第27話

私が前世の記憶を思い出して八年が経った。


そして今日、私の十二歳の誕生日パーティーが、屋敷の庭で開かれていた。


うああああっ!! もう挨拶疲れたよおおお!!


パーティー開始から三時間、私は来訪者との挨拶しかしていなかった。


そして、漸く最後の一人となった。


あぁ〜長かった〜。挨拶やっと終わるよ〜。


「初めましてリリー・リステンド様。この度はお誕生日おめでとうございます。わたくしトクアク商会を率いております、ヨダン・トクアクと申します」


「は、はじめまして...」


ヨダンと名乗る男は、整えられた口髭に、大きなお腹がぽっこりと出ていた。


な、なんだろう...この人の笑顔すごく怖い...


まるで貼り付けたような、そんな笑顔...


「リリー様、お聞きしましたよぉ。どうやら魔法の才が凄まじいとか。いやー、是非一度お目にかかりたいものです」


そう言う彼の目が一瞬、何かを品定めするような目になった。そして、またいつもの笑顔に戻る。


「これでもわたくしの商会は規模が大きいため、何かお手伝いできることがございましたら、遠慮無くお知らせください。今後、わたくしはリリー様と、是非お近づきになりたいと思っております!!」


そう言うと、ヨダンは私の両手を握ってきた。


ひぃっ!? ぜ、絶対なにか企んでるわね。


こ、こわい...で、でも大丈夫よ。私は何があっても絶対に屈しないんだから!!


「あ! そうそう。リリー様はケーキがお好きだとお聞きしたので、こちら最高級のケーキをご用意致しました」


「え、ケーキですか!? やったー!!」


私がそう言うと、傍にいたレイが珍しく頭を抱えた。


「喜んで頂けたようで何よりです」


「あら? ヨダン様、もう挨拶は終わりましたかしら?」


私が貰ったケーキを見て喜んでいると、私とヨダンの間にジェシカが割って入ってきた。


「これはこれはジェシカ様。今し方終わるところでございました」


「そう。リリー様はこの後、ワタクシとお茶をする予定ですの」


「左様でございましたか。では、わたくしはこれにて失礼致します。リリー様、また貴女に会える時を楽しみにしております」


そう言って、ヨダンはその場を去っていった。


「あのヨダンという男は、以前ワタクシにも接触してきましたわ。あまりに怪しいのでお父様に調べてもらったところ、どうやら公爵家の権力を狙った商人のようですわ」


そう言ってジェシカは、彼の小さくなる背中を見ながら話を続ける。


「今は調査中ですが、裏でかなりの悪事を働いているようですわ。そして、今はその証拠集めの途中ですわ。って聞いてますの!?」


「おいしそー」


「ちょっとリリー様!? ヨダレが垂れてますわよ!!ってか食べちゃダメですわ!!」


「あっ...私のケーキ...」


ジェシカは私からケーキの入った箱を取り上げる。


「こんなもの何が入っているかわからないですわ。念の為食べない方がいいですわ」


「うぅ...」


「ケ、ケーキなんて、今度ワタクシがいくらでも食べさせてあげますわ。だから、今は我慢しなさいですわ」


「いくらでも!? ありがとうジェシカ!!」


「はぁ、ほんと、ワタクシはあなたのこの先が心配ですわ...」


すると、私の後ろで控えていたレイがジェシカに尋ねる。


「ジェシカ様、そのケーキ少し見せて貰ってもよろしいでしょうか?」


「え、 ええ。いいですわよ」


レイはジェシカからケーキの箱を受け取ると、おもむろに箱に顔を突っ込んで匂いを嗅ぎだした。


「ちょっとレイ!?」


「これは霧影草きりかげそうの毒ですね。慢性の中毒症状を引き起こし、少しずつ依存させる毒物です。これにハマってしまったら、いずれ廃人になると云われています」


「す、凄いですわねレイさんは。一般的にその毒草は、気づくことが困難とされていますわ。毒を盛られていることに気づいたら遅かった、なんてことはザラですわ」


ジェシカの言葉を聞いて、私も試しにケーキの匂いを嗅いでみる。


「ほ、ほんとだ。毒みたいな匂いなんてなにもしないわ。よく気づいたわねレイ」


「私は侍女ですので、大抵の毒物は些細な匂いでも判断できるのです」


いやそれ侍女とかじゃなくてあなたがすごいだけよね!?


「リリー様、貴族の面目上、誕生日会を中止することは避けた方がいいですわ。なので、この事は後でお父様に必ずお伝えくださいですわ」


「ええ、そうするわ」


いやー、まさか私が毒を盛られる日がくるなんてねぇ。

ま、私の場合、どうせ盛られても治癒魔法でなんとかなるんだけどね。


「では、残りの時間はワタクシ達と一緒にお茶を致しましょうですわ」


私はジェシカの提案に乗って、お茶をするテーブルへと移動する。すると、そこには本を読みながら待っているアシュリーがいた。


「あっ! もぉーすごく待ちましたよ!! 」


「ご、ごめんなさいねアシュリー。かなり挨拶が長引いてしまったわ」


「まぁ、王子様を待つのもお姫様の役目ですからね、しょうがないことです!!」


「よ、よくわからないけど許してくれたのね」

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