鬼退治の女と妖狐の鬼退治旅

シイカ

第1話 封子《ふうじ》の風葉《カザハ》

封子ふうじの家である以上、いずれは来る日ではあったが、風葉カザハ、すまぬ……」

「封子の宿命を私で必ず絶ちます」

 風葉は一週間前の父親の会話を振り返った。

 長い黒髪を束ね、男モノの紺色の着物を纏い、腰に刀を下げた風葉カザハは一目見ただけでは男にしか見えない出で立ちだが、女だ。

 風葉カザハの一族、封子ふうじは鬼と唯一戦える刀『封鬼刀ふうきとう』を持つことが出来る一族。

 だが、全ての封子の人間が扱えるものではなかった。 

 刀に選ばれたものだけが、鬼と戦う。

 選ばれる人間が生まれるまで、封子は刀を磨き、持てなくとも皆、剣の修行を続けた。

 そして、50年ぶりに封鬼刀を持てる者が生まれた。

 それが風葉だった。

 幼少から修行を続け、15歳になり、鬼退治の時が来たのだ。

 怖いという感情は風葉カザハには無かった。

 鬼退治に、捧げてきた15年である。

 むしろ、待ち構えていたというのが風葉カザハの気持ちであった。

 しかし、退治に出たものの50年の間に鬼の居所がわからなくなっていた。

 さらに言うと鬼は50年の間、悪さというものを一切していないのだ。

 むしろ、人間同士の争いが起きている戦国の時代。

 それでも、風葉カザハは鬼を探し続けた。

 人を見かけるたびに鬼の情報を聞くも、怪談話、噂、鬼のような人間の話ばかりで確実なものはなかったが、そんな情報でさえ、風葉カザハにとってはありがたかった。

「前も後ろもわからなくなるほどの霧が現れたとき、鬼が住む屋敷が現れる……か」

 鬼が潜む山へ行き、霧が現れるまで山に籠ることに風葉カザハは決めた。

「鬼よ、いるなら出てきてくれ……」

 山は運が良いことに、食料の宝庫と呼べるほど、きのこ、木の実、山菜が豊富で食うには困らず、川も流れていたので水浴びにも困らなかった。

 山に籠ること、五日、風葉カザハが潜めている洞窟は住処として完成されていた。

「うーむ。このままでは私が山の鬼という噂が出てきそうだな」

 風葉カザハは迷子にならないよう、慎重に行動範囲を広げた。

 時を同じくして、山へと入り込んだものがいた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る