第9話

自室の中で私はベッドに腰掛けて悩んでいました。シャウラがいればフィオレンティーナの修理は完璧に出来るでしょうが、何処かにいるシャウラを探しだすのは厳しいです。

「お姉様、珈琲を持ってきました」

「ありがとう、雛子」

私は雛子からカップを受け取ると一口飲みます。

ウィンダムには一部の愛好家により、珈琲と紅茶は厳選された豆と茶葉と設備と職人がいると言うのだから驚きです。

私も内心、豆や作り方にこだわりは無いものの、飲む店にはこだわっていたのでこの出来は文句のつけようがないぐらい美味しいと感じます。

しかし、私は珈琲は無糖で飲むのでせっかく雛子が持ってきてくれた砂糖とミルクは無駄になってしまったと思いつつも、シャウラの事を考えます。

「お姉様、その、フィオの事で悩んでいますか?」

「えぇ、フィオを完璧に直せるのは専属の整備士だったエルヴィス・シャウラ曹長だけだと思うの。彼はフィオがくる前から私の機体のメンテナンス担当だった。仕事熱心で私の要望通りに機体を仕上げてくれるので信頼してたの」

シャウラは整備士ですが、機体の状態を確かめる為、動かす事もあるので操縦技術はそれなりにありました。人手不足の時はパイロットとして由華音のパートナーとして行くこともありましたが。

「今は何処にいるか、分からないんですよね?」

「うん、脱出したとは思うんだけど」

「それなら、きっと何処かであえますよ!」

「ポジティブね、雛子は」

「それよりも、私はアヤさんの方が気になります」

「アヤ…」

ラツィオを再び脱走した今、アヤは完全に敵意をむき出しで来るでしょう。

私は珈琲を飲みながら考えます。もし説得が不可能な場合、撃墜と言う選択もしなければなりません。私としてはそれだけは避けたい所ですが…。

その時は雛子や戦艦のクルーを私情で巻き込みたくないので私の手で撃破する覚悟を決めなければ…。

「お姉様?」

「ん?なぁに?雛子」

「お姉様、前にも言いましたが一人で抱え込まないでくださいね」

「わかってる、雛子。パートナーだもんね」

飲んだコーヒーカップをベッドの近くにあるサイドテーブルに置きます。同じ机に雛子もカップを置きました。

「やっぱり、アヤさんとは戦いづらいですかね?」

「そうね、知ってる相手だけど、私の知らない機体に乗ってるのよね」

アヤの護衛で来ている白い機体のパイロット、ボーセル大尉もアヤ同様、敵意を出している。

「でも、白い機体の方はアヤさんに従っているような感じだったのでアヤさんを説得出来れば、一緒に従いそうですが」

「ボーセル大尉、確か近接戦闘に関しては私でも苦戦するほど強い。でも、あの白い機体は見た感じ、近接特化じゃないから、上手くやれば行けそうね」

いつ作られたのか不明だし、何が装備されているのかは今の所、ライフルとミドルブレイド、レールガンが確認されています。

「雛子、あの白い機体について何か分かることない?」

「アルグのデータベースにはないですね。シレアちゃんにお願いして、ラツィオのデータベースをハッキングして貰いましょうか」

雛子と一緒にシレアのいるだろう、ブリッジへ。ブリッジに入るとラストフィート姉妹が明るく出迎えてくれました。

「あ!ようこそ!ブリッジへゆかみん!」

「いらっしゃい、由華音さん」

「こんにちはぁ、由華音さんー」

初めて入るウィンダムのブリッジは普通の海に浮かんでいる巡洋艦とは違い、艦の外は全てカメラを通してモニターに映しているようです。

何故そのような構造にしてあるのかは、被弾しても、ブリッジ機能が維持でしやすいのと、空飛んでるゆえに全方位を警戒しなきゃならない為の構造らしいです。

ブリッジも形状が変わっていて円形状のモニターに外が映し出されているのでまるで空に浮いてるような錯覚になります。

ブリッジ内を見渡すと随分少ない人数で運航している印象があります。それもそのはずウィンダムはたった5人で運用しているようです。普通は数十人での運用が普通だが5人で出来るには訳がある。

その理由はラストフィート姉妹の恩恵が大きいようです。姉妹だけで10人以上の働きをするのだからその分、運用資金を他に回せる事が出来るので以前に言った趣味嗜好品に回せれるようです。

「ゆかみん、ヒナ、何か用?」

「えっと、シレアちゃんに用があって」

「私にですか?」

「ラツィオのデータベースにハッキングして、あの白い機体の情報がほしいの」

「まぁ、それぐらいなら余裕ですけど」

シレアはキーボードを素早く打ちこみました。

「ハッキング完了」

「え、早くない?」

「私達は強化された人間ですから。ハッキングぐらいなら朝飯前です。前方のモニターに出力しますね」

正面の大型モニターを見るとあの白い機体のデータが映ります。

「XJL-12/P、機体名称、アルテミューナ。従来の機体より、各部の最適化がされており、運動性能は飛躍的に上昇、出力も従来型より30%向上されており、より、多くのエネルギーを武装へと変換可能に…まともな整備されてないフィオが敵うはずがないよね、これじゃあ」

「んー、じゃあ、破壊されたラツィオの基地を物色して、ゆかみんのフィオレンティーナを修理、改造する?」

「ここから近い基地にはぁ、南西にありますねぇ。でもぉ、使えるパーツがあるかどうかわかりませんよぉ」

「行ってみるしかないか」

「話は纏まったかな?」

「ヴァルカン艦長…」

「では、その基地に向けて出発しようか」

ウィンダムが離陸し、破棄されたラツィオの基地へと向かいます。ラストフィート姉妹に促されブリッジに留まっています。

立っているのは危険と言う事で雛子と一緒に補助席に座っています。

ただ座ってるだけなのも暇なので、外を映しているモニターを見ることに。其処にはのどかな森林の風景が広がっていまず。

しかし、よく見ると木々の間に無数の機体やら戦艦の残骸が見えました。

「こんな場所でも戦闘あったのね」

「ラツィオ軍は小さい規模の反逆者も逃さず殲滅してましたから」

「私、本隊所属だったから」

ラツィオには進行メインの本隊と、残党や小さい勢力をメインとする殲滅部隊がいました。

「そうだったんですね」

「今思うと、かなり過激な事してたわね」

攻め込む理由は色々あるが、主に資源確保の為に進撃していましたね。

「由華音さん、そろそろ着きますよ」

前方を映すモニターを見ると破壊された基地が見えてきました。

「滑走路がありますね、ザルツさんそこに着陸しましょう」

「了解!」

ウィンダムが滑走路に着陸すると、イマとケイはアルマスで周辺を警戒をし始めました。

私と雛子は数名の護衛とアルマス2機を引き連れて徒歩で基地内を捜索します。

格納庫っぽい建物までの道程は遠く、瓦礫で塞がっていましたのでアルマスに頼んで退かしながら進みます。

「私もフィオが使えたらなぁ」

「両腕の無い状態じゃ、ただの的ですよね」

「うぐっ」

雛子に痛い所を突っ込まれます。

「あ、えっと、直ればウィンダムで一番の強さですよ!お姉さま」

「うん、フォローありがと、雛子」

アルマスが作ってくれた道を通り、格納庫っぽい建物へとたどり着きます。

「ちょっと扉が開いてるわね、中に入るわよ」

中は暗く、散らかっていました。

「誰もいないようね」

私が合図をすると、アルマスが扉を破壊します。光が入り、中の様子がよく見えます。

「あれは?」

そこにあったのは大破していますが、フィオレンティーナそっくりの機体があります。

「これは、フィオ?いや、違う」

よく見ると外見と武装が違います。近くに落ちていた書類に目を通すと機体の詳細なデータが書いてありました。

「XJL-11/98、ファルアスティーナ。近接特化型の機体。型式は違うけどフィオとベースは一緒のようだからパーツは使えそうね。予定パイロットはツカサ・ボーセル少佐…この機体、ボーセル大尉が昇進したら乗る機体だったのね」

私が見ていた資料を雛子が覗いてきました。

「お姉さま、形式名の最後の数字って意味あるんですか?」

「これは、確か製造されて何機目って意味。このファルアスティーナは98台目って事よ」

「そうだったんですね。あれ?お姉さまのフィオって1…って事は1機目って事!?」

「まぁ、そうなるね」

「凄いですね!」

「ふふ、ありがと。さて、使えそうなパーツを探しましょうか」

しかし、ここで大破されているって事は機体が受領される事無く、破棄されてしまったのでしょう。

「ボーセル大尉には悪いけど、フィオの補修パーツになって貰いましょうか。この機体を回収してください!」

フィオレンティーナは外装はともかく、消耗品までもががアルグの機体とは規格が異なるらしい。

「これで、少しは性能は回復するかな」

アルマスが大破したファルアスティーナを運び出します。

私達は更に奥へ行き、使えそうな物を探します。

「お姉さま、もう一台、機体があるようです」

雛子が照らす先にはまたフィオレンティーナに似ている機体がありました。

「ファルアスティーナ?違う、これはエストミューナ…」

確か型式はXJL-10。こちらは遠距離重視の機体だったはず。

「お姉さま、見た感じ損傷は少なそうなので、直せば使えそうですね」

「でも、事はそう簡単には行かないみたいよ」

「どういう事ですか?」

「動く機体だったらこんな所に破棄しないはず」

私は機体によじ登り、コックピットを覗き込みます。中はグレネードか何かで爆破されており、さらに人間らしき焦げた肉片や、渇いた血のようなものが見えます。

恐らく、機体に乗って逃げようとした時、グレネードが入ってきて爆破したのでしょう。

「お姉さま?どうですか?」

「雛子!来ちゃだめ!」

「え?あ、はい」

「…エストミューナはコックピット以外は回収しましょうか」

[了解]

私はエストミューナから降りると、アルマスがコックピットブロックを引きちぎり、その辺に捨てました。そして、エストミューナを持ち上げるとウィンダムへと運びます。

「さて、補修パーツは手に入ったし、後は資料かな」

格納庫を出て、一際大きい建物へと入ります。

「資料室はっと…」

周囲を照らし、道を探します。私が以前いました基地と構造が似ており、直ぐに資料室へと、たどり着きました。

「中は、荒らされた形跡は無いようね。全部は厳しいから、必要そうな資料だけを回収しましょうか」

「了解」

ファイルを一つ一つ確認し、フィオレンティーナに関する資料を探します。

この基地が破棄されてから、何日が過ぎているか分からないが、この殆どの資料が保管されている状態を考えると何持たずに逃げた感じですね。

膨大な量の棚を確認し、紙の資料を回収していきます。何でもデジタルデータ化出来るこの時代に紙の資料が未だに現役であるのは記録する媒体の故障や、閲覧する時に、端末の不携帯時や、充電が切れた時に不便だからと、シャウラは言っていたような気がします。

なので、シャウラは常に紙の資料をバインダーに挟んで持ち歩いていました。一応、端末も持っていたらしいですが使っているのはあんまり見たこと無いです。

そして、資料室の最奥にはPCが置いてありました。

「電源は…入らないか」

電源ボタンを押しても反応がありません。まぁ、電気が来てないので動かないのも当たり前ですね。

「ヴァンテージさん、中の記録媒体を回収しましょう」

「そうね、そうしましょう」

予め持ってきていたドライバーを使い、PCを分解、記録媒体を回収します。

「よし、これで…」

回収し終わると、轟音と共に地面が揺れます。

「な、何?」

「ヴァンテージさん、サンク大尉から通信が入りました。現在、ラツィオ軍と交戦したようです」

「崩れる前に脱出するよ!」

来た道を走って戻り、建物の外へ出ます。すると、白い機体、アルテミューナと偵察機がいました。

[侵入者は誰かと思いましたがディザータのヴァンテージでしたか。空き巣みたいな事までするなんて、堕ちる所まで墜ちましたね]

「アヤ!」

[どうせ、捕まえても処刑するだけだし、今、ここで事故と言う事で殺しましょうか]

「雛子!護衛方を引き連れて逃げて!アヤの狙いは私だから!」

「でも!」

「いいから早く!」

「…はい」

雛子は荷物と護衛を引き連れて逃げていきます。

[変わりませんね、自分を囮にし、他者を逃がすなんて]

「私は、恩を仇で返さない主義だから」

[裏切ったあなたの言葉なんて、信じません!]

偵察機の足が動き、私を踏み潰そうとしてきましたので走って逃げます。

「雛子達は逃げ切れたかな?」

[他人の心配するなんて、余程余裕があるんですね!]

偵察機が胸部の機銃を掃射してきましたので建物の中へと逃げます。

[生き埋めになりたいのですか?それとも、ばらばらになりたいですか?]

「どっちもお断りよ!」

瓦礫を飛び越えながら廊下を走り、階段を駆け上がります。その間にも機銃が窓を、壁を破壊し、天井が崩れてきます。

「このままじゃ!」

突き当たりの扉を開け、中に入ると、そこは何かの実験施設でした。

「何?ここは」

子供の死体と、研究員らしき死体が横たわっていました。

「研究所?イレアが言ってた研究ってまさか、ここでやってたの?」

その時、壁から機体の手が表れました。

[ヴァンテージ、もう逃げられませんよ]

「くっ!」

壁の空いた穴から偵察機の頭部が見えました。

[さぁ、大人しく死にな…さい?何?これは]

「アヤ…」

[ヴァンテージ大佐!何ですか!これは!]

「…私も最近聞いたのだけど、ラツィオは人の遺伝子を組み換えて、戦争に勝つための兵士を作っているのよ」

[っ!]

「アヤ、今からでも遅くない、私と一緒に…」

[…そんな嘘、信じません!私を…惑わせないでください!]

「うわっ!」

偵察機が手に持ってたマシンガンを連射し、研究所を完膚なきまでに破壊してます。私は巻き込まれないよう、引き返えすと、研究所から脱出し、建物から出ました。

偵察機は全て撃ち終わっても、マシンガンのトリガーを引いているのが見えます。

[こんなもの!こんなものー!]

「ごめん、アヤ」

狭い路地を走りウィンダムを目指します。ウィンダム周辺ではまだ戦闘が続いていました。アルテミューナはイマさんが相手しているようですが、性能差が大きく、押されています。

「このままじゃ、ウィンダムに近づけない…」

辺りを見ると、対機動兵器用無反動砲が落ちています。

「これを使えば!」

無反動砲を担ぎ、アルテミューナの背中へ狙いをつけます。弾丸はアルテミューナのエールユニットへ当たりました。

アルテミューナは突然の攻撃に驚いたのか、動きが止まります。当然、イマはその隙を見逃さず、アルテミューナを蹴っ飛ばしてウィンダムから遠ざけました。

「今のうちに!」

私は無反動砲を投げ捨て、ウィンダムに向かって走り、開いている機動兵器用の入り口から入ります。

「うお!お嬢ちゃん!どっから入ってんだ!」

「はぁ、はぁ、アンステッドさん。ちょっと急いでいるので!」

格納庫を通りすぎてブリッジへと向かいます。

「ヴァルカン艦長!」

「ヴァンテージ大佐!」

「あー!ゆかみん無事だったのねっ!」

「よかった、由華音さん、心配したんですよ」

「由華音さぁん、待ってたんですよぉ」

「ただいま、って、今はそんな事言ってる場合じゃ…」

「分かってますよ。ヴァル艦長!準備完了です!」

「ウィンダム!発艦せよ!」

ウィンダムが動きだし始めました。

「イマさん!援護しますので捕まってください!」

「ミサイルはっしゃー!」

ウィンダムからミサイルが放たれるとイマはタイミングを合わせてウィンダムに捕まります。ミサイルはアルテミューナにこそ当たりませんでしたが、距離を取るには十分でした。アルテミューナはさっき私が撃った無反動砲によって、エールユニットが破損しており、離陸のため加速しているウィンダムに追い付けません。

「流石です、イマさん」

[イレア、私に当てるつもりだったでしょ?]

「えー、そんな事ないよー?それにぃ、イマっちなら避けれると思ったしぃ」

イレアの援護は的確ですが、たまに味方もろとも巻き込もうと撃ってくるので、こっちとしては油断は出来ません。

「さて、フィオレンティーナを修理出来る場所へ行こうじゃないか」

「どこなんですか?それは」

「アルグ穏健派の拠点、ミューンズブリッジ基地じゃよ」

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