第27話

リーザの特訓に毎日付き合って1ヶ月、私も大分体力付いてきて模擬戦もバテることなく終わることが出来るようになってきた。

「ふぅ、今日も頑張ったな」

フィオレンティーナから降りて格納庫内を歩く。戦艦内の一部は快適な温度に保たれているが、外は既に冬景色となっている。入院中にアヤは私の為に冬服を買ってきているので特に準備する必要はない。

パイロットスーツを脱ぎ、制服に着替える。冬用の制服は少し厚く作られており、寒くもない。

自室まで向かう通路は風こそないものの、冷気が充満しており、少々寒い。

「艦内全域を暖かくしたいなぁ」

そうなると、大規模な改造が必要になりそうだし、なにより、アヤが許可しなさそう。

「ふぅ、ちょっと一息つこうかな」

椅子に深く腰掛けると、目を閉じる。

「喉乾いたな」

しかし、今はアヤは別件でイラストリアスを離れており不在である。

「しょうがない。自分でやるかな」

私は席を立つと部屋を出る。しかし、普段からアヤに頼りっぱなしだった為、何処に何があるか分からない 。

「えーっと、アヤって何処からお茶を持ってきてるんだろ?」

誰かに聞こうも運悪く、誰も歩いていない。

「何でこんな時に誰も歩いてないの…」

私が落ち込んでいると、何処から足音が聞こえる。

「ん?アヤかな?」

私は足音のする方へ歩いていくと、十字路で誰かとぶつかった。

「きゃ!」

「った!あ、ごめんね!」

相手が小さかったせいか、倒れずにすんだが、相手は後ろに倒れこんでしまったようだ。私は慌てて手を差し伸ばして、相手を起こす。

「スイハちゃん、大丈夫!?」

「大丈夫?怪我はない?ってあら?スイハちゃん?」

「はい、大丈夫で…あわわ、ヴァ、ヴァンテージ大佐!申し訳ありません!」

スイハは凄い勢いで頭を下げている。

「えっと、私は気にしてないから、頭を上げて?」

「は、はいぃ!」

「確か…スイハちゃんとロジェちゃんだったよね?」

「は、はい!す、スイハ・ニールセン準尉でしゅ!」

「ロジェスティラ・サラザール準尉です!」

「そんなに緊張しなくてもいいよ、二人共。そうだ!今から友達になりましょ!非戦闘時は名前で呼び合いましょか?」

「え、えぇ!そ、そんな恐れ多い!」

「駄目かな?」

ちょっと、イタズラ心で悲しそうな顔をしてみる。

「い、いえ!そんな事ないです!え、えと、ゆ、由華音…さん」

「ロジェちゃんも」

「えとえと、ゆ、由華音さん…」

「よろしくね!スイハちゃん、ロジェちゃん!」

私は二人の手を握る。

「それで、二人共、お茶ってどこにあるかな?」

「へ?お茶?」

二人はきょとんとした顔をしている。私はここで自分の間違いに気付いた。

「あ、えっと、急騰室って何処かな?」

「あ、そ、それでしたら、すぐそこの部屋でしゅ!」

この娘、噛んでばっかで可愛いなと、思ってしまった。

「ありがとね」

「は、はい!」

二人は敬礼すると、走って行ってしまった。

私は教えられた部屋に入り、お茶を作ろうと思ったが分量が分からない。

「えーっと、急須はこれで…お茶が、これかな?」

急須とお茶は分かったが、分量が分からない。パッケージをじっくり見てもよく分からない。

「これって適当でいいのかな?」

「ヴァンテージさん、それは何回も使うので適当で大丈夫です」

「はわっ!あ、アヤ!?いつの間に!」

アヤが部屋の入り口に立っていた。

「ヴァンテージさんが急騰室に入って行くのを見ましたので少し見守っていました」

入って行くのを見たと言う事は私がお茶のパッケージをじっくり見ていたのを見られていたと言う事に。

「それでですが、急須に適当にお茶の葉を入れて70度ぐらいのお湯を入れて、少し待ってから湯呑みに入れればいいです」

あまりにも手際が良い為、少し見とれてしまった。

「あ、うん、だいたい分かったわ」

私とアヤはお茶を持って指揮官室へと戻る。そして、お互いにソファーに座るとお茶を啜る。暫くは啜る音しかしなかったがアヤが湯呑みを置くと此方を見てきたので、私も湯呑みを置く。

「ヴァンテージさん、来月から新しい機体の建造が始まります」

「新しい機体?」

「はい、以前シレアさんがラツィオのサーバーをハッキングした時に、回収したデータだそうで、3機のティーナシリーズの機体の設計図を入手してたそうです」

「ティーナシリーズねぇ…」

ティーナシリーズはラツィオが開発した高性能機の事で機体番号からしてこれまでに12種類確認されている。

「新たに発見されていたのは、XJL-13からXJL-15の3機分で、それぞれ、アイレミスティーナ、シェミリールミューナ、レックスティーナです。まだ、正式な配備は決まってませんがそれぞれの一号機はイラストリアスに配備予定との事です」

「3機もか。それじゃあ、候補はボーセルさんと、デヴィットとアヤかな」

「私ですか?」

「私はフィオがあるし、リーザさんはアルテがまだ現役だし、他に使いこなせそうな人がいないし…」

私はイラストリアスのデータベースを確認し、使いこなせそうな人を探すが、半数が実践経験が浅い人が多い。そんな人に高性能機を与えても拒否するか、使いこなせないだろう。

「アヤもあの偵察機じゃ貧弱でしょ?シェミの方を偵察型に改造すれば、アヤも遠くから護衛無しでサポート出来るし」

「その、私に、シェミリールミューナを選んだ理由って…」

「うん、シェミって名前可愛いでしょ?だからアヤにしたの。アイレはデヴィッドにすればいいしレックスはボーセルさんにぴったりだし」

「やっぱり…そんな感じしました」

「色は早めに言っておくのよ?塗ってからじゃ遅いから」

「は、はい…」

「それにしても新しい機体かぁ」

来月から建造とは言え、恐らく2年は掛かるだろう。完成後には私ともかく、デヴィッドやアヤが生きているか分からない。それでも私はアヤがシェミリールミューナに乗って、一緒に戦う姿を想像する。

「ヴァンテージさん?どうしました?」

「あ、ううん、何でもない。それより、新しい機体楽しみだね!アヤ」

「…はい!」

その時、アヤ端末が鳴る。

「ヴァンテージさん、ちょっと失礼します」

「はーい」

アヤが部屋を出ていくと、私はお茶を飲み干す。そして暫くしたら、アヤが戻ってきた。

「ヴァンテージさん、明日の任務が決まりました」

「なになに?」

「アブレイズさんがアイリスを説得するために護衛として着いていくことです」

「ん、分かったわ。それで、アイリスは今何処にいるの?」

「アブレイズさんからの情報によると、戦艦ファイルーテオンにいるそうです。ファイルーテオンは現在、32000フィート《約9753メートル》上空を飛んでいるそうです」

「ええと…遥か上空にいるって事だよね」

「えぇ、そう言う事にしといてください。それと、今回の任務も、ウィンダムのみで行きますので、イラストリアスは地上で待機となります、ですので連れていく人は前回、エリアGFに連れていった人達で問題ないですか?」

「えぇ、問題ないわよ」

「分かりました、私の方から連絡しておきます。後、今回はリネージは必要無いので、アルトゥーラを乗せていきます」

「りょーかい」

戦闘しに行くわけじゃないが、戦闘になるかもしれないので一応、機体は持っていくようだ。

「そう言えばレイスさんは?」

「ホーク氏は地上で待機となります」

「あ、うん。そうだよね。誰か地上にいないと大変だもんね」

それにしても何故、ファイルーテイオンは高高度を飛んでいるのだろうか。やはり、簡単にはたどり着かせない為か。まぁ、そんな事を考えてもしょうがないので明日の為に準備をする事に。

「それで、アヤ、私はアブレイズさんの護衛として行くんだよね?」

「はい、そうです。ヴァンテージさんは拳銃は使えますよね?」

「う、うん大丈夫!…のはず…」

「不安ですね。まだ射撃場は開いているので、今から訓練しましょう」

「うっ!は、はい」

私はアヤに連れられて、ミューンズブリッジ基地内の射撃場へと行く。

「使い方は…分かっていますか?」

「えっと、多分…」

私はアヤから拳銃を手渡されると、マガジンをセットし、上の部分をスライドさせる。そして、両手で狙いを定めて引き金を引く。

「いたっ!」

反動が強い事を忘れていた私は、腕に力を入れてなかった為に、跳ね上がってきた拳銃を頭にぶつける。

「大丈夫ですか?!ヴァンテージさん!」

「う、うん…」

昔はあんなに撃っていたのに、すっかり忘れてるとは。瑞穂の影響が響いているのか、又は、暫く拳銃を使っていなかったからだろうか。

「そうですか、それでは今度は反動に気を付けて、撃ってください」

「はぁーい」

私は1発撃つ。今度は頭に当たること無く、反動を押さえ込む。

「お見事です。相手の急所に命中しました。次は的を連続で出しますので連続で撃ってください。マガジンを変えましたら構えてください。的を出します」

私はマガジンを入れ換えて構えると、的が出来たので、それを撃ち抜くと、すぐに次の的が出て来るので瞬時に狙いを定めて引き金を引く。それを弾切れまで続ける。

「お見事です。ヴァンテージさん。全て急所を撃ち抜き、タイムも良好です。記憶が混ざっても射撃の腕は落ちてないようですね」

「ありがと、アヤ」

「では、次は早撃ちをしましょう」

「え、それいる?」

「せっかく設備がありますし」

そう言ってアヤは私にリボルバー式の拳銃をとホルスターを手渡してきた。私は記憶を頼りにホルスターを付けて1発試し撃ちをする。

「撃ち方は分かりましたね。それでは行きましょう。ホルスターに入れてください」

「え、ちょっ、1回練習させて!」

私は動作を確認すると、アヤに合図をする。

「では、行きます」

私は拳銃には触れずにランプが光るのを待つ。そしてランプが光ったので銃のハンマーを起こして狙いを定めて撃つ。

「アヤ、タイムは?」

「2.264秒です」

「まぁ、初めてにしては良い方じゃない?」

その時、扉が開き、ラストフィート姉妹がやってきた。

「あー!ゆかみんとアヤやんだー!何やってるのー?」

「ヴァンテージさんの射撃の腕を確認していました」

「早撃ちのタイムは…2.264ですか」

「由華音さん、2秒台ですぅ」

「でしょ?凄いでしょ?」

私は胸を張って自慢する。

「でもぉ、お姉ちゃんの方が早いですぅ」

「え」

ミレアの言葉に絶句する。

「じ、じゃあイレアちゃんちょっとやってみて」

「いいよっ!」

私は拳銃とホルスターをイレアに渡すと、イレアは慣れた手つきで銃を確認し、ホルスターを着けて銃を仕舞う。イレアが合図をするとアヤが端末を操作する。そして、ランプが光ると同時に銃声がなり、的が倒れる。私はタイムを見ると、目を見張った。

「え、今、フライングじゃなかった?それにタイムが0.000秒なんだけど」

「フライング判定が出てないので問題ありません。恐らく、イレアさんが早すぎて千分の一未満からだと思います」

「えぇ…。不正は、してないよね?」

「監視をしてましたが、不正はありませんでした」

「えへへ!どーお?強化人間の力はっ!」

イレアの反射能力も凄いが、あんなに早い動作を見抜くアヤの動体視力も驚異的だ。

「私の力はこんなもんじゃないよー?」

イレアはそう言うと、拳銃を両手に持って、同時に2つの的を撃つ。しかも、動いている的にも正確に当てている。

「凄いね!イレアちゃん!ところで、シレアちゃんとミレアちゃんも射撃が得意なの?」

「いえ、私はお姉ちゃん程ではありませんし、ミレアは何故か全く当たりません」

「そうなんだ。皆、能力が一緒かと思ってた」

「私は射撃が得意なのっ!拳銃からスナイパーまで扱えるよっ!」

「私は射撃は由華音さんと変わらないぐらいですが、ハッキングとピッキングが得意ですね」

「わたしはぁ、格闘が得意ですぅ。ライフルの弾ぐらいならキャッチ出来ますぅ」

「3人一緒じゃ個性が無くなるしねっ!」

「役割分担も簡単に出来ますしねぇ」

確かに私が囚われた時、助けに来てくれたラストフィート姉妹はそれぞれ、素早く分担して私を救助してくれた。

「成る程、確かに理はかなっていますね。フォリオの機動兵器部隊もそれぞれ個性を育ててば連携もしやすいかもしれません」

「そうなると、今夜は残業かな?」

「はい、覚悟してください。射撃の腕も確認出来ましたし、戻りましょう」

「はぁーい」

その後、作業は深夜まで続いた。

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