第2話

「…ここは?」

目覚めるとそこはフィオレンティーナのコックピットでした。

「よかった、まだ生きているのね」

私は今の状況を確認する為、モニターを見ると、見たことない魚が泳いでいます。

「海底に沈んでるけど、機体は生きてるようね」

コックピットの気密性が高くて助かりました。私はキーボード取り出して操作し、機体の状態を見ます。前世ではキーボードはあまり使ってなかったが体が覚えているようです。

「左腕は…切られてたわね。腹部のビームは、使用不可?まぁいいや。他にもレールガンが一個消えてるし。敵と出会ったら戦えるかなぁ。それよりここは何処?」

私は座標を確認します。見慣れない地形だが、すぐに何処だが理解しました。

「…この体が教えてくれる、えっと、戦闘してた区域はここで、…今は、って大分流されたわね」

今いる海域はラツィオ本部から随分離れてしまっている。機体のエネルギー残量は20%と半分以下を切っているので本部に帰るには今の状態では残量が足りない。フィオレンティーナ内を探り、収納していた非常食を確認します。

「えーっと、1週間分か」

あまり生きた感じはしないが、無いよりかはましね。

「まずは陸に上がらなきゃ」

そう言うと、私は機体を立ち上がらせ、上昇させます。暫く上昇すると、光が見えてきた。

「そろそろ海上かな?」

私はようやく、海上に出れると安堵します。しかし、待っていたのは絶望でした。

「えぇ、陸地ないじゃん」

周囲見渡しても海しか無い。

「近くの陸地まで飛んでいくしかないか」

しかし、エールユニットと言う、飛ぶための装備が損傷していて、出力が出ない。その為、水上をホバー移動するしかないようです。

「エネルギーが切れれて落ちるか、陸地にたどり着くか、どっちが先かしらね」

方向を決めると、たどり着くであろう、陸地に向かって飛び始めます。

…何時間飛んだのでしょうか、ようやく、陸地が見えました。

「やっと陸地かぁ、長かった…」

砂浜に着地すると、ちょうど、推進剤が無くなりました。

「ギリギリセーフだったけど、ここからは歩きか」

マップを開き、近くのラツィオの基地を探します。

「ここから数キロ先の内陸にあるね、いけない距離じゃないし」

機体を動かし、基地に向かいます。途中、敵勢力と出会っても嫌なのでレーダーをこまめに確認し、怪しい反応あれば、警戒し、やり過ごす予定です。

そして、基地が見下ろせる位置まできました。

「やっと、たどり着いたぁ」

私は安堵し、一気に基地に近付きます。しかし、レーダーには友軍の反応がありません。

「おかしいわね、もしかして、壊滅した?」

警戒しながら近付くと、既に基地は廃墟となっていました。

「誰かいないかなぁ」

当たり前だが、基地内を歩き回っても誰もいません。あるのは瓦礫と大破した機動兵器のみ。

半壊している格納庫があったので中に入り、機体のエネルギーを補給します。

「幸い、電気はきてるようね」

機体のエネルギー補給が出来るのはいいのですが、私には整備の知恵がありません。なので、機体がいつまで動くかは未知数です。

「食料もあればいいなー」

ヘルメットを脱ぎ、拳銃を携帯して、フィオレンティーナから降りて基地内を歩きます。

「こんなに壊滅してれば生存者はいないよね」

隣の一番大きい建物に入り、中を捜索します。暗かった為、拳銃に付いているライトを点けます。中は外見程、壊れてなくて綺麗でした。

「えーっと、ブレーカーはどこかな」

迷いに迷って、たどり着いたブレーカーは落ちていましたので、入れます。

「お、点いた。でも、敵に知られちゃまずいから必要な所以外は消しましょうか」

襲われたのが夜だったのか、ほぼ全ての蛍光灯点いていたので一つ一つ消していきます。全部を消した後、食堂へ向かいます。

「厨房はこっちかな?」

厨房に入り、冷蔵庫の中を確認します。

「放置されてからあまり経ってないのかな?意外と入ってるし、消費期限も切れてないのが多い」

これなら、フィオレンティーナの非常食と合わせても1ヶ月はいけそうです。おまけに冷蔵庫も動いているし。無いよりかはマシな寝床もあります。

「ここで助けが来るのを待つしかないか」

救難信号を出そうかと思ったのですが、敵が来ても面倒ですし、気長に待ちましょうか。一旦、フィオレンティーナに戻り、非常食を持って出ます。フィオレンティーナは電源が落ちていれば探知される事もないですし、格納庫の扉も閉めておけば見つかるリスクも減らせます。更に近くなので、いざというときすぐにフィオレンティーナに乗れるのもいいですね。

「きっと、仲間が探してくれてるよね」

私はそんな儚い希望を持ちつつ、就寝します。

翌日、詳しく調べなかったフィオレンティーナの状況を外から確認します。

「一部装甲が無いわね。よく海底に沈んでて壊れなかったわね」

腹部のビーム砲は砲口が溶けて塞がっています。

「ジェネレータは壊れてないけど、変な音がするわね。大丈夫かしら?」

長時間海水に浸かっていたので、無傷とは思えないです。

「そのへんの機体から左腕を拝借しようかしら?」

そう思ったけど、切断面を見て諦めました。配線が多く、どれを繋げればわかりません。頭部も蹴られた時に損傷したのでしょうか、中身が見えます。

「フィオの防水性能が高くて助かったわ」

自分で直せそうな所は直したい所ですが、全く知識がありません。

「…試行錯誤すればいいかな」

エネルギーは実質、無限だし、コンピュータで調べればいいかな。

私はコックピットに入り、調べます。

「へぇ、ジェネレータって、定期的にオイルを交換しなきゃいけないのね。また会えたらシャウラに感謝しなきゃね」

そして、1週間後、今日も周囲を探索し、疲れて昼寝をしている所、僅かな振動を感じます。

「もしかして、友軍?」

急いで屋上に上がり、周囲を見渡します。すぐ近くに双眼鏡が落ちていましたので覗き込むと、2機の機動兵器が此方に向かって来ています。

「あれは、アルマス!?」

よりによって敵勢力であるアルグの量産機、アルマスが来るとは。でも、アルマスぐらいならフィオレンティーナの敵ではありません。

「あの様子では此方に気付いてないようね。いつでも迎撃出来るよう、フィオに乗って待機しましょうか」

そう考えると走ってフィオレンティーナの元に向かいます。そして、フィオに乗り込み、ハッチを開け、目視で扉を見たまま待機します。その間にもアルマスらしき足音が徐々に近づいてきてます。

「出来れば、こっちに来ないで…」

足音が止みほっとしたのも束の間、格納庫の扉を開けようと手が見えました。

「やるしかないか」

急いで機体の電源を入れると、走って移動し、扉の前にいたアルマスを扉ごと蹴り飛ばす。そして、右腕のレールガンを展開し、2機目のアルマスを狙い撃ちますが、弾は僅かにずれ、ライフルにあたりました。

「外したか」

蹴り飛ばされた1機目のアルマスが立ち上がり、ライフルを構えたので、素早ショートブレイドを抜くと、ライフルを切る。

「これで、遠距離攻撃は消えたな」

私は遠ざかろうとジャンプしようとした瞬間、突如エラーが出て、出力が落ち、動きが鈍くなる。

「えぇ!こんな時に!」

あまり距離がとれず、1機のアルマスがソリッドブレイドを構えて迫って来ました。

損傷し、出力の落ちたフィオレンティーナでは、勝てるかどうか分かりません。

「このまま、逃げるか。でも、逃げ切れるかなぁ」

逃げ切った所で、次の基地が見つかるとは思いませんし、逃げ切れるか自信がありません。

「ならば、撃墜するしかないよね」

アルマスのソリッドブレイドを受け止め、押し返そうとしますが、出力の落ちたフィオレンティーナでは、受け止めるだけで精一杯です。

「このままじゃ…ってもう1機は何処に?」

レーダーを確認すると、背後にいました。

「いつの間に!」

目の前の1機に気を取られ、もう1機を見失っていました。

「やられる!」

そう思った瞬間、後ろのアルマスが予想外の行動に出ます。フィオレンティーナの腰にあったライフルを奪うと、此方に向けてきました。そして、後ろのアルマスから通信が入ります。

[これ以上の抵抗は止めなさい!抵抗しないなら、命までは奪わないから!]

何処か聞いたことのあるような声でしたが、今はそんな事考えてる暇はありません。命まで奪わないと言うことは捕虜になれと言う事でしょうか。

「敵の言う事なんて信用できると思ってるのかしら?」

[っ!…虚勢をはっても無駄よ、そんな損傷した機体で私達に勝てるとでも?それに、あなた、声震えてるわよ]

相手が一瞬驚いたような声がしましたが、全てを見抜かれ、危機的状態の私ではそんな余裕はありませんでした。

「…分かりました、降参します」

私はショートブレイドを格納すると、コックピットハッチを開け、外に出て両手をあげます。後ろにいたアルマスも正面に来てコックピットハッチを開けました。

「士官クラスなのに素直なのね」

「私だって、まだ生きていたいから」

お互い、ヘルメットをしてるので表情は見えませんが、態度からすると、此方を信頼してるようです。

すると、相手はヘルメットを脱ぎました。ショートカットでつり目の素顔はかつての上官だったヴァンキッシュ少将に似てますが眼鏡はしてなかったはずです。

「はじめまして、かな?私はイマ・サンク。よろしくね」

私もヘルメットを脱ぐと、長い薄紫の髪がさらりと垂れます。

「…由華音・ルキアル・フリード・ヴァンテージ。階級は…大佐です」

もう1機のアルマスからも降りてきました。

「ケイ・ユイットだ!よろしくな!」

「さて、お互いの自己紹介も終わったし、迎えが来るまであなたの状況を教えてもらえるかしら?」

「そんなたいしたものじゃないよ」

「それでも聞きたいの。興味あるし」

聞きたそうなので私は話す事にしました。エクスフェイトに負けた事、海底から出た事、この基地で暮らしてた事。

これまでの事を話していると、無意識に涙が出てきました。

「あれ、どうしてだろ?」

「あなたも大変だったわね。安心してちょうだい、悪いようにはしないから」

「その言葉、信じてもいいんですね?」

「えぇ、嘘はつかないわ。さて、迎えが来たようね」

サンクが見上げるとそこには巨大な戦艦がいました。

「ようこそ、アルグの飛行戦艦ウィンダムへ」


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