えておかなきゃいけないことがあるというより情報の食い違いがないように無月さんにもこうして改めて伝えた方がいいかなと思って」
「今まで2人が話た情報は私の耳にちゃんと入ってると思うんだけど」
確かに無月には2人で話した情報を伝えてはいるのだが俺が伝える時に情報を誇張していないとも限らない。
もちろん情報を伝える時にはなるべく私情を挟まないようにしているがそれでも100%その時伝えられた情報のまま話しているかと言われればそうとも言い切れない。
それに人から聞いた情報をまた誰かに伝える場合少なからずその情報の伝え方のずれが生じる。
その情報を伝えていく人が増えれば増えるほどその分のずれがどんどんと大きくなっていく。
「俺がちゃんと伝えられているかどうかいまいち自信がなくて今まで集めた情報を振り返るためにもこうして家に来てもらったんです」
それから俺たちは今まで手に入れた情報をおさらいする形で話しながら確認していく。
「なるほどなんか今までの話を改めてこうして聞いてみると全てが怪しく思えてきたわね」
無月がため息まじりの言葉を漏らす。
「それで宗教のホームページのキャッチコピーに骨を埋めるって書いてた人は本当にそれ以外情報がわからないんですか?」
確認するような口調で尋ねる。
「ああ、俺も他の情報がないかとあれからしばらく色々な角度から探ってはいるんだが特にこれといった情報は一切出てこない」
「やっぱりネットで何かを調べるのは限界があるか」
「そもそもその宗教を立ち上げたトップたちは何を考えて人を集めたりしたのかしら?」
無月が素朴な疑問を口にする。
「何かの実験をするために表向きは宗教の団体ってことにしたっていう可能性は?」
「真神がその宗教を立ち上げる立場だったらどうする?」
疑問を疑問で返してきた。
「なんでいきなりそんなこと俺に聞くんだよ」
「得意だろう相手の立場になって考えるの」
「いくら俺が相手の立場になって考えるのが得意だとしても相手の行動パターンとか何も分からない状態だったら意味ないだろう」
「いいからとにかくやってみてくれ」
「やってみてくれって言われてできたら苦労しない」
「勇輝さんがさっき言ってたネット掲示板のユーザーってどんな人なんですか?」
横から話を変えるように行ってくる。
「それはなこれだ」
そのネット掲示板のサイトをブックマークしていたのかすぐに携帯に表示させ見せる。
俺にもその掲示板が表示された画面を見せてくる。
携帯に表示されているユーザーを見てみるとおそらく初期設定のまま何もいじっておらず顔のないグレーのアイコン。
3人でその発信内容を確認してみるとプロフィールの部分で唯一設定されている自己紹介文に書かれている通りオカルト情報メインで発信しているらしい。
話を聞いた時点では宗教のことだけを重点的に発信しているんだと思っていたが宗教のことを発信していたのは一部の投稿だけでいろんな催眠術やオカルト話がほとんどだ。
「私が見た限りだとただオカルト好きな誰かがネットに書き込んでいるだけっていう気がするけど」
「そうかこの中で一番歳が若いお嬢ちゃんだったら別の何かを感じ取ってくれるかと思ったんだが」
「ざっと目を通してみた感じだと言葉の使い方から考えて私と同い年くらいのような気もする」
「40代くらいのおじさんが若者のふりをして掲示板に書き込んでるって言う可能性もあるから断定はできないけど」
自分のスマホで何かを検索しながら答える。
「今そのネット掲示板を私の携帯の方でも調べてみたらプロフィールのところにSNSのリンクが貼られてた」
「SNSの発信内容はどんな感じですか?」
俺が尋ねる。
「発信してる内容については掲示板に書かれてるのとほとんど一緒」
「登校時間もバラバラだから特にインフルエンサーを目指してSNSを運用しているわけじゃないみたい」
「ただ趣味のオカルトのことについて気が向いた時に投稿してるって感じね」
それからしばらく話し合い気がつくともう夜8時を回っていた。
「もうこんな時間だしそろそろ俺帰るは」
「ありがとうご飯美味しかったよ」
「それから真神…」
「もしお前1人で宗教に乗り込んで何が隠されてるのか探ろうとしてるんだったら今はやめておけ!」
いつになく真剣な口調で言ってくる。
「どっちにしろ十分に情報が集まってない今真実をしろうなんて愚策にも程があるだろう」
いずれ宗教の中のことについて調べなきゃいけない時が来るだろうが、今はその時のために他のことも調べておかなきゃならない。
「それならいい…」
最後にそう言って出て行った。
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