第16話

私は今、ヴァルカン艦長と雛子の案内で連れてアルグの穏健派の代表、アブレイズに会うため、基地の一室で待っています。

さっき、ヴァルカン艦長から聞いた話ですが、ここは穏健派の本拠地のようです。本拠地と言うことは穏健派の代表者と直ぐに会え。代表者に会って、アルグに加入すればアルグの穏健派からサポートや補給が受けられる予定だ。

現在、何処にも所属していないイラストリアスにとっては戦力を提供するだけで補給できるので好条件。勿論、全クルーの了承も得ています。

なので代表者を待っているのだが……50分近く待っていても来ません。幸い、雛子が珈琲を提供しているので問題はないが、私は既に2杯飲んでいます。

しかし、午前中ですがそろそろ眠くなってきました。私がうとうとし始めると扉が開き、一人の女性が入ってきます。

「やれやれ、客人を待たせるとは、少しルーズすぎないかのぅ?」

「じぃじ、僕がそう言う人だって分かってるでしょ?」

私は慌てて意識を覚醒し、入って来た女性を見ます。ワインレッドの髪を後ろで一本に縛り、つり目で見た感じは男性っぽい中性的な顔をしています。服装はズボンでカッターシャツを着ていて、ネクタイを着けています。一瞬、男性かと思いましたが、よく見ると女性らしい特徴が見られます。

「おや?君が新しい人だね。初めまして、僕がアルグ穏健派をまとめてる瑞樹・アブレイズだ」

「由華音・ルキアル・フリード・ヴァンテールです」

私は差し出された手を握ります。

「ところで君、ラツィオのエースで、かのフィオレンティーナのパイロットらしいじゃない?」

「え、は、はい」

私がフィオレンティーナのパイロットだと知ってる事はアルグ内で広まっているのでしょう。しかし、それ以前に相手の意味深な発言で私の背中に冷や汗が流れています。

「僕と決闘して勝ったら加入を許可してあげるよ」

「え?じゃ、じゃあ、私が負けたら?」

「そうだね、君、美しいね。加入を許可してあげる代わりに僕が特別に可愛がってあげる」

私はドン引きしますが、アブレイズは表情変えずに此方を見つめています。どっちにしろ、加入するのは確実のようですが、何されるか分かりません。

「待ってください、それなら私が変わりになります」

「アヤ?!」

突然のアヤの発言に私は声を荒らげました。しかし、アブレイズはアヤを一目見るとこう言います。

「いいね、アヤちゃんも可愛い、由華音ちゃんの替わりになるならいいよ」

「えぇ?!」

一応、確認するがアブレイズは女性のハズだ。

「ヴァンテージさん、勝つと信じてますから」

「あ、うん、わ、わかったアヤ」

そして決闘は直ぐにやるとの事なので私とアヤは一旦イラストリアスへと戻ると格納庫へ直行します。

「シャウラ!シャウラ!」

「どうしました?大佐」

私は走ってシャウラの元へ行きます。シャウラは作業していた手を止め、此方に振り替えりました。

「フィオは動かせる?」

「いえ、まだです」

そう言って振り向くシャウラ。私も目線を追うとそこにあるのはダークレッドの装甲に包まれたフィオレンティーナでしたが、見た感じでは十分動きそうです。何か問題あるのでしょうか。

「動かせないの?」

「はい、まだプログラムの修復、改良が出来ていません」

「プログラム?」

そう言えばそんな事言ってたような気がしましたが。

「えぇ、大佐が追加して欲しい武装を動かすデータの追加に加えて、長期稼働による不要なデータの削除、メインプログラムの不具合の修正、各部の最適化をしなければなりません。それと、み……」

「み?」

「み、未知のプログラムもありましたのでそれの解読もしなければいけません」

「そ、そうなのね」

私はプログラムなんてさっぱりだからシャウラに任せるが私がちょこっと要望しただけで現場は苦労しているのだなと思いました。私が動かしている分には問題無く動くが内部では色々と不具合が蓄積していったのでしょう。

しかし、フィオレンティーナが使えないとなるとアルテミューナを使うしかありませんが、アルテミューナは借りていると言う認識が強いので出来れば傷つけたくありません。

しかし、フィオレンティーナは改造中で使えないので、私は大人しくアルテミューナに乗り込み、発艦して指定の広場へと着地させます。今回は射撃禁止と言うルールですので武器は演習用のブレイドのみで戦う事になっています。なので、アルテミューナは手ぶらで空中戦もしませんので背中にあるエールユニットも取り外しています。レールガンと腹部のビーム砲はロックされています。

相手が来ていないので私は待っている間に周辺を見渡すと、少し遠い所にかなりの人が集まっているのが分かります。恐らくアブレイズがここで決闘すると告知したのでしょう。それを聞いた周辺住民や、関係者が集まって見物していると私は思いました。

更に待っていると前方から一機の機体が着地します。それは深紅の機体で背中に一対のウィングとスラスター、右手に一本のセイバーを持った機体。

「AX-49F、アルトゥーラ。そういや、アブレイズって言う名前のパイロットがいたっけ」

アルトゥーラはエクラと同じく近接特化ですが、違う所は武器はセイバー1本と胸部の機銃のみと言う、極端な機体でした。一見すると近付かなければよさそうですが、トリッキーな機動で相手を翻弄し、接近したところでロングセイバーによる連撃を当てると言う戦法です。さらに運動性能が高く、隙も少ないので更に厄介な相手です。

勝たなければ信頼してくれているアヤに何されるか分かりません。私は深呼吸し、気を引き締めます。そしてアルトゥーラから通信が入りました。

[おや?その機体、フィオレンティーナじゃ無いね?]

色が違うとは言え、エールユニットを外しているアルテミューナの大まかなシルエットはフィオレンティーナとよく似ています。違いとしては頭部の細かい形状位しかないのですが…

「あ、はい。フィオはまだ修理中なので」

[そう、でも問題はなさそうだね?]

「はい!」

私が返事すると外から外部マイクを通して聞き覚えのある声が響きます。

[さぁ!まもなく始まります我がアルグ穏健派を纏める美形代表と名高い瑞樹ちゃんと元ラツィオのエースで次期アルグのエース候補のゆかみんの決闘!実況はあたし、イレアと]

[シレアと]

[ミレアですぅ。そしてこちらの方はぁ、景品でぇ、由華音さんのぉ、副官のぉ、アヤさんですぅ]

「あの子達、何しているのかしら…それに景品って…」

何だか楽しそうなラストフィート姉妹と傍らに座っているアヤ。

[さぁ!両者準備が出来しだい始めます!その間にルール説明をシレア、お願いします!]

[はい、ルールを会場の皆様に説明します。今回は主催者でもあるミズキさんの提案で武器は模造刀のみとなっており、射撃禁止となっております。どちらかが降参するか行動不能になるまで戦ってもらいます。尚、武器は全て演習用となっています]

[楽しみですねぇ]

一機のアルマスがアルテミューナの元へやって来て二本の模擬刀を差し出してきます。決闘前に私が所望した大小の模擬刀です。私は短い方を右手に、長い方を左手に持つと、目の前の量産機から通信が入りました。

[由華音、頑張ってね]

「イマさん?」

イマはそれだけを言うと離れていきます。

[さぁ!ここで両者の機体解説をします!ミズキちゃんの機体はAX-49F、アルトゥーラ!武器はセイバー1本と言う騎士道精神を形にしたような機体です!]

[対して由華音さんの機体、XJL-12/Eアルテミューナは現在修理中のXJL-9/1フィオレンティーナの発展型であり、スペックは変わらないですが各部の最適化に運動性能が向上しています。本来は遠近こなす汎用機ですが今回の決闘の為に不要な全て装備はロック、外してあります]

[名前が似ていますねぇ。でもぉ、由華音さんのぉ、機体はぁ、汎用なのでぇ、不利じゃないですかぁ?]

[そうですねー、でも、ハンデはつけれないのでゆかみんには性能差を腕でカバーしてもらいましょう!]

「えぇ!」

一瞬でも期待したが直ぐに希望は砕け散った。しかし、なぜ公表していないアルテミューナのスペックを知っているのか謎である。

[さぁ!両者準備が完了したようなので始めたいと思います!]

私は操縦桿を握り直し、自分を落ち着かせます。

[それでは、アルグファイト、レディー!ゴー!]

なんかのアニメの影響でも受けたのでしょうか、変な開始の合図ですが、イレアの掛け声と共にアルトゥーラがスラスターを吹かして接近し、ロングセイバーを振り下ろしてきます。それを左に避けるとアルトゥーラはそのまま、斜めに振り上げる。それをロングブレイドで受け止めますが、少し押されます。

「想像以上にパワーが強い!」

アルテミューナも脚部にジェネレータを2個搭載しているので出力はそれなりに高いのですが、無理な体勢な故に踏ん張れなかったかな。

でも、少し位押されたからってアルテミューナが劣っている訳ではありません。私は出力を上げ、押し返します。相手もアルテミューナのパワーに驚いたのか飛び下がるので、私は追撃をするため走ってロングブレイドで袈裟斬りをしますが、視界からアルトゥーラが消えます。

「え?」

その瞬間、後部に強い衝撃を受ける。

「ぐぅ!」

[おーっと!アルテミューナの背中にミズキちゃんの一撃が当たったー!]

辛うじてバランスを保つものの、大きくよろける。後ろを確認するが、既に姿無く、私は周囲を見渡すが居ない。すると動く影が見えたので上空を見るとアルトゥーラがロングセイバーを振り下ろしてくるので咄嗟に両手のブレイドをクロスさせて受け止めると、はね除けて、バランスを崩したアルトゥーラの胴に回し蹴りを打ち込む。

[ゆかみんの回し蹴りが炸裂!]

[今のは綺麗に入りましたね]

アルトゥーラは蹴りを受けながらもスラスターを吹かして体勢を整えると、ロングセイバー持っていない左手でアルテミューナの頭部を掴み、そのまま地面に叩きつける。そして突き刺そうとするので私はアルトゥーラの胴を蹴っ飛ばす。

「くっ!離せぇ!」

[ゆかみん、相変わらず足癖が悪いですねー]

[でもぉ、由華音さんらしくて良いと思いますよぉ]

少し離れた所で対峙するアルトゥーラ。すると相手から通信が入る。

[流石、元ラツィオのエース。ますます、僕の物にしちゃいたいよ]

「舐めないでよね!あたしは元ラツィオの士官なんだから!」

由華音は機体を起き上がらせると、アルトゥーラに接近し、フルパワーでロングブレイドを振り下ろす。勿論、受け止められるがそれは想定内であり、由華音は短剣をアルトゥーラの胸部に刺す。実際は刺さらないので仰け反る程度だが。そして仰け反って隙が出来た所に回し蹴りを胴体に打ち込む。

「はぁぁぁ!」

追撃とばかりに走って突き刺そうとするが、アルトゥーラが倒れたままスラスターを吹かし、寝そべったまま後退する。そして立ち上がるとロングセイバーを横凪ぎに振るう。由華音は距離があるのでそのまま突っ込むが、模擬刀が迫ってくるのに気付き、ショートブレイドで弾く。

「何ごと?!」

由華音は何が起こったが確認するが、アルトゥーラとの距離は遠いのに何故、ショートブレイドが当たったのだろうか?

[出たー!アルトゥーラの必殺技!ロケットソード!この攻撃にゆかみん!戸惑っているぞー!]

[でも、流石由華音さん。対応出来ていますね]

よく見るとアルトゥーラの肘から先が伸びていた。

「そう言う事ね。思い出したわ」

アルトゥーラは肘から先がワイヤーで繋がっており、伸びて攻撃することが出来るのを忘れていた。

でも、分かってしまえば対策は可能だ。由華音は伸びる腕に警戒しつつ、接近する。アルトゥーラは腕を飛ばしてくるがそれを避け、がら空きの胴に斬りかかる。

「もらった!」

[そうかな?]

アブレイズの声がしたと思ったら後ろから衝撃が来る。確認するとアルトゥーラが伸ばした腕を戻す時にロングセイバーを上手く操ってアルテミューナの背中に当てていた。そしてよろけた所に頭部に左ストレート、脇腹にロングセイバーが当たり、回し蹴りが胸部に当たると、アルテミューナは吹っ飛んで倒れる。

[現在、ミズキちゃん優勢です。由華音さん不利ですけど頑張りますね]

[私はぁ、ゆかねさんを応援してますぅ]

ゲームとは違い、予想だにしない戦法に警戒しなければならない。そしてどうやって対処するかだ。此方は汎用機なので近接特化に正面から挑むのはあまりにも無謀だ。大まかな装備は分かったのでどう攻め込むか、考える必要がある。

「不利でも、あたしは負けられない!」

由華音は機体を起き上がるとスラスターを吹かして接近する。そしてアルトゥーラに斬りかかると相手はロングセイバーを受け止め、鍔迫り合いの状態になる。

[由華音ちゃん、そんなにアヤちゃんが大切なんだね]

「えぇ!そうよ!雛子と同じ位に大切な人よ!」

由華音は押し込んで突き飛ばすと、無防備になった胴体に空中で縦に回転し、3回切りつけて着地する。アルトゥーラはバランスを崩しているので防御出来ず、直撃します。そして、後ろに倒れると暫くしてコックピットハッチが開いて中からアブレイズが出てきました。

[君の想いと実力、よく分かったよ]

「え、じゃ、じゃあ」

[今回は僕の負けだ。でも、僕は諦めてないからね]

アブレイズはそう言うと、機体を伝って地面に降りると何処かへ向かって歩いていきました。私は終わった安堵感でシートに深く座り、安堵をはきます。そして今後の事を考えながら、帰艦するのでした。

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