初見殺し
「「「ごめんなさい、もう二度としません。」」」
さすが兄弟というべきか、双子のみならずバーコードも声を合わせて土下座で謝ってくる。
俺が容赦しないと悟った途端このハゲ共はこの文言を繰り返し、繰り返し言って地面に頭を打ち付けている。
もう五分は経ったかな。
その光景を冷ややかな目で眺めながら、俺は内心自分でも驚いていた。
足を切断され這いつくばるハゲ共を前にしても全く動揺していないことに。
冷静になってみれば、こんなこと前の自分だったらできなかった。
現在進行形で、切断面から血が滴り、地面の血溜まりが次第に広がっていっている。
放っておけば一時間もせずに死ぬだろう。
その惨状を作り出した本人だというのに全く心が騒つかない。
以前の世界では、生物の授業でやったカエルの解剖ですら大変だったと言うのに、今では人を傷つけても、死に追いやっても何も感じない。
異世界に来てたったひと月やそこらで心が壊れてしまっている。
いや、順応したと言ったほうがいいだろうか。
この世界の命の価値に自分の価値観が追いついた。
より強靭な精神になっていくことはこの世界では必要なことだ。
以前の価値観を持ったままでは、いつかきっと足を掬われる。
今は早いうちにその感覚に慣れたことに喜んでおくとしよう。
固有スキルの実験を始める前に、俺はこれから起こることに再度覚悟を決める。
「やめろ!」
地面に頭を打ち付けながら謝罪を繰り返すハゲ共に一喝して動きを止まらせる。
ピタっ
パントマイムかよ。
俺の号令で動かなくなったハゲ共をよそに、俺は再びボックスを出す。
そして、バーコードの後ろで土下座している双子スキンヘッドの片方、スキンヘッドAに近づいていく。
俺の一挙手一投足に注視しながらも微動だにしない三兄弟。
勝手に動いたらもっと酷いことになると直感でわかっているのだ。
地面の血溜まりを進んでいきスキンヘッドAの側まで着くと、俺はそのまま収納と念じる。
黒廛を使わずに、ボックス形態のまま。
すると、スキンヘッドAが西遊記に出てくる
「「?!」」
スキンヘッドAが一瞬で消えた事にバーコードとスキンヘッドBは目を見開いて驚くが、なんとか声を出さずにその場にとどまる。
俺はというと、その結果を前に思わず腹の底から笑っていた。
「ふふっ、ふふ。ふははははははは…最高だ!そして最強だ!黒廛を使わずとも人一人くらいなら一度で収納できる!魔力消費なしでほぼ初見殺し技の完成だ!これは使える。初見で警戒さえされなければ、勇者だろうとS級冒険者だって瞬殺じゃないか!」
おっと、人を一人この手で殺したというのに思わず興奮してしまった。
だが本当にすごいことだ。
戦闘において魔力というのは、生命線だ。
いかにスキルが優れていようと、魔力がなければ行使できない固有スキルなんてたくさんある。
この世界でも有数のポテンシャルを持っているであろう陣内と愉快な仲間たちだってそうだ。
詳しい能力はわからないが、愛野雫の神聖魔法や石川冴子の古代魔法なんてのは間違いなく魔力が切れたらおしまいだ。
レベルを上げれば、多少体術なんかでも戦えるんだろうが、そんなもの強力なスキルの前では護身術程度の備えにしかならない。
だが俺は、魔力消費なしでの初見殺し技をゲットしたんだ。
それに、レベルを上げて魔力を増やせば、今より黒廛の自由度も広がり、ボックスでもより大きなものを一度に取り込めるようになるだろう。
そうなれば、多対一でも怖いもの無しだ。
そこまで考えたところで、ふと違和感に気づく。
あれ、人殺ったのにレベル上がってなくね?
レベル上がる時ってなんか頭の中に浮かんでくるって聞いてたんだけど…何も来ないんだが。
一応ステータスを確認してみるか。
【 名 前 】
【 称 号 】異世界人 疎まれる者
不撓不屈 解放者
【 種 族 】人
【 年 齢 】16
【 レベル 】1
【 体 力 】80/80
【 魔 力 】190/200
【 精 神 】0→30
【 スキル 】火耐性Lv.3 精神耐性Lv.Max
危険察知Lv.2 気配隠蔽Lv.1
雷耐性Lv.4 痛覚耐性Lv.Max
孤独耐性Lv.2打撃耐性lv.6
恐慌耐性Lv.3演技Lv.3
【固有スキル】ボックス▼
万物を異空間に収納する
『黒廛』
レベルは確かに1のままだし、耐性スキルも前のまま変わらず変化なしだ。
あれ、双子スキンヘッドA確かに収納したよね?
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