第3話 出発

「ところで俺が試練に挑んでからどれくらい経ってるの?」


 時間の流れも違うし一瞬だとウルトは言っていたけど……

 そうだ! あとでウルトに試練の内容知ってたか確認しないと!


「時間ですか? あっという間でしたよ。入ったと思ったら出てきました」

「本当に一瞬だったんだな」


 そこは偽りなしか。

 俺の体感だと5、6時間は経ってるんだけどなぁ。


「それよりレオ様、大丈夫?」

「なにが?」


 急なイリアーナの質問に答えられない。

 というか質問の意図が分からない。


「お父さんたちを迎えに行かないといけない。転移出来るの?」

「あー……」


 それもあったな……

 ジェイドになら打ち明けてもいいのだけど転移が出来ないのは面倒だな……


 王太子と皇太子のトレードはお互いの国が使節団を派遣するから送り迎えは構わないと言われていたので助かった。


 転移はかなり魔力を消費する。多分距離と人数に比例して消費魔力が増えるシステムだろう。


 今の魔力だと……1人でも国境砦も怪しいな。


「数日中にはって感じだったよな……ウルトに乗って向かいながら並行してレベル上げしようか。帰りはレベルが上がって転移出来るようになっていれば転移で帰る方向で」


 旅行気分で往復ウルトでも全然構わないけどね。


 というか全員まとめて帝都から聖都までの転移だと……多分魔力Sでギリギリ足りるかどうかだな。

 うん、往復ウルトだなこれ。


「あたしが使えたらよかったんだけど……」

「まぁそれは言ってもね。その分魔攻は飛び抜けてるんだし」

「その魔攻を活かす機会が無いのよ……あたしも【傲慢なる者の瞳】にしておけば良かったわ」


 まぁ今更だよね。

 戦闘力という点ではリンの魔攻は頼りになる。


「まぁそういうことだから、特に予定も無いなら今日か明日には帝国に向けて出発しようと思うんだけど」


 そう言ってよめーずを見渡すが誰も特に用事は無いようだ。


「じゃあそういう事で……お腹空いたんだけど、みんなは空いてないよね?」

「さっき食べたばかりですので……なにか用意しますね」


 サーシャが屋敷に駆け込んで行く。おそらくベリルになにか作ってもらうのだろう。

 おにぎりがいいな。


「あたしたちも戻りましょうか」


 リンの号令で全員で屋敷に戻る。


「レオ様、お待たせしました」


 リビングで談笑していると、厨房からサーシャが出てきた。

 手にはお皿、その上にはおにぎりが3つ乗っている。


「ありがとう」


 皿を受け乗り1つを摘んで頬張る。

 うん、良い塩加減に程よい握り具合……具はおかかだな、これも美味い。


「あの、どうでしょうか?」

「美味しいよ」


 どうしてそんなことを聞くのかな? 俺がおにぎり好きなのは知ってるだろうに……


 1つ目を食べ終えて2つ目に手を伸ばす。


「実は……ベリルさんにお願いして私が作ってみたんです」


 少し恥ずかしそうに俯きながら自分が握ったのだとサーシャは言った。

 まじ?


「塩加減もちょうどいいし、形も綺麗だし握り具合もバッチリだ。具のおかかも濃い過ぎず薄すぎず、最高だね」


 思い付いたままに褒めると、サーシャの顔はだんだん赤くなっていく。


「レオ様の好物ですので頑張りました! また作りますね!」


 2つ目は梅干しか、やはりおにぎりは梅干しに限る。


「ほんとに? ありがとう、嬉しいよ」


 そう答えると、サーシャは小さくガッツポーズをした。

 可愛い。


 3つ目は普通の塩むすび、米の味がしっかりと楽しめた。


「ごちそうさま。美味しかったよ」

「よかったです」


 手を差し出してきたので空いた皿を渡すとそれを受け取り、サーシャは厨房へと戻って行った。

 使用人は居るのにうちのよめーずはあまり頼らない。

 もう少し頼ってあげないと仕事無くなっちゃうよ?


「レオも食べ終わったし、出発する?」

「もう? 俺はいいけど」


 特に聖都でやることも無いので出発することにする。

 ちょっと遠回りしながら行こうと思うし、あまりジェイドたちを待たせるのもね。

 俺たちが迎えに行かないと家具も片付けた家で待つことになるし……


 使用人に御者を頼み街の外まで馬車で送って貰う。

 貴族があまり出歩くものではない、と怒られるためだ。

 正直そんなガラではないのだか……


「行ってらっしゃいませ」

「ご苦労さま。行ってくるよ」


 街を出たところで使用人を屋敷に戻してウルトに乗り込む。


 さあて、魔物がたくさん現れそうなルートで進みましょうかね。

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