第17話


「あー…人目を集めない方がいいよな?」

「勿論だ」

「善処しよう」


なら使う魔法は決まった。

一度息を吐き切ってから思い切り吸う。


「来い」


力強くそう言えば、先ほどまで馬車置き場に散乱していた荷物が一瞬にして部屋の中に詰め込まれる。

物凄い音がするが、一応事前に部屋全体に防音魔法をかけておいたから問題ないだろう。


「よし、これで終わったな」


ディランを見上げるも呆然としていて何の反応も返ってこない。

後で色々聞かれるのも面倒だから先にやることはやってしまおう。


「よーし、頑張るぞ」


長いミルキーブランドの髪を高い位置で結ぶ。

これで多少は邪魔にならないだろう。


両腕を忙しなく振って荷物を移動させる。


私の所有物には全て私のサインが書いてあり、魔力が流れやすい道が作ってある。

その為家具の移動に関しては比較的魔力の消費を抑えることができる。


「こんな感じでいいだろう!」


流石城の一室とでも言うべきか、部屋が異常に広い為持ち込んだ荷物は全て綺麗に収まった。


「ほれディラン。いつまでそうしておるのだ。もう大丈夫だから部屋に入ってこい」

「…色々聞きたいことがあるんだが」

「面倒だからまた今度な。次は書物の整理をしないといけないから」


ディランに箱を本棚の近くの床に置いてもらう。

危険物ではない頑丈な書物はすでに魔法で本棚にしまったため、残りはこの箱に入っている書物だけだった。


持ち込んでいた本棚の1番下の戸を開ける。

その中に丁寧に書物をしまい、魔法と鍵を使って厳重に保管した。


「これだけ封をすれば流石に勝手に開くまい」

「終わったのか?」


振り向けばディランが部屋を見渡していた。

物珍しい家具があるのか、視線を彷徨わせながら歩き回っている。


「あぁ、とりあえずはこれで終わりだ」

「一気に部屋の雰囲気が変わったな」


確かに、白を基調として整えられていた部屋は今では茶色の家具が多い。

そもそも私の自宅が木製の家だったため、仕方のないことだった。


「なら白くするか」


手を2回叩き、元々備え付けられていた家具から色を貰う。

そのまま手の平を横に動かせば、たちまち壁や天井が真っ白い部屋に様変わりした。


「ほら、これならいいだろ」

「そんなに魔法使っていいのか?」

「これは魔法の中でも最も楽なものだから問題ない。何にも干渉せず魔法を使うと疲れやすいが、今は家具から色をもらって色を広げただけだからな」


ペンキを1から作って絵を描くことと、すでにあるペンキを使って絵を描くことの違いだな、と言えば納得してくれたようだ。


「片付けが終わったなら、さっきの魔法について聞くぞ」

「いやそれはまた今度にしないか?私はもう疲れて…」

「そう言って逃げる気だろ。そんなに説明しにくいのか?」

「そういうわけではないが、」


部屋の隅にジリジリと追い込まれながらお粗末な言い訳を並べていた時、部屋に強いノックが響いた。


目を合わせて首を傾げる。

私の部屋を好んで訪ねる者はあまりいなかった。

それ故に、ノックに違和感を感じてしまった。


「誰だ」


扉に向かって声をかければ、張られた声が返ってきた。


「ディラン様宛にローワン様からお手紙が送られてきましたので、お届けに参りました」


その言葉にディランは血相を変えた。

扉を開けるとメイドが手紙を持っており、それを受け取り次第手紙の封を見てため息をついた。


「くっそ、遠い国から送ってきやがって…いつも通り特殊部隊を集めろ。アイツを捕まえに行く」

「畏まりました」


ディランは内ポケットから手帳を出して何かを書き込むと、そのページを破ってメイドに渡した。

メイドも慣れているようで頭を下げてからすぐに部屋を出ていった。


「ローワンとは?」

「愚兄だ」


簡潔にそう言うと、別れの挨拶もなくメイドの後を追うように部屋を出ていった。


「…私もこうして捕まったのか」


部屋でこぼした1人ごとに返事をする者はいなかった。

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