第6話

 ダンジョンでの黒上健太との対決以来、

 真田玄の日常は一変した。


〈犯罪者の真田玄くん逮捕まだ?〉

〈高校退学で中卒確定wwwww〉

〈顔からして悪人だとわかるわ〉


 SNSは絶賛炎上。

 鳴りやまない通知でスマホを開くことすらできない。


 真田は学校に登校することもできず、

 暗い部屋にひきこもっていた。

 悔しさと恐怖で身体が震え、目尻に涙がにじむ。


「クソクソクソクソクソぉ……!

 なんでオレがこんな目に遭うんだよぉ……」


 あのゴキガミをイジメていたから?

 そのことを超有名配信者によって全世界にバラされてしまったから?


 けど、悪いのはオレじゃない。

 こんな風によってたかって相手を叩くやつらの方が悪人じゃねえか。

 だいたい、黒上健太をイジメてるのはオレだけじゃないのに。


「あんなやつ……関わんなきゃよかった……」


 真田は布団をかぶり、すすり泣くように嗚咽をもらした。


 +++


「け・ん・た! おはミー☆!」


 朝、学校に行く途中の賢太を、ミーティアが待ち伏せしていた。

 他の女の子と同様の制服姿だが、

 その煌びやかな容姿が、圧倒的な存在感を放ちすぎている。


「あ……おはよう」


「ねぇ賢太、今度はいつ配信する?

 ちゃんとわたしの予定は、ぜーんぶ賢太のために空けてあるからね」


「……そのことだけど……さ。

 そもそも……どうして……僕なんかと」


「えぇぇ! 今さら!?

 そ、そんなの……賢太のことが、めっちゃ好きになっちゃたからに

 決まってるじゃん!」


 ミーティアは大きな目を見開いて言った。

 あまりに当然のように言われたので、

 賢太はそれが愛の告白であるということが、すぐにはわからなかった。


「あ、……そう、なんだ。

 ありがとう……?」


「わっ、け、賢太にお礼言われちゃった……!

 やばっ、こんなの尊すぎて死んじゃう……かはっ」


「あの……それってひょっとして……

 僕がダンジョンで、きみのことを……助けたから?」


「もっちろん!

 あのときの賢太の凄さに一目ぼれして、

 学校まで追いかけてきちゃったってわけ☆」


「はぁ……でも、そんなことしてよかったの?

 天星さんは、有名な配信者、なんでしょ?

 見ている人たちは、怒ったりしなかったの」


「え、フツーにえぐいくらい炎上したよ。

 事務所のお偉いさんも卒倒してたし」


 ミーティアはけろりと言った。


「それは……問題ない……の?」


「問題ある! 

 けど、炎上が怖くて配信者なんてやってられないし」


「そういうもんなんだ……」


「それに賢太とのカップル配信を宣言したときは

 さすがに一時的に登録者減っちゃったんだけど、

 この前の対決配信がバズったから、

 結果的にめっちゃチャンネル登録者伸びたんだよ」


「……天星さん」


「ミーティアって呼んで! みんなもそう呼んでるから」


「…………ミーティア、さん」


「さんもいらないよ」


「…………………………ミーティア」


「うん☆ なに?」


「ひとつ、聞きたいことがあるんだ」


「なになに? わたしのことだったら、なーんでも教えちゃうよ☆」


「きみは……僕がイジメられてることを知ってて、

 あんなことを企画したんだよね?」


 賢太の真顔の問い。

 一瞬の沈黙が、二人の間に横たわった。


「うん。だって、賢太を傷つけるやつらが、許せなかったから」


 ミーティアは真剣な表情で言った。


「……そっか」


「……嫌だった?」


 賢太は首を横に振った。


「いや、ありがとう。僕だけじゃ、あんなことはできなかったし。

 正直なことを言うと……胸がスカっとした」


 賢太の言葉に、ミーティアが感極まったような笑顔を見せた。

 それを見た瞬間、賢太の中で何かの歯車がかみ合ったような気がした。


 自分が不幸であることは、これまで当たり前だった。

 だけどひょっとしたら、

 それは、のかもしれない。


 殴られたら、我慢すればいいと思っていた。

 それが生まれてからずっと今までの、賢太にとっての世界の常識だった。

 

 けれど、それはちがうのかもしれない。


「あのさ……ミーティア。

 これからも、僕に協力してくれないかな。

 

 これまでのすべての過去を――精算するために」


 それは賢太からミーティアへ、初めての頼み事だった。

 ミーティアが嬉しそうに顔をほころばせる。

 

「その言葉を待ってたよ、わたしのダンジョンの王子様」

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