第23話

「たまにはいいだろ?こう言うゆっくりとした時間も」

現在、私が居るところはアブレイズの私室で、部屋の主のアブレイズと私とリーザとアヤの他にホーク、ヴァルカン艦長、シャウラ、ラストフィート姉妹と結構な大人数だ。まぁ、シャウラが呼ばれていたのは驚いたが、誰かに説得されたのだろう。

それにしてもこの面子を呼んだ理由は何だろうか?まさかただのお茶会で終わるとは思えない。

「さて、アブレイズよ、ただのお茶会じゃないじゃろ?ここに呼んだ理由はあるのじゃな?」

「さすが、じぃには隠せないか。それじゃ、本題を話そうか。、最近、各地でラツィオの残党狩りが多発している。僕としては戦わずに話し合って和解出来れば無駄な死傷者は無くなり、報復も発生しにくい。しかし、話し合わずに戦争すると、どちらかが敗北するまで戦闘し続ける。それでは巻き込まれてしまった人が不幸となってしまう。そしてその人達が新たな戦争の火種となりかねない。そんな負のループを止める為に、僕は過激派を止めたいと思う。ただ、彼女が話し合うに応じるかは未知数だし、確率も低い」

珍しくアブレイズが真面目な顔で話すのだからつい聞き入ってしまった。なんでこの人が穏健派代表かと思っていたがアブレイズさんにも平和な世界にしたいと思う気持ちが伝わってくる。

それにしても真面目な顔をしているアブレイズさんはイケメンだ。

「ただ、過激派は、エクスフェイトに新たなパイロットを見つけたようだ。知っての通りエクスフェイトはラツィオとの戦闘で大破、パイロットも行方不明となっていた。それを回収、修理、改造し、パイロットも見つけた。実際に戦闘した、リーザとレイスによると以前よりも出力も機動力も上がっているそうだ。それにパイロットの技量も上がっていて、一筋縄ではいかない。出来ればパイロット共々保護できれば望ましいが、不可能なら撃破するしかないがそれは最終手段だ。我々の目的は戦闘する事ではないからな」

「では、アブレイズ、市街地で戦闘になった場合、どうするのですか?」

リーザが質問する。

「可能なら、人気の無い所で撃破するのが望ましい」

しかし、市街地で戦闘が発生してしまったら被害は免れない。それに誘導するのも簡単では無い。

「そこで、市街地では、大火力で広範囲でな武装では無く、接近戦や、狙撃によって無力化させる。幸い、僕の機体やレイス、由華音とリーザの機体はそう言う事が出来る。そこで更に無力化させやすいよう改良も視野にいれている。後は流れ弾も極力受け止めれるよう、装甲の改良や盾を持った部隊の配備も考慮したい」

流れ弾も逃さないアブレイズさんの考えに私は感心する。しかし、何処に行くか分からない弾を受け止めるのは至難の技だ。

「あの、アブレイズさん、流れ弾を受け止めるって言いましたけど、全部は厳しくないですか?」

「そうだな、由華音の言うとおり全部は厳しい。なので避難中の人々や大出力の攻撃をメインにしようと思っている。特にエリーゼは艦隊戦等で殲滅を得意とするので被害がでやすい」

確かエリーゼは、重武装ながらもフレームはAXシリーズを使っているので細身なのが特徴だと瑞穂が教えてくれた。更にジェネレータもフィオレンティーナには及ばないが出力が高く、エネルギー切れもしにくい。しかし、機動力は低く、接近戦にも弱いと言う弱点がある。

「なら、被害が出る前にエリーゼを押さえればいいのでは?確か接近戦には弱いのでそこを突けばよさそうですが」

「上手くいけばいいんだけどね。彼女はその弱点を以前から熟知しているからラツィオとの大戦が終わった後、改良していたハズだ」

なんと、弱点を無くされては打つ手が無くなってしまう。そうなると抑え込むのが困難になってしまう。

「そこでだ。エリーゼは僕が抑える。いくら改良して近接に強くしても特化している僕の機体には敵わないだろう」

「はぁ、でもどうやって近づくんですか?相手は遠距離砲撃が得意だったハズですが?」

私がそう言うとアブレイズは何か策があるような顔をしている。

「彼女の戦い方は熟知している。彼女は最初に実弾を撃ちつくし、軽量化させて、回避しやすくさせるんだ。それなら、彼女が撃ちつくまで、僕が囮になり、狙撃部隊が弾を撃ち落とす。そして、弾切れになった所で近接戦闘を仕掛ける」

「なるほど、しかし、狙撃部隊が狙われたらどうするんですか?」

「そこは、シールド部隊を編成、護衛させるよ」

その作戦が上手く行くかどうかは実際に試さないと分からないが、アブレイズが言うのだからきっと成功するだろう。

「アイリスは貴方の考えを読んでいると言う可能性は?」

「その時は臨機応変だよ、リーザ」

大丈夫かなっと私がそう思った時、誰かの端末が鳴る。

「失礼」

そう言ってアヤは部屋を出ていく。そして直ぐに戻ってきた。

「ヴァンテージさん、通信です。イラストリアスから連絡がありまして、現在、ラツィオの第4小隊が此方に向かって来ているそうです。話によるとフィオレンティーナを目撃し、ヴァンテージさんの部隊に配属希望されています」

「いいんじゃない?私は構わないわよ」

第4小隊と言えば、かの大戦時、ほぼ壊滅状態で唯一生き残った小隊だったような気がする。たまたま出会って、一時的に私の指揮下になり、撤退する友軍の護衛任務をした後、私が補給する為にアーク・ロイヤルに戻るまで護衛してくれた小隊だった。その後は別れて本部まで撤退していると思ったけど、近くにいるとは思わなかった。

「ただ、第4小隊は現在、エクスフェイトに追われているそうです」

「え?!早く救援しなきゃ!」

私は立ち上がり、扉に向かおうとすると、リーザが手を掴んできた。

「待って由華音、罠の可能性もある、私も行くわ」

「…はい!」

「じゃ、僕は手続きの準備をしておくよ」

「ありがとうございます、アブレイズさん」

私とリーザは部屋を出て、それぞれを乗機へ向かう。私はフィオレンティーナに乗り込み、発艦すると、既にアルテミューナがいた。

私はアルテミューナの背中に掴まると、アルテミューナは加速し、通信があった空域へ向かう。

「まだ全員生きているかしら?」

[エクスフェイト相手だから、生き残っていれば幸いね]

そして、遠くから此方に向かって来る数機の機影を発見する。

[まだ生きているみたい。けど、大分押されているわね]

「そうですね、私がエクスフェイトを引き付けますのでリーザさんは彼等の保護をお願いします!」

[分かったわ]

私はアルテミューナから手を離し、ライフルを持つと、エクスフェイトへ向かう。エクスフェイトも此方に気付いたようでライフルを撃ってくる。

幸い、海上なので流れ弾を気にする必要は無いので私は回避し、そのまま左手でロングブレイドを取り出し斬りかかると、エクスフェイトも右手で大型高周波セイバーを取り出し、受け止める。そのまま、出力を上げてエクスフェイトを弾き飛ばすとライフルを数発撃つ。エクスフェイトは被弾する直前で体勢を直し、左腕のシールドで受け止める。そしてエクスフェイトは左手でライフルを持つと、数発撃ってくる。

(おかしい。エクスフェイトはあんな戦い方をしないハズだ)

てっきり近接戦をしてくると思ってた私は予想外の行動に同様しながらもビームを回避する。瑞穂の記憶や大戦時では直線的な動きで大振りな動きが多かったが今は両手に武器を持つなど、フィオレンティーナと同じ動きでこっちを翻弄してくる。やはり、大戦時とは違うパイロットが乗っているようだ。そうなると、撃墜せずに鹵獲するのが望ましいが、簡単には行かないのが現実である。武装を全て破壊しつつ、エネルギー切れをさせるしかない…どのみち困難である。

「前より手強い…それに、何だかこっちの動きを知っている様な動きね」

ライフルを撃とうとすれば近付かれ、接近しようとすれば距離を取られて撃たれると言う、私の癖や戦法を知り尽くしている様な感じだ。なので現在の状況は良くも悪くもなく、拮抗状態となっている。

「この状況、どうすれば…」

必死に回避しながらも打開策を考えるが思い浮かばない。ふと、私はあることを思い付く。

「過去の私の動きが知られているのならば普段とは違う動きをすれば…」

私はロングブレイドを仕舞うとライフルを撃つ。するとエクスフェイトは私の読み通りに接近してくる。私はエクスフェイトが近付いてきた瞬間に振り下ろされるセイバーを回避し背中に回し蹴りをお見舞いする。蹴りをくらったエクスフェイトはバランスを崩し、落下していく。その隙を見逃さずにライフルを撃ち、エクスフェイトの右腕と大型ビーム砲を破壊する。これでセイバーは右腕と共に落ちたし、高火力兵器は潰した。後はライフルだけなので私は残りの武装を破壊する為に左手でロングブレイドを取り出すと接近し、反応の遅れたエクスフェイトのライフルを真っ二つにする。続けざまに機体を一回転させて、右足を膝から切り落とす。

「これで終わりよ!」

最後に、止めを刺そうと胸部にロングブレイドを突き刺そうとする。

(待って!)

「っ!瑞穂!?」

私は瑞穂の声を聞いて我に返り、動きを止める。すると突如、警報がなり、回避行動をとる。そして私が居たとこにビームが飛来してきた。

「何事!?」

ビームが来た方向を見るとエリーゼが居た。

そして、私がエリーゼに気を取られているとエクスフェイトは接近してきてフィオレンティーナに蹴りを入れる。

「っ!しまった!」

エクスフェイトは体勢を崩した隙に離脱していく。慌てて追いかけるがエリーゼが邪魔をしてくる。

「エクスフェイトには逃げられ、エリーゼを撃退するエネルギーが無い。仕方ない、離脱する」

気付くとスラスターの燃料が40%を切っていた。帰還する量を考えると帰れなくなるのでエリーゼをライフルで権勢しつつ、イラストリアスへ向かう。だが、エリーゼは追撃することも無く、その場でずっと立ち止まっていた。

「追撃してこない?わざと見逃しているの?」

私はそのまま戦闘エリアを離脱する。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る