第13話

ウィンダムがイラストリアスへ着陸後、私達は甲板へ降り立ちます。すると、遠くから雛子が走って来ました。

「あ!お姉さま!私の存在忘れてたでしょ!」

「ごめんごめん、悪気は無いよ」

すると、雛子の背後からダンフリーズ中佐がやってきました。

「ウィンダムのクルーの皆さん、ようこそ、イラストリアスへ。艦長のジョニー・ダンフリーズ中佐です。ヴァンテージ大佐の保護を感謝いたします」

「ウィンダム艦長のヴェーラ・ヴァルカンです。礼には及びません、当然の事をしただけじゃ」

艦長同士が固く握手します。

「しかし、ラツィオの伝説の闘将、ヴェーラ・ヴァルカン大将がアルグにいたとは、予想外でした。艦長室に案内しますので、ぜひ、お話を」

「ほっほ、かしこまらんでいい、今はただの老いぼれじゃ」

ヴァルカン艦長とダンフリーズ中佐は話しながら何処かへ歩いていきました。

「イマさん、ヴァルカン艦長ってそんなに凄い人だったの?」

「そうね、私も少し聞いた程度だけど、ヴァルカン艦長が指揮した空母が対艦ミサイルで沈められるまで、一度も被弾が無かったって事ぐらいね」

「そうだったんだ」

「その後は、新たな空母の艦長を進められたみたいだけど、断ってそのまま退役、ラストフィート姉妹と出会ってウィンダムの艦長になったと言う経緯があるわね」

「今の姿から思えない人ね」

「そう言えば、あなた、捕まった直後ヴァルカン艦長から武勇伝聞かされていたよね?」

「え?あ、はい」

「あれ、殆ど実話だから」

そう言われると、捕虜になった時、ヴァルカン艦長から武勇伝を延々と聞かされたような気がしますが、あの時は緊張してたのであんまり内容を覚えていないです。

「その顔だと、殆ど覚えていないようね」

「へ!あ、はい…」

「ヴァルカン艦長は聞いてくれるだけで満足する人だから。それより、アヤ、イラストリアスの案内よろしくね」

「は、はい!では、まずは艦橋へ案内します」

アヤを先頭に、私と雛子、イマとラストフィート姉妹が続き、サリナがミナの腕に抱きつきながら歩いていますが、嬉しそうなサリナに対して、恥ずかしそうな顔のミナが見えました。

「この前は、戦闘中だったからゆっくり見れなかったな」

「そうでしたね。あの時は急いでいましたから」

そして、ブリッジへと入ります。

「わぁ、見て見て!みなちゃん!不思議な機械がたくさん!」

「サリナ、触っちゃだめよ?」

「はーい!」

「ヴァンテージさんは来たことあると、思いですが、ここがブリッジです。イラストリアスは普通の空母とは異なり、弾道ミサイルや対艦ミサイルを多数搭載しています。更に無数のファランクス《近接防御》システムを搭載しており、全方位からミサイル来ても迎撃可能となっています」

「それなら安心して帰れるね。でも、一人で制御は大変そう…」

見た感じ、今のブリッジには数人しかいません。

「大丈夫です、ヴァンテージ大佐。戦闘時は4人で行います」

「流石にこの大きさだと、パーキンスさん一人じゃ無理なのね」

「はい、それでも、足りないぐらいです。イレアさんが一人でやっていると聞いて驚いています」

「あたしは普通の人間じゃないからねー」

「え?そうなのですか?」

「うん、でも、迎撃するコツは教えれるよー!」

「是非!お願いします!」

パーキンスはイレアを連れて自身のコンソールへ行きました。

周りを見るとシレアはフェルテの所へ、ミレアはサリバンの所で、それぞれ何かを教えていました。

「えーっと、姉妹は置いていこっか」

「そうですね、次は食堂へ行きます」

ラストフィート姉妹を置いて食堂へ向かいます。

「そう言えば、イラストリアスって何人いるの?」

「3000人です」

「3000人もいるのね…」

「ですが、現状は乗組員も足りませんがパイロットはもっと深刻です」

「そんなに?」

「はい、イラストリアスに搭載してる機動兵器はアタッカー20機、ショット20機、ディフェンダー10機。航空支援用の機体は、戦闘機30機、攻撃機30機、ヘリコプター20機、ガンシップ2機ですが、現状はその大半がパイロット不在です。ブリッジも火器担当が4人でしたが、本当は8人必要なんです」

そう言われると、戦闘では7機しかいなかった気が。

「…深刻な人手不足ね」

「大半が船の運用になっています。それに、ニールセン準尉とサラザール準尉の今後の進路も本人達に聞かなければいけません」

「あの二人、何かあるの?」

「二人とも、ラツィオの時から学徒兵なんです。大学の奨学金を得る代わりに機動兵器のパイロットになると言う、交換条件で」

「あ、そうだったんだ。緊張してる感じはあったんだけど」

先の戦闘でもちょっと私語が多かった気がしましたが、戦闘に支障無かったので聞いてないふりをしました。

「無理に引き留める訳にもいかないけど、更に人手不足が深刻化する…」

「はい、ラツィオから脱退した今、奨学金は出ないと思いますし…」

「それに関しては私からアブレイズに話しとくわ。多分、出してくれると思うわよ」

「ほんとうですか?ヴ…サンクさん」

「えぇ」

「それじゃ、後で話すとして、パイロットはアルグから貰うとして…ブリッジはどうしよっか?」

ブリッジ要員を今から増やしても訓練しなければいけないし、アルグもそんなに人数がいるとは思えません。すると、イマが何かを思い付いたようです。

「ウィンダムみたいに、少人数で動かせるよう、姉妹にAI入れればいいんじゃない?」

「そうですね、落ち着いたら施してもらいましょう」

数分ぐらい歩いたでしょうか、アヤが扉を開けると広い空間が広がっていました。

「ここが食堂です」

「当たり前だけど、広いね」

「お!ヴァンテージ大佐!久しぶりだな!」

厨房から女性の方が顔を出してきました。

「サガリス曹長、上官ですので口調を…」

「あー、私は気にしてないよ」

「ヴァンテージ大佐もこう言ってるし

、アヤ大尉も少しは気楽にいこうぜ!それより、大勢でどうした?」

「ヴァンテージ大佐にイラストリアスの案内しています」

「ほぅ、そうか。それより、せっかくだし、飯食っていかないか?」

アヤが腕時計を見て時間を確認しています。

「ちょうどいい時間ですし、食べて行きましょうか」

「そうだね。ところで何が出来るの?」

「材料があれば家庭料理からお菓子まで」

「つまり、何でも出来ると」

「サガリス曹長に作れない物はありませんので、好きなものを頼めばいいですよ」

サガリスさん、こんな所でシェフやらずに個人店だした方がいい気がしますが。

「じゃあ、オムライスで」

「…性格が変わっても好きな物は変わらないんですね」

「え?」

「ヴァンテージさん、戦闘に勝って気分が良いと、オムライス頼んでいましたから」

「…よく、覚えているね」

「貴方の自室に何回運んだと、思いますか?」

私は思いだそうとしましたが、記憶が霞んでてよく思い出せません。

「貴方が覚えてなくても、私は覚えていますから」

「お姉さま、オムライスが好きなんですね」

「う、うん、そうみたい」

「そうみたいって、覚えていないんですか?」

「えーっと、無意識で選んでたのかも…」

私自身、由華音の記憶もあるのでごっちゃ混ぜになっている状態です。なので、私の記憶は鮮明なのに、由華音の記憶はおぼろげになっています。

「無意識で選ぶって事はそれぐらい好きって事ですよ!きっと」

幸い、私も好きなので問題はありませんが。

他の人達も料理を頼むと席に座ります。

「そう言えば、ヴァルカン艦長とダンフリーズさんはまだ話しているのかな?」

「ダンフリーズ艦長はヴァルカン元大将を尊敬してますからね。暫くは出てこないでしょう」

「でも、私、ウィンダムに乗ってから、あんな嬉しそうなヴァルカン艦長を初めてみたよ」

私より、長い付き合いがある雛子でさえ、初めてみる顔だったのでしょう、それだけ武勇伝を真剣に聞いてくれる人がいると言うのは初めてなのでしょうね。

「それより、ヴァンテージ大佐。今現在、イラストリアスはアルグのブルーフォレスト基地沖合いに停泊中です。艦のエネルギーは原子力なので、半無限ですが、食料や備品、推進剤は有限です」

「アルグの基地に入れないか、ヴァルカン艦長に聞くしかないかな」

「では、後でヴァルカン艦長とダンフリーズ艦長の所へ行きましょうか」

「おぅ!難しい話は終わったか?」

話終えると丁度、サガリス曹長が料理を持ってきてくれました。

「うん、丁度終わったよ」

「じゃ!飯にするか!」

全員分来ましたので皆で食事します。

「では、食事が終わりましたら、艦長室にいきましょう」

「うん、分かった」

そして、食事を終えるとサリナは眠くなったようなので、サリナとミナは呼び出したニールセン準尉、サラザール準尉に連れられて仮眠出来る場所へと行きました。

「では、我々は艦長室へ向かいましょう。案内します」

アヤの案内で艦長室へ。

「後でヴァンテージさんの部屋にも案内しますね」

「…私の部屋、あるんだ」

「仮にも士官クラスですので」

アヤは歩みを止めると目の前の扉をノックします。

「ダンフリーズ大佐、アヤ・インテンス大尉です」

「入っていいぞ」

アヤが扉を開けて入るので、私も続いて入ります。

「インテンス大尉、何用かね?」

「ヴァルカン艦長との話は終わりましたか?」

「まだ半分も終わってないが…」

私達がイラストリアスに降り立ってから随分時間が経っている気がしましたが…。

「後で好きなだけ話し込んでください。それより、ヴァルカン艦長、イラストリアスは指揮官、ヴァンテージ大佐により、ラツィオを離脱、アルグの所属を所望しています」

「アブレイズなら、大歓迎するじゃ。そろそろミューンズブリッジ基地に帰ってくるじゃろうから、停泊して待ってればいいじゃろ」

「ありがとうございます。ではダンフリーズ艦長」

「うむ、ではミューンズブリッジ基地に向かう準備をしましょう。ではヴァルカン大将、私はブリッジで進路をとってきますので、ここでゆっくりしててください」

「気遣いありがとう」

「じゃあ、私達はサリナの所に行こっか、ヴァルカン艦長また後で」

ヴァルカン艦長と別れ、サリナが寝ているの思われる部屋向かいます。

アヤによると、仮眠が出来る所はそんなに多くないそうですので、探すのは安易だそうです。しかし、艦が大型なので歩く距離が長く、そろそろ足がつりそうです。

「ヴァンテージさん、大丈夫ですか?多分、もうすぐなので頑張ってください」

「うん…分かった」

そして、ようやく寝ているサリナ達をを見つけました。

「あ!由華音さん」

「ただいま、ミナ。イラストリアス広すぎぃ…」

「大型空母ですから」

「ご、ご苦労様です…」

穏やかな顔で寝ているサリナ見ているとこちらまで眠くなります。

「ヴァンテージさん、お疲れですか?少し休んでてください。珈琲をお持ちします」

「ありがと、アヤ」

私は椅子に深く腰かけると、雛子が隣に座りました。

「後はミューンズブリッジ基地に着くのを待つだけね」

「由華音、基地に入るには手続きが必要よ?」

「え?私がやるの?イマさん」

「指揮官でしょ?貴方」

「…そうだけど」

「頑張ってね、お姉さま!」

「うぅ、やればいいんでしょ、やれば」

丁度、アヤが珈琲を持ってきてくれましたので一口啜ります。その珈琲は懐かしい味がしました。

「それで、イマさん、手続きって書類を書けばいいんですか?」

「そうね、貴方なら書類もあるけれど……アブレイズに目をつけられそうね」

「どういう意味です?イマさん」

「行けば分かるわよ」

イマの不適な笑みに私は、少なくとも簡単には入港出来ない事だけは感じました。

「ふふふ、楽しみね、由華音」

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