第4話 緊急事態
上田城内であれば軍服が多いが駅まで来るとコートなどの洋服を着込んでいる人に
「大尉!中尉三名、少尉一名、准尉一名揃いました!」
報告したのはさっきも声を出してくれた男である。
「あざっす。知っているとは思うけど軍学校は山口県で、あの吉田松陰出身の県だよ。それだから乗り換えありとはいえここからの旅は予定では10時間ある。まぁ気楽に楽しもうな」
俺を除いた5人は良くも悪くも固い。この固さは軍のものとしては大切であるかもしれないが俺は嫌いだ。この固さは嫌でも敵に勘づかれる。戦争の勝利を握るのはいつの時代も情報を制した軍であると相場は決まっている。であるからこそもっと柔和になってほしいというのが本音だ。
「はい、もう新幹線乗り込むよ。固くなりなさんな。気楽に、気楽に!」
こう言っても硬いままであるこの五人をそのままにしておくわけにはいかないと思い「トランプやろうぜ。上官命令な」と声をかけたのは空気が読めなかったのかもしれない。中には本音が遊びたいだけということに気づいている奴もいてそれぞれの人間性の一端を感じさせられながら夜は更けていった。
「じゃあゲームして少しは打ち解けたし名前、階級、病の祝福の詳細と紋章を見せることの三つを教え合う自己紹介をしよう。まずは俺からな。俺は——」
長野を抜けて愛知を通り、現在は三重。
約4時間かけての遠回りをした経路で今に至る。丁度ここは新幹線の乗り換え地。
三重県内の最重要城は伊賀上野城であるがこの駅からは車または電車移動をしないといけないほど遠い。そのため駅に人は少なく、さっき見た上田駅に比べたら比にならないほどの数の差。
俺の部下もたった4時間とはいえ疲れたようで全員ではないがぐったりしていた。ここでの乗り換えは1時間半の休憩となっているのですっかり気分はお休みモード。起きているのは俺と観多准尉のみであった。
カーンカーンカーンカーン
突如駅構内を含めた街中に広がる甲高い鐘の音。
しかしながら当たり前なことに現在は戦争中なので関係なく敵軍は攻めてくる。敵襲の鐘がその証拠だ。
「おい!寝とる場合か。起・き・ろ!」
鐘が4回。これは敵が上陸したときに鳴らされるもの。意味は“防衛体制”だ。
正直、防衛軍が抜かれることは戦争が始まって以来4回しかないのでこいつらを起こす必要はないが念には念をというやつだ——
カーンカーンカーンカーンカーン
——と思っていた時期が俺にもありました。
鐘が5回。これは敵が防衛軍を殲滅したときに鳴らされるもの。意味は“即撤退準備”。
つまりは“勝てる軍がいないから逃げろ!”ということだ。
「おぉい!おまぇら起きんか!!」
自分でも頭が痛くなるほどの声。さすがにこいつらの脳に響いたようで起き上がる。
「報告!月岡さん、連絡では敵は2000前後、的矢港から真っすぐ北西に進軍中だそうです」
4人が起き上がったのと同時に入ってきた観多准尉の報告。4人にとって、寝耳に水とはこのことであろう。いや、寝起きに水かもしれない。
「そうか、了解。聞いていたか。全員で今から向かう。愚痴をこぼすことは許さないから承知しておけ。気の緩みはそのまま命に直結するから気を抜くなよ。以上だ。走るぞ!」
「はっ!」
さすがは軍人というべきであろうか。切り替えが早くもう走り始めた。
軍の侵攻スピードとこちらの移動速度から割り出された二軍の衝突場所は観多准尉の予測で駅から8㎞地点だそうだ。簡単に言えば20分以内に敵軍を殲滅しないと明日の講義には間に合わない。
少しばかり会話をしてそれ以外はただ走った。2000という一般兵の集合でできた軍であるならば少ない数。だが全員が病の祝福持ちなら多すぎる数。どちらにせよ敵の狙いが読み切れないのが怖いところだ。
「月岡さん、見えました。あれが敵軍です」
「ありがとう透」
右耳のインカムをいじることで出現させた電子単眼鏡で確認しうる進軍をわらわらとする約2000の兵。廃ビルと廃ビルの間の大通りを前進する一糸乱れぬ動き。そこには相応の重圧と威圧感があるのが遠いここでも伝わってくる。見る限りでは機械兵器が存在しないのが現在において吉とも凶とも取れてしまうのは恐ろしさを加速させてくる。
そのため軍を発見した時点で荒廃したビル群の陰に潜むように俺らは身をかがめた。
「自力だけでこっちの軍を抜いてきたのか……。厄介だな。」
本心だった。急襲といえども最低でも2000はいるはずの防衛軍が抜かれるほど敵の独力。それに加えて意図が分からないこの進行。ここまで肉薄される状況になるとは思わなんだ。
「透、いつも通りに頼むよ」
「さすがにこの状況だと月岡さんでも焦っていますね」
「僕らにはさっきまでの大尉と変わらないように見えるが焦っているというのは本当かよ」
「あぁ、月岡さんはこういう時ほどなぜか笑う人ですから……」
「かんだ准尉?」
「は、はい!すぐやります!」
月岡の地を割るような声は敵軍に気づかれるような殺意すら籠っていた。
「病の祝福——“診断”。“診断”——
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