第2話「好きにすればいい」
私は小学4年生で恋を知った。
友達が居なくて、今よりもっと汚くて、ずっと歪んでた私に優しくしてくれた人。
当時は結構幼かったから、この想いが恋情であると気付くのに時間が掛かった。でも、気付いてからは速かった。当時はまだ中2だった彼をメールで呼び出し、会って早々に自分の想いを告白した。
「コウちゃん、好きです。つきあってください!」
「…エマ、本気?」
もちろん本気だ。冗談な訳が無い。
「本気!好きなの!」
この告白が、私の気持ちが、嘘や冗談なんかじゃないというのは伝わっていたと思う。でも、彼は無理矢理に本気にしなかった。
「…エマ、まだ小学生だし、流石に速すぎると思う」
1年間ずっと一緒だったので、彼の性格はばっちり把握している。
彼は、私を拒めない。
「じゃあ、中学生になったらかんがえてくれる?」
「あぁ。中学生になったら考えるよ。…その頃には俺のことなんか忘れてるだろうけどな」
大丈夫、絶対に忘れないから。私、耳良いからそんな小さい声で言っても聞こえてるよ。分かってるんだろうけど。
「…ん?」
一応何か言った?みたいなフリをしておこう。
「エマ、そろそろ帰りな。送るから」
「うん!!」
ねぇコウ…私、コウの事が好きだよ。ねぇ、中学生になったよ。いっぱい私の事を考えて。絶対に私の想いは変わらないから。まぁ、嫌なら付き合わなくても良いんだよ。でも、私の事は考え続けてね…一生。
…今、私はコウが通っている高校の前に居る。理由は勿論お迎えだ。私が通っている中学校のほぼ向かいにあるから、これから毎日お迎えしようかな。私は委員会や部活に入るつもり無いし。勉強も他の子よりは出来るから補修の心配も無い。
…早く来ないかな。
「あれ、あっちの中学の子じゃん!誰か待ってんの?」
「…あ、はい」
「へー。てかさ、明日か明後日暇?連絡先教えてよ~」
「ごめんなさい、私携帯真っ二つに割って捻って粉々にしてドブに流したんです」
ナンパを適当にあしらっていると、後ろから私の大好きな声が聞こえた。
「アホか」
「あ、コウ…」
「え、笑もしかして待ってた人って一幡のこと?」
「…そうですけど」
「うっわ最悪、笑てか釣り合わねー笑」
…は?
思わず声が零れる。
「おー怖い怖い笑、睨まないでよ」
「あなた誰?」
内から溢れてくる怒りに身を震わせる。我慢してるつもりだけど、ちょっとだけ外に漏れてるかもしれない。でもそんなことはどうでも良いのだ。
「コイツ顔だけだからマジでやめといた方が良いよ笑」
「おい、
「…犯罪者が俺の名前呼ぶんじゃねえよ」
犯罪者…?
「その女の子もレイプすんの?警察呼んどくか?笑」
あー、思い出した。
コウは中3の時、クラスの女子に告白されたらしい。その女子とは関わりも何も無かったから振ったのだが、それに怒った女子の友達が、「一幡コウはレイプ魔だ」とか、「人から奪ったものを売ってる」だとか、そういう噂を流して回ったらしい。学校中に広まって、常に白い目で見られるようになって。
コウに告白した女子の妹が小学校でそのことについて話していたのを聞いて、私はコウに直接聞くことにした。コウは私に全てを話してくれた。当時小学生だった私は知らないことも多くて、家に帰ってから自分で調べたりしてこの話を全て理解した。
ちなみに、コウの噂を流した女子はどっかの半グレに乱暴されて入院。
「コウ、もう行こ。あの人の名前は?」
「言わない。あまり関わらないで欲しいから」
「…チッ」
ナンパ男は舌打ちしてどこかに行ってしまった。
「エマ、もう高校には来るな」
「…なんでそんなこと言うの?」
「危ないからだ。お前まで巻き込んでしまったら最悪だ」
「別に巻き込んでくれても良いんだよ」
「はぁ…」
コウは大きなため息をつき、私を睨む。
「…好きにすればいいが、本当に危なくなったらやめてくれ」
「うん!」
毎日お迎え作戦は無事成功。迷惑かもしれないけど…
「あと、コウの家お邪魔していい?」
「今から?別に良いけど…」
「久しぶりに行ってみたいんだよねー」
「そう。親居ないから自由にしていいよ」
親が居ない…これはチャンスでは?
まず、コウは私に手を出す。そして私は責任を取ってもらう!…これだと、愛は無いかもだけど。
「やましい事し放題だね」
「やましい事するのはエマだけでしょ」
「…否定はしない」
「おい」
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