第21話

「…あなたがホークさん?」

私は話しかけてきた優しそうな男性に少し警戒します。前にあんな事があったのだ、警戒して損はないでしょう。

以前の事件以来アヤから護身術を学んでいるので何かあれば投げ飛ばせばいいですから。

「由華音、警戒しなくてもいいわよ。彼は大丈夫よ」

「あ、はい」

私はイマに言われて警戒心を解きます。すると今まで忘れていた事に気付きましら。

「あ、暑い…」

私は暑さで眩暈を起こし、倒れる。

「ちょっと!由華音大丈夫!?」

遠くなっていく意識の中、イマの声が聞こえました。


「んぅ?」

私は気が付くとベッドで寝ていました。

「あれ…私はいったい…」

確か、屋外気を失ったってそれからは…。きっとアヤが運んでくれたのだろうと勝手に思い込みます。

しかし、暑さで倒れるとは、私が弱いのか、この体が弱いのか、そいや今まで快適な空間で過ごしていたのでそのツケがきたのでしょう。今後はちょくちょく外に出て体を気温に慣らしておかなければなと思いました。私は両腕を伸ばしていると誰かがドアをノックしています。

「はーい、どうぞー」

ドアが開くと雛子とアヤ、それにイマと確か、ホークが入って来ました。

「お姉様、調子はどうですか?」

「えぇ、もう大丈夫よ。心配かけたね」

ベッドから立ち上がるとセナ達の元へと歩きます。

「あらためて、こんにちは。レイス・ホークです。この度はわざわざこんな僻地までご足労ありがとうございます」

「あ、はい。それで、ですね、アブレイズさんから連絡が無いと言うことで様子見に来ました」

「わざわざすみません。実は通信機が熱で壊れてしまいまして」

てっきり敵に襲撃され、壊滅してるかと思いましたが意外とシンプルな理由でした。それにしても熱で壊れるとか、どんだけここは暑いのでしょうか。

「ですのでそちらの通信機でミズ…アブレイズに連絡したいのですが宜しいでしょうか?」

「…?わかりました」

ホークは一瞬、言い直しましたが、気にしないでおきましょう。

私はアブレイズに連絡するために部屋を出て通路へ出て、ウィンダムへ戻り、アブレイズへと連絡する準備をします。

さすがにウィンダムでも届かないので私はアヤに偵察機で近くの電波塔まで中継してもらう事に。護衛としてイマがいるから安心でしょう。

「そう言えば雛子は?」

「いえ、見ていません」

シレアが答えます。それにしても何処へ行ったのでしょうか、まさか基地内で迷子になった訳じゃ無いし、その内ふらっと表れるでしょう。そう思っていると、ホークがウィンダムの通信機でアブレイズへと連絡します。

「ありがとうございます。それで相談なんですか、通信機が直るまで滞在お願い出来ますでしょうか?」

「私達は構いませんが、アブレイズさんは大丈夫ですか?」

「えぇ、アブレイズには許可をとってあります」

「わかりました。直るまで滞在しますね」

「重ね重ねありがとうございます。では私はこれで」

「では、外まで見送ります」

そう私は言うとホークと会話しながら艦内を歩き、ハッチの所まで行きます。ホークが外に出たのを確認すると、再びブリッジへと戻りました。

「由華音さん、アルテミューナとリネージが帰還しました」

「早かったわね」

中継していたイマとアヤが帰ってきたよです。

「さて、アヤとイマさん帰ってきたし、雛子を探さないと」

アヤの機体が着艦したのを確認すると、私はブリッジを出でます。すると曲がり角から雛子が出てきました。

「あ、雛子どこにいってたの?」

「えーっと、気が付いてたら、遅れてました」

「大丈夫?熱とか無い?」

私はそう言ってセナの額に手を当てると雛子は慌てて後ずさる。

「だ、大丈夫です!お姉様!」

「そう?無理しないでね」

雛子が大丈夫というなら大丈夫でしょうがそれでも少し心配です。念のため、ウィンダムの医師に診察してもらう事に。雛子は私が心配だと伝えると素直に受けてくれました。

「ヴァンテージ大佐、シグネットさんはどこも異常ありませんでした」

「ありがと」

私は医師から雛子のカルテを受け取り、確認します。確かにどこも異常は見られず健康そのものです。少々私が過保護過ぎたのでしょうかと思ったが雛子の事だし少々過保護になっても問題ないよね。

「よかったね、雛子。問題無いって」

「だから言ったじゃありませんか、お姉様。心配しすぎです」

ウィンダムの通路を雛子と歩きブリッジへ向かいます。

「あ、そうそう、ホークさんが通信機が直るまで滞在することになったから」

「わかりました。因みに何日ぐらいかかりそうなんですか?」

「あー、聞いてなかったけど数日かかるんじゃない?」

「もう、ちゃんと聞いといてくださいね」

「はぁーい」

この時、私はすぐ終わると思っていました。

ホークが修理に入ってから4日が経っています。その間、襲撃もなく、何もなく平和な日常でした。

時間は昼過ぎ、私はブリッジのオブザーバー席に座りながら物思いに更けていました。

「最近、フィオに乗ってない気がする…」

私の記憶だと最後に乗ったのは病み上がりでしかも動かしていません。ブリッジを見渡すとウィンダムの皆は雑談したりリラックスしてます。一応、私は何があっても対応出来るようにブリッジで待機しているが凄く暇ですね。雛子は動けない私の為に買い出しに行っているし、アヤは現在物資の搬入を行っています。

「平和なのはいいけど、ただただ待機するのは暇ね」

昼食の後もあり、気を抜くとついつい寝てしまいそうで。まぁ、誰かが起こしてくれるだろうが、それでは指揮官失格です。

しかし、今も根性で起きていますが瞼が重く感じ、半分位閉じてしまう。

「由華音さん、ホークさんから連絡です。通信機の修理が終わったようです」

寝かけていた私はバランスを崩し椅子から滑り落ちそうになるがこらえるが大きな音がしたためクルー全員が此方を見ています。

「えーっと、…直ぐに向かうと伝えて」

誤魔化す為に咄嗟に適当な事を言ってしまったが逃げる供述にはなったでしょう、私は立ち上がり、逃げる様にブリッジを出ます。途中、物資の搬入指揮をしていたアヤが終了したみたいなので合流し、基地内の通信室へ向かいます。

「ヴァンテージさん、雛子さんが先に基地で待機してるみたいです」

「わかったわ」

暑さに耐えながら通信室に近付くと雛子が手を振って待っていた。

「あ、お姉様、やっと来ましたねー!」

「雛子、もう既にたどり着いていたのね」

「はい!帰り道の次いでに寄っただけです」

元気いっぱいに話す雛子が可愛くてついつい頭撫でてしまう。…なんだか視線を感じたが、きっとアヤだろう、後でアヤにもやってあげよう。

「ホークさーん?入るよー?」

「あ、ヴァンテージさん、こんにちは。ようやく直りました」

ホークが見せてくれたのは綺麗に掃除されている感が出ているCDデッキの用な機械でした。

「これが通信機ですか」

「はい、この通り」

ホークが通信機を操作し、周波数をウィンダムへ合わせます。

「あれ?さっきは動いたのですが…」

ホークが必死に操作しているがスピーカーからはノイズしか聞こえない。

暫く待っていると突如、事件が起きました。

「あぁ、あぁぁぁぁぁぁぁ!」

「雛子!?どうしたの!?」

雛子が突然、叫び声をあげ、苦しみだして暴れ始めました。

「雛子!落ち着いて!」

私は雛子に抱きつき、押さえようとしましたが普段の可憐な雛子とは思えない力で私を投げ飛ばしました。

「へ?うわわわ!」

投げ飛ばされた私は地面に叩きつけられると思いましたが、咄嗟にアヤが受けとめてくれたようです。

「大丈夫ですか?ヴァンテージさん」

「えぇ、大丈夫よ、それより雛子を止めないと」

雛子はいまだに苦しそうに暴れている。アヤが止めようと押さえるが逆に振り回されています。雛子はアヤを投げ飛ばすと走って部屋を出ていきました。投げ飛ばされたアヤは上手く着地してます。

「待って!雛子!」

私は慌てて雛子を追いかけますと、そのまま基地を出て、森の中へと入っていくのが見えます。

「はぁ、はぁ、あんな体力あったっけ?」

私は森の入り口で立ち止まり、肩で息をしていると、アヤが追い付いてきました。

「ヴァンテージさん!シグネットさんは?」

「森の、中へと、走って、いったよ」

「急ぎましょう!見失う前に!」

「えぇ、そうね!」

私とアヤは再び走りだし、森の中へと入っていきます。ある程度入った所で足場が悪いので歩いて探す事に。

「雛子ー!何処にいるのー!返事してー!」

大声をあげるが返事は無く、声は深緑の中へと消えていく。ふと、隣を見るとアヤは何か考え事をしているようです。

「どうしたの?アヤ」

「ヴァンテージさんはどうしてシグネットさんが暴れたのか、気になりませんか?」

「え?そりゃあ、気になるけど…」

少し前に医師に見せた時は問題はありませんでしたが 、ホークが通信機を動かしている最中に突然、雛子の様子が変わってしまった。そうなるとあの通信機が怪しいですが私とアヤ、ホークは特に異常は無い。スピーカーからもノイズしか聞こえなかったし。

「アヤは何か分かったの?」

「いえ、あくまで仮説ですが、あの通信機が怪しいと私は思っています」

「通信機?私にはノイズしか聞こえなかったけど」

「えぇ、もう一度確認しないと分かりませんがノイズの中に特定の人にしか聞こえない音が紛れてて、それが雛子さんを何処かしらへ誘導させた可能性があります」

もし、そうなら何か起きる前に早く雛子を回収しなければなりません。

「それなら、早く探さないと!」

「はい、ですが、何処に向かったか検討がつきません。それに天候も雨が振りだしそうですし、もう夕暮れです」

アヤの言うとおり、天候は怪しいし、辺りも暗い。この状態で森の中を歩くのは危険です。

「そうね、一旦戻りましょうか」

帰り道はアヤがある程度、マーキングしていたおかげで迷う事無く出られました。

「ヴァンテージさん、元気だしてください。明日、必ず雛子さんを見つけ出しましょう」

「えぇ…」

私が落ち込んでいるのを理解したのか、アヤが慰めてくれました。が、私は立ち直れずにいます。森を出て暫く歩いていると何か物音が聞こえて私は振り向きます。

「ヴァンテージさん?どうかしましたか?」

「今、何か聞こえなかった?」

アヤは目を閉じて周囲の音を聞いています。私も耳を澄まして周囲を探ります。

「ヴァンテージさん、北の方向から何か駆動音が聞こえます」

「駆動音?友軍が機体で探しに来ているとは思えないけど、確認してみましょ」

「えぇ、ですがもし、敵勢力ですと危険ですので、警戒しながら行きましょう」

アヤが先行し、私が後ろを付いていってます。歩いていくと段々音が大きくなってくるので木に身を隠しながら近付いていきます。

「ヴァンテージさん、前方に何かいます」

日は暮れて辺り真っ暗になっていましたがアヤは何か見えたようだ。私は物陰に隠れながら目を凝らして前方を見る。すると山間に機動兵器のシルエットらしき物がうっすらと見えました。

「あれは、アルグの機体?」

「確証はありませんが私が調査しました所、ラツィオの専用機はフィオレンティーナとアルテミューナを除いて殆ど大破しているようです。見た感じ、ラツィオの量産機のシルエットでは無いのでアルグの機体かと」

それより私の知らないアルグの機体と言えばエリーゼとエルバのどちらかです。どちらも遠距離戦を得意とする機体なので迂闊に近づけば撃たれる危険性があります。

「こういう時、雛子かイマさんが居れば分かったんだけど…」

「申し訳ありません、ヴァンテージさん」

「あ、いや、別にアヤを攻めてる訳じゃないよ!アヤは気が利くし、役にたつし」

落ち込むアヤを私は慌ててフォローします。

「っは!ヴァンテージさん!不明機に動きが!」

急いで前方を見ると不明機がゆっくりと動き、真っ暗にな闇に黄色いツインアイが煌めいています。今まで気付かきませんでしたがさっきまで後ろ姿だったようです。

「もしかして気付かれた?」

「分かりませんが、このまま隠れましょう。この暗さでこの距離で人と言う小さな目標に当てるのは至難の技です」

確かにアヤの言うとおりですが、だからと言って油断は出来ません。

その時、雷が光り不明機を照らしだす。頭部こそ暗くて見えませんが、全体的なそのシルエットに、私の中の記憶が蘇る。

「あれは、エリーゼ!?」

私がそう言った瞬間、エリーゼは私達に気付いたのか、右手のライフルをゆっくりと此方に向けています。

「見つかったようです!ヴァンテージさん!逃げてましょう!」

しかし、相手の方が早く、エリーゼがライフルを撃ち、ビームが私達の背後の山に当たりました。

「うわぁぁ!」

私とアヤは爆風に巻き込まれ、私はエリーゼの目前まで吹っ飛ばされます。

「いたた…あれは、誰?」

エリーゼの手のひらに顔こそ見えませんが服装からして雛子らしき人が立っているのが見えました。顔を確認しようとしたところ、エリーゼのライフルのが此方に向き、今にも引き金を引きそうな感じでいます。

「ヴァンテージさん!逃げて!」

後ろからアヤの声聞こえ、急いで立ち上がろうとしましたが、銃口が此方に向いているのが見えました。そして、エリーゼが引き金を引く瞬間、白い機体が空から降ってきてエリーゼの頭部に飛び蹴りを。

「え?アルテミューナ!?」

頭部に不意打ちをくらったエリーゼは後退りした後、ジャンプして遠ざかると、多数のミサイルを放つのが見えます。アルテミューナはバックパックのガトリングとライフルで迎撃していますが全て破壊しきれず、その内の一つが私の近くに着弾しました。

「ヴァンテージさん!」

アヤの悲痛な叫びが聞こえたかと思うと私は再び爆風で吹き飛ばされ、高く宙を舞った。そして地面を2、3回バウンドし、アスファルトの上を転がる。私は朦朧とする意識で駆け寄ってくるアヤを見つける。視界が歪んでいるのか腕が変な方向に曲がっているのが見える。

それでも私は必死に四肢を動かしてアヤに近付こうと、必死に這いずる。

「ヴァンテージさん!動いちゃ駄目です!」

近付いてきたアヤが手を握っているのが見えるが触っている感覚が無い。薄れ行く意識で私が最後に見たのは殆ど見たことないアヤの泣き顔だった。

「ごめ…んね…ア…ヤ……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る