方針
それからも、よくよく話を聞いてみると実際母さんを召喚するのは無謀ではないという結論に至った。
召喚する対象を限定する際にかなりのイメージと魔力が必要になるらしいが、それさえ整えれば理論上は可能だそうだ。
それらを踏まえた上で、俺は異世界での活動方針を定めた。
これからもこの世界で生きていくしかないと分かった以上、これは必要事項だ。
まず、ひとつめ!
強くなる。
この世界では強者の匙加減でどうとでもなってしまう。
弱者を守るための法律なんてものは存在しないし、得するものは得をして、損するものはとことん損をする。
一発逆転の成り上がりなんてものは、それこそ強力な固有スキルでも持ち合わせていないと不可能に近いだろう。
だが、俺は勇者でありチート能力も持っている。
この世界で自由に生きていくための素質は十分ある。
あとはそれを磨くだけだ!
それに俺が強くなることで、母さんを召喚した後の安全マージンにも繋がる。
誰にも脅かせ無いほどの圧倒的な実力をつけて母さんを出迎えよう!
(イヴェール王国のように自分勝手に召喚するのか?)
(さすがの母さんも怒るんじゃないか?)
ふとそんな不安が頭の中に浮かぶが、母の姿を思い出し、そんな事はないとすぐにかぶりを振る。
地球でたった一人だけ俺に生きてほしいと願ってくれた人だ。
それこそ世界を敵に回したとしても一緒に戦うと言ってくれる最強の味方だ。
喚び出された事を、息子と再会できたことを喜びはすれど怒るなんて事はまず無い。
怒らない。怒らない…怒らないよね?
これまで怒られた記憶なんてほとんどないし、基本いい子の俺がわがままなんて言ったら本気で叶えてくれようとするはずだ。
それでも怒ったら仕方ない。
その時は土下座して謝ろう。
そして、隷属の首輪を自分の首につけて忠誠を誓おう…外せるけど。
まぁどっちにしろ、こっちの世界に来たことを後悔させないくらい俺が笑わせてあげれば良い。
そうすれば全部解決だしな!
そしてもう一つは後遺症を治す。
火傷の後遺症がこの世界では不治でないと分かった以上、俺は絶対に治したいと思っている。
もし治ったら、これから関わっていく人達への第一印象は確実に嫌悪じゃなくなるだろうし、余計なトラブルの回避にもなる。
それに、母さんへの恩返しに息子の綺麗な顔を見せてあげたいってのもあるしな。
全ての行動意欲が母親ってのは、思春期男子としてあるまじき精神だが仕方ない。
俺はマザコンなんだ。
さて方針も決まり、やることも明確になった今。
未だ王城から一歩も出て居ない訳だが…どうしようか。
このまま王城スローライフを送るのもやぶさかでは無いが、そのままじゃ目的を達成できないしな。
行動を起こすにしても、今のままじゃ動きが制限される。
カインは俺がまだアンスリウムのおもちゃだと思っているだろうし、今更顔を出したところで王家にとって不都合な事を知られたとか何とか言って確実に処分する方向で動くだろう。
未だバレていないのはアンスリウムが隷属の首輪をストールで隠して、普段通りを装っているからに過ぎない。
だからこそ俺は良い部屋で、良い食べ物を満喫できたわけだが、そろそろここも出る頃だ。
それなら、今後のために最善の行動をしよう。
そこまで考えがまとまった俺は未だ地面に這いつくばっている奴隷に声をかける。
「おい。俺はそろそろここを出る。」
俺の発言に思わず目に喜色を浮かべそうになるアンスリウム。
「そ、それは残念です。」
「本当か?それならもう少し居ようかな。」
「い、いえ!私などがご主人様の目的を邪魔するわけにはいきません!!」
露骨に焦ってるな。
そんなに出ていってほしいのか。
「それもそうだな。いつまでもお前の好意に甘える訳にもいかないもんな。」
「そのようなことはございません!手伝えることがありましたら何なりと!」
めっちゃ嬉しそうじゃんこいつ。
「そうか、それじゃ遠慮なく。まず俺が今後数十年は暮らすのに困らないだけのお金と食料、持ってきてくれる?」
俺はこれから冒険者になるつもりだ。
レベルを上げて、魔力を増やしながら戦闘経験も積むのに一番効率がいい。
どうせ最初は低ランクの依頼しか受けられないだろうし、そこでせこいお金をやりくりして暮らすのなんてやってられん。
冒険者の下積み生活とかお呼びじゃない。
旅とかもするだろうし、毎回食料調達なんてめんどくさいじゃんね。
その辺、俺は収納スキル容量無限というチーターだからね。最高。
俺のあまりに無遠慮な要求に思わず顔を引き攣らせるアンスリウム。
「あ、あの困らないというのは具体的に…」
「そうだなぁ、毎日高級宿に泊まって、そこで好きなもの飲み食いして、休みの日にはいっぱい遊びに行けるくらいのお金かな!食料は今有るだけでいいよ。」
別に無駄遣いする気は少ししか無いけど、無くなったらまた下ろしにくれば良いもんね…イヴェールATMに。
「もう少し…なんとk」
「ちょっとわがまま過ぎたかな?」
アンスリウムの言葉を遮り、俺は自分の首をトントンと指で叩き隷属の首輪を仄めかす。
「い、いえ。妥当な要求かと。」
「だよねありがとう。それとね…」
うわ露骨にまだ有るのかよって顔しちゃってるよこの子。
それからも、財務官泣かせの要求を続けた俺は、最後に一つ重要な命令を下した。
「お前は俺が死んだとカインに伝えろ。勇者共には何も言わなくていい」
カインは俺が生きていると知ったら不満を感じるはずだ。
なら死んだことにしたほうが余程動きやすい。
奴隷から抜け出した次は、指名手配なんて冗談じゃないからな。
クラスメイト達はどうせ俺のことなんて気にしていないだろうし、何にも言わなくても十分だ。
それにしても元の世界に帰れないというのにご苦労な事だな…人類を脅かす魔王討伐とやらの為にせいぜい頑張ってくれ。
俺は俺でこの世界をenjoyさせてもらうよ!
この世界で俺以外に隷属の首輪から抜け出せる奴はいない。
アンスリウムがいる限りイヴェール王国は俺の財f…スポンサーだ。
せいぜい利用させてもらおう。
「これからやっと冒険者生活か〜、異世界生活もここからが本番だな!」
少しの不安と期待感を胸に、俺は窓の先に広がる世界を眺める。
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あとがき
明日からついに柊くん外に出ます。
インドアお城生活もついにおしまいですね。
pm8:00投稿予定。
☆・♡待ってます!
フォローも!!
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