第19話

私は目が覚めると白い天井が見えました。

「ここは?」

周囲を見るため体を起こすと全身に激痛が走ります。

「っつ!」

その時、扉が開いて雛子とアヤが入って来きました。

「あ!お姉様無理をしてはいけません!」

私は雛子の手を借り、ベッドに横になります。そう言えば、エクラを撃破した後の記憶がありません。

「私は…エクラを撃墜して、それからら…」

「その後はシグネットさんがフィオレンティーナを操ってミューンズブリッジ基地にたどり着き、アルグミューンズブリッジ基地内の病院に運ばれました」

「お姉様、エクラを撃破した後、気を失ってしまって、3週間寝てたんですよ」

「3週間…」

私は3週間も眠っていたのかと、それにしても未だに身体中が痛むのは相当やられたんだなと感じます。

「ヴァンテージさんが眠っている間に検査したところ、左足首、右膝、右肘、肋骨、頭蓋骨骨折他等、数ヵ所骨折していました。そして肋骨の骨折の時の破片の一部が内臓に刺さっていましたので手術で除去しましたが完治はしていません。また、一部の内臓にも外部からの衝撃で損傷しています。他にも救出時に脱水症状を起こしていたので…」

「分かった、アヤ、もういいよ…」

聞けば聞くほど増える怪我の多さに私は生きているのが不思議な位だと感じます。しかもその状態でエクラを撃破しているのだから自分自身でも驚きですね。

「それで、色々聞きたい事があるんだけど、良いかな?」

「何でしょうか?」

「アルテミューナに乗っていたのはやっぱりイマさん?」

「はい、イマさんです」

予想通りの答えが帰ってきました。「ボーセルさんは乗らなかったのね」

「ボーセル大尉は自分の戦法に合わないと拒否したため、誰か扱える人を探していた所、イマさんが名乗り上げました。代わりにボーセル大尉はアルトゥーラを借りて出撃しています」

確かにボーセルは近接戦闘が得意なので汎用機のアルテミューナは合わなかったのは納得出来ます。それに、ボーセルは機体でも、生身でも射撃が大の苦手だった気がしみたが。

「あと、どうして私が監禁されている場所が分かったの?」

通信端末があれば位置が特定しやすいが生憎私は通信端末を持っていません。乗り込んできたラストフィート姉妹にも驚きですが数日で救出が来たことに驚きです。

「そうですね、その事や救出に関しても話しましょうか。まずはヴァンテージさんの居場所が分かった理由ですが、ヴァンテージさんがいつも身に付けているチョーカーに発信器が付いていましたので直ぐに特定出来ました」

「え?」

私は無意識に自分の首に付いていると思っているチョーカーを左手で確認しようとしますが感触がありません。

「あれ?」

周囲を見渡すと気まずそうなセナの顔が目に入るが、私は気にせずにチョーカーを探す。

そして近くのサイドテーブルの上に置いてあるのを確認したので右手で取ろうとしますが、固定されているので左手で取ろうとしますが届きません。

「ん?あれ?」

「ヴァンテージさん、さっき言いそびれましたが、左目周囲を怪我して包帯で覆っていますので距離感が掴みにくいかもしれません」

「そうだったのね」

私は左手で左目周囲を触って理解する。

「それで、チョーカーの件ですが、これは破棄します」

「え?何で?どうして?」

「当然です。捕虜ならまだしも、正式に加入し、貢献しているのにも関わらず、位置を特定されているなど、逃亡の疑いの可能性があるとして、監視しているも同然です」

一瞬、理解出来なかったがアヤがチョーカーを回収しようとするので私は起き上がって叫ぶ。

「ま、待ってそれは!っつ!」

私はチョーカーを取り戻そうと起き上がるが全身に痛みが走り、手が止まります。

「あぁ!お姉様だから無理しちゃダメです!」

「だって、それは……それは、雛子が…くれた…大事な物…だから…」

「お姉様…」

雛子が持ってきた服装の中に異色の物があると思っていたが女性らしさを出すものだと思っていました。

だが私もそこまで鈍感じゃない。ある日、じっくり見ていると分解した後がありましたので何かあると思いましたがまさか発信器とは思わなかっただけで。

「ごめんなさい、お姉様を騙すつもりはなかったのです。隙を見たら回収しようと思っていたのですが、お姉様が嬉しそうに着けるので、なかなか言い出せなかったのです」

雛子が涙を手で拭いながら言うので、慰めようと手を伸ばしますが距離感が掴めないので手が虚空をさまよいます。

「インテンス大尉、今回はこれのお陰で助かったのでこの事は不問にする」

「しかし!」

「あたしの言う事が聞けないの?インテンス大尉。ぐっ!」

由華音は睨み付けて言うと再び全身に痛みが走り、私は踞うずくまります。

「お姉様!」

雛子が私の体を支えると、次第に痛みは収まりました。

「逆らってしまって申し訳ありません、ヴァンテージ大佐、私が間違ってました」

アヤは頭を下げて謝罪をします。アヤが逆らったのは初めてかもしれない。

「ううん、こっちもごめん、アヤ。強制するような言い方して。それより、話の続きをしてくれる?」

私は笑顔でアヤに問いかけます。

「はい、ヴァンテージさんの大まかな居場所は特定出来たのですが、アブレイズさんの情報によると過激派の管理する基地だと言うので迂闊に行けなかったのです。そこで小柄で身体能力の優れているラストフィートさん達が基地に潜入する事になりました」

だから、あの子達が助けに来たのだと理解しました。

「そしてヴァンテージさんの居場所を特定後、保護、回収するのですが、ヴァンテールさんの状態が不明であり、潜入して来た道を戻るのも危険だと判断しましたので、騒ぎを起こし、手薄になった所をフィオレンティーナが複座と言う事を利用してでの回収するという案になりました。因みにフィオレンティーナ回収する案を出したのはシグネットさんです」

「なるほどね、随分大胆と思っていたけどそう言う事だったのね」

そう言うと私は雛子を見ます。雛子はまだ泣いた後なので少し腫れていましが私が見つめていると、ニコッと笑うので私もつられて笑顔になります。

「しかし、1つ問題がありまして、フィオレンティーナがまだ調整中だったのです。なのでエルヴィス曹長に早く終わらせるようお願いをし、3日後に作戦決行となりました。ヴァンテージさんには辛い思いしてしまったかもしれませんが」

それを聞いた私は後でシャウラには特別ボーナスとリフレッシュ休暇をあげようと思いました。

「ううん、私は必ず助けてくれるって思ってたから、辛くは無かったよ」

少し嘘をついたが助けに来ると信じていたのは間違いないですね。

「そして、作戦決行日にようやくフィオレンティーナの最終調整が終わりましたのでシグネットさんには慣らし運転無しで行って貰いました」

「雛子、よくいけたね」

「動かすだけなら行けると思いまして」

「そうですね、シグネットさんは良くやったと思います。ラストフィートさん達がヴァンテージさんの居場所を特定後、シグネットさんがそこへ直接乗り付けて回収する為に、アルテミューナ筆頭で基地を奇襲し、混乱している内にフィオレンティーナで回収という作戦内容でした」

そう言う事だったのかと、だからフィオレンティーナのパンチで壁に穴を開けたのね。

「しかし、予想外の事が起きまして、エクラがフィオレンティーナを追撃したのは予想外でした。パイロットは把握していたので押さえておくつもりでしたが逃げられてしまったとの事です。瀕死のヴァンテージさんが撃破したと言う、報告を聞いた時は驚きましたが」

「あ、あの時は痛みや疲労を感じなくて…」

事実、雛子を守りたいって事だけを考えていたいたので他の事が感じられなかったのでしょう。終わった後、その反動が重く来ましたが。

「そうですね、今後無理をしないでください」

「はぁーい」

「それと、ヴァンテージさんのフィオレンティーナが直りましたので、アルテミューナの運用を考えていた所、イマさんが名乗り挙げました」

確かに私はフィオレンティーナがあればアルテミューナに乗る必要が無いのでイマに託すのは賢明な判断です。それにしてもイマがアルテミューナに乗ると鬼に金棒だなと思っていますと突如、入り口から声がしました。

「由華音、さっき失礼な事考えなかったかしら?」

「い、いえ!そんなことないです!」

イマが籠にフルーツを大量に持ってお見舞いに来るとは思っていませんでした。

「元気そうね、重症だと聞いたのだけれど」

「はい、おかげさまで」

イマは中に入り椅子に座ると籠から林檎を取りだし、器用に8つに切り、蔕を切り取ると此方に差し出しました。

「あ、ありがとう、ございます、イマさん」

「アルテミューナ、なかなか良い機体ね。気に入ったわ」

「そうですか」

「完治したら、あなたのフィオレンティーナと模擬戦しましょ」

「お、お手柔らかに…」

その後も面会時間ギリギリまで4人で会話していました。

2ヶ月後、私はまだ完治はしていませんが歩ける位に回復しましたので、退院してます。

そして現在はイラストリアスの自室にいます。

普通なら数ヶ月のようですが、この身体は驚異的な回復能力を持っているようです。

そして今回の事件で基地内のセキュリティが強化され、基地関係者には全員に穏健派専用のIDカードが配られる事になりました。

因みに私が監禁されていた基地はイマがアルテミューナで完膚無きまで破壊しつくしたとか。同行していたイラストリアスの部隊の人によるとその動きは鬼神の如く破壊活動していたのでボーセル以外誰も近付けなかったらしい。

結局、アルテミューナのエネルギーが尽きかけて動きが鈍ってもまだやろうとするので数機が組み付いて止めたとか。

そして問題のチョーカーはアヤが私の前で丁寧に分解し、発信器を取り出して私の元へ戻り、今も着けています。

現在は病み上がりと言うことなのでアヤに動かないよう言われていますが、少々暇をもて余してもいます。その証拠に机の上には折った折り紙で一杯です。

「暇ね、そだ、フィオでも見に行こう」

私は席を立つと格納庫へ向かいます。格納庫へたどり着くと、シャウラが出迎えてくれました。

「ようこそ大佐…インテンス大尉から安静にしてるようにと言われませんでしたか?」

「あー、うん、私は歩けるぐらいは大丈夫よ。それより、直ったフィオが見たいのだけれど」

「大佐が言うなら止めませんが、此方です」

シャウラに付いていきフィオレンティーナの元へたどり着きます。

「わぁ、フィオ、綺麗になったね」

前まであった修理跡や無数の傷は消え、鮮やかダークレッドの装甲に包まれたフィオレンティーナがあった。外見は私の要望通り、ダークレッドになっており、腹部のビーム砲は修復され、背中のエールユニットは綺麗に修復されています。

「ちょっと電源入れて色々確認したいんだけどいい?」

「…動かしちゃ駄目ですよ」

「やったぁ、シャウラありがと♪」

私は早速乗り込むと電源を入れる。本来なら雛子が後ろに座るのだが、雛子は今、アヤと一緒に艦内から出れない私の代わりに夏に向けて服の買い出しに行っています。モニターが映るといつものように機体名が映し出される。


"XJL-9/D Fiorentina-Dzire"


「ん、型番が少し変更されて、名前も追加されている。ディザイア?正式名称はフィオレンティーナディザイアか。長いし従来通りフィオでいっか」

動かさない約束なので私はモニター上で武装を確認します。

「そう言えば左手にもライフルがあったのね」

救助時は邪魔だったのか、ライフルは片方未所持でした。

前のは紛失したので新しいのを持いますが以前のより、出力上がっているようです。ブレイドも以前使ってた物とほぼ同じの大小2本揃っていし、腹部のビーム砲も出力が上がっている。

使いにくいレールガンを廃止し、ガトリングに変更。後はヒートダガーが2本追加してあります。ブレイドを紛失した時の予備でしょう。

「ジェネレータ出力が上がってるので色々威力が向上しているのね」

出力が上がって動きが早くなってるが、シャウラが最適化しているので反応も良く、使いやすくなっています。

「試したくなるけど、シャウラから動かしちゃダメって言われてるし…」

ダメと言われると逆らいたくなるのが人の本性である。動かしたくてうずうずしているとブリッジから通信が入りました。

[ヴァンテージさん、駄目です。テストとは言え、発艦は許可しません]

「あぅー」

私はアヤに行動を読まれていたようです。まさか通信越しにアヤが止めに入るとは思っていませんでした。なので私は大人しく電源を切りキャットウォークへ降りると雛子がいます。

「もぅ、お姉様ダメじゃないですか!部屋で大人しくしてくださいって言ったのに!」

「…だって暇だったから」

「怪我が悪化したらどうするんですか!まだ完治してないんですよ!」

「…はい」

私は大人しくひなと一緒に部屋に戻ります。部屋に戻ると雛子が珈琲を淹れてくれました。

「はい、どうぞ」

「ありがと、雛子」

私はいつもの椅子に座ります。雛子も同じ珈琲を淹れてますが、ミルクと砂糖を入れていた。

「お姉様、まだ一部の骨が完全にくっついていないのでおそらく、出撃時の加速に耐えられない可能性がありますよ?」

「…はい」

私は珈琲を啜る。雛子も一口飲むとカップを置きました。

「そう言えば、お姉様って戦闘時、一人称変わりますね」

「あぁ、うん、それね」

実際、自分でもよく分からない。何故変わるのか、そもそも意識が切り替わると言うか、別人になるというか、はたまた、私では無く、一時的に由華音に戻っているのか。

「私もよく分からないのよ」

「そうなんですか、実はお姉様って二重人格?」

「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」

「わぁ!それでしたら、もう1人のお姉様話してみたいです!」

雛子の目がキラキラしているので出来ればやってあげたいが変わる条件が今の所、戦闘中でしかない。

「えっと、もう1人の私と話したいのは分かるけど、恥ずかしがり屋みたいで、戦闘中にしか表れないのよ」

「戦闘中ですか、話しかける状況じゃ無いですね」

雛子も納得してくれて良かった。

そう言えば、由華音の母親って何処でどうしているのだろうか。前世の私の両親も気になるが由華音がラツィオから離れた今、どうなっているか心配です。アブレイズさんに頼んで保護してもらおうかな。

「そう言えば、雛子って前に孤児だって言ってたよね」

「はい、そうです」

「両親に会いたいとは思った事は無いの?」

「両親ですか、生きていたら会ってみたいですね。確か、お姉様はお母さんがいるんですよね」

「うん、アルグに保護してもらおうかと思っているの」

「それは良いですね、アブレイズさんに言えばしてくれるかと。所で、お姉様の故郷って何処ですか?」

「故郷?えーっと」

確か、ここから遠くなかったハズだが。でも、思い出すと前世の私の実家と由華音の記憶にある実家の位置が一緒ですね。これはただの偶然なのでしょうか?そもそも由華音の名字は日本人っぽく無いし。母は確か…由仁・ヴァンテール、うん、日本人っぽい。父は母曰く、由華音が幼い頃に戦場に行ったまま帰ってこないと聞いたので由華音も母を楽にするため、そして父の遺品を探すために軍に入ったと言ってた気が。

そう言えば以前、シレアがラツィオのサーバーをハッキングしてデータを見た所、戦死扱いとなっている。と、言うことは母にも連絡が行っている可能性がありますね。今になって私の名前で連絡したら疑われる可能性が高い。

「お姉様?どうしました?突然黙ってしまって」

「あ、えっとね、私って前大戦で戦死扱いでしょ?だから私の名で保護依頼だしたら怪しまれるかなーって」

「それはそうですけど、なら直接会ってみたらどうですか?」

「どんな顔していけばいいか分かんなくて」

「私は親がいないのでそう言うのがわかりませんが、アヤさんと行けば信じてくれるかも」

確かに雛子はともかく、部下のアヤがいれば信じてくれるだろう。でも、まだ行く決心がつかない。

「んー、じゃあ近いうちに行きましょう!お姉様が迷っているぐらいなら、会ってみた方がいいですよ!」

「そ、そうね、明日行ってみましょう」

そんな訳で急遽、明日の予定が決まりました。

そして次の日、アヤが運転する車で由華音の実家へ向かいます。イマも護衛と、元上司として来ているがおそらく本音は興味本位だろう。

車はアルグが貸し出している物では無く、アヤが実家から借りてきた、オレンジのコンパクトなミニバンだ。アヤが運転し、助手席に私、2列目にイマと雛子が座ってる。

ふと、私は運転しているアヤを見る。その姿は頼もしくも凛々しくも見ます。雛子は後ろでイマと会話しています。

そして気が付くと私の実家へとたどり着いていました。

「なんだか、緊張してきた」

由華音の記憶では会うのは、ラツィオ軍に入る日に、少し会話した程度と、大分前だ。

それまでは各地を回っていたため手紙ぐらいしか、送っていない。最後の手紙は全最終決戦前なので半年以上送ってない事になります。

「何でしたら私が先に行きましょうか?」

「いや、私が最初に行かなくちゃ」

私は震える手でずっと大切に持っていた鍵で玄関を開け、中に入ります。

「た、ただいまぁ…」

すると足音が聞こえてきて、奥から由華音に似た黒髪の女性が現れる。

「ゆ、由華音?本当に由華音なの?」

その女性は私を見るなり、涙を浮かべる。

「えっと、うん、私だよ」

そう言うと私は、駆け寄ってきた女性に抱き締められる。

その時、由華音の記憶と前世の私の母に抱き締められた記憶が甦る。

「お母さん…」

「由華音、死んだって聞いてたから」

「ずっと連絡出来なくて、ごめんなさい」

私は抱き締め返すと共に、涙が溢れる。母に会えるのがこんなにも嬉しい事だと実感する。

前世の私はもう、会えないが私にはもう1人の母がいた。私の後方ではセナが涙を流し、イマとアヤは穏やかな顔をしている。母は離れるとセナ達に気付く。

「あら?貴女は確かアヤちゃんだっけ?由華音が送ってきた写真に載ってたわ」

「お初にかかります。アヤ・インテンスです」

「あら、礼儀良いのね。そちらの方々は?」

「雛子・セナ・シグネットです!、お姉…由華音さんのパートナーです!」

「イマと申し上げます。由華音の元上司です」

セナが元気よく挨拶し、イマさんが優雅に挨拶する。

「あら、こんな可愛い娘が由華音のパートナーなんて、こんな所で何ですし、上げってください」

私達は母、由仁に案内され、ダイニングの椅子に座る。そして母がお茶を用意する。

「そう言えば由華音、お父さんに線香あげてきなさい」

「はーい」

私は席を立つと仏壇のある部屋へ行くと父の遺影の隣に入隊した時に撮った由華音の写真があった。

「あたしはまだそっちに行かないよお父さん」

由華音は自分の写真を取って仏壇の引き出しへしまう。そして線香をあげるとダイニングに戻ると4人で談笑していた。

「お母様、お姉様に似て若くて美人ですね!」

「ありがと、雛子ちゃん。こんなおばさんに美人なんて。私の娘にならない?」

「お母さん、何言ってるの?」

「あら由華音、戻ってたの?雛子ちゃん、可愛いし、両親居ないから養子ししようかと。そう言えばあなた、雛子ちゃんにお姉様って呼ばれているんだってね」

「あ、うん、えーっと、雛子はどうなの?」

私は雛子を見る。

「わ、私は、両親は居ないですし、いいかなーっと、思って」

「雛子ちゃんもこう言ってるし、ね?」

どうやら母は本気にしてるようだ。雛子と姉妹になるのはいいが、話が唐突すぎる。何とかして話題を変えなければ。

「そだ!お母さん、私ね、ラツィオを辞めて今はアルグにいるの!」

「えぇ、知ってるわ。さっき雛子ちゃんから聞いたもの。頑張ってるそうね」

「うん、それでねお母さん、お母さんが良ければなんだけど、安全な所に引っ越さない?」

母は一瞬、驚いた顔をするがすぐに元に戻る。

「ありがとう、由華音。でも私はここに残るわ」

「え?」

「私達の大切な家だもの。それにル由華音が帰ってくる所を守らなきゃね」

「お母さん…分かった。でも危なくなったら言ってね」

そう言って私は連絡先を教える。と言ってもアヤの通信端末に繋がるのだが。その後は家で母が晩御飯を作ってくれたので食べて行くことに。

「泊まっていかないの?」

「えっと、着替えが無いし…」

「あら?お母さんの使えばいいじゃない。皆似たような身長ですし。雛子ちゃんには昔、由華音が着てた物があるわよ」

「はい!ぜひ!よろしくお願いします!お母様!」

「雛子!まだ、イラストリアスに連絡が…」

「ヴァンテージさん、問題ありません。イラストリアスには連絡済みです」

「あぁ、そうなの」

なんだかんだで泊まって行く事に。順番にお風呂に入った後、皆でリビングに集まり、テレビを見る。

「大勢でテレビ見るのは久しぶりねぇ」

母が楽しそうに言う。私も皆と見るのが懐かしくも楽しい前世でもこうして家族で見てたなと。

「あら?もうこんな時間。雛子ちゃんは由華音と寝るとして、イマちゃんとアヤちゃんは、お父さんのベッドでいいかな?」

「えぇ、構いません」

「いいわよ」

「え?え?私はお姉様と一緒?」

雛子は戸惑っているようだがアヤとイマは気にしていないようだ。

「じゃ、セナ、私の部屋に行こ!」

「はい!」

私は雛子を由華音の部屋へと連れていく。部屋は由華音が出ていった時から変わらないと記憶している。埃が無い辺り、母が定期的に掃除をしていたのだろう。私と雛子は同じベッドに向かい合って寝ると話ながら寝るのだった。

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