第14話「結果発表と友達!」



 今日は昨日おこなわれたグレーステストの発表日だ。


 それ以外に授業や行事は無いから、正直サボりたかったけど、七瀬が「結果を確認したい」と言うので仕方なく着いてきた。


 今の時刻は午前十時過ぎ。

 教室前の廊下には何十人というお嬢様が群集していた。


 目的はもちろん、【グレーステスト】の結果発表だ。

 廊下には横長の紙が一枚貼り出されている。


 そこには一年生全員のテスト結果が書かれているのだろう。


 具体的には得点と順位が記されるらしい。


「ねぇねぇ、ミズキちゃん。順位見ようよ!」

「いや、あたしはいい。どうせ最下位だから」

「み、見て見ないと分からないよっ。ほら、探そ」


 七瀬に言われて、あたしは結果用紙に目を通していく。


 そこは右から順に高得点の者の氏名が書かれている。つまり、あたしは一番左を見ればいいわけだ。

 一番左を見ると――案の定【神田ミズキ】の名があった。順位は105位。


 その下に書かれていた得点は、これまた予想通りの0点。


 うん、やっぱりですやん。


 ちなみにあたしより一つ上の順位、つまり104位は608点。


 ワースト1とワースト2で600点も差があるのかよ……てかあたしが終ってるだけか。


「七瀬はどうだった?」

「う~ん、49位だったよぉ。もうちょっと取りたかったなぁ」


 七瀬はかなり悔しがっているようだった。

 確かにあたしが入寮した日も勉強してたもんな。


 クラスのお嬢様達も必死に勉強してたし、みんなイギリスの王様によっぽど会いたいんだ。


 そういや1位は――

 あたしが1位の奴を確認しようとしたところで、突然廊下中に歓声が響き渡った。


「き、来たわよ!」

「ああ、なんてお美しい方々なのかしら……」

「グレーステスト1位と2位はある意味当然だったのかもしれませんわね」



 口々にお嬢様達が囁き合っている。

 その時点であたしは歓声を受けている者の正体を察せた。


「す、すごい歓声だね。1位の人ってだれなのかなぁ」

「まーどう考えてもあいつだろうな」


 七瀬と話していると、聞き慣れた声が聞こえて来た。


「あなた達、琴音様に道をお開けなさいっ!!」


 紛れもない金髪の声だ。

 金髪の声でお嬢様達が道を開ける。


 すると渦中のそいつが姿を現した。


 そう、パーフェクトお嬢様こと西條琴音が。


 琴音の側には当然のように金髪がいる。

 本当舎弟みたいだなあいつ。


 琴音はあたしに気付くと、ニコッと微笑んで近づいてきた。


「ミズキさん、おはようございます」

「うぃっす」

「ちょっと、あなた! 何ですのその挨拶は。琴音様に失礼ではありませんか!!」

「うっせぇな黙ってろクソパズル」

「わたしは静流ですわ!! あなたいつになったら私の名前を覚えるんですの!?」

「うるせーぞボケ! で……琴音。お前は何位だったんだ?」


 分かってるけど一応尋ねる。


「今から確認します。え~と……あっ、ありました! 一番右ですっ」


 琴音が用紙の右側を指さした。

 一番右って事は、やっぱりそういう事だな。


 あたしも貼りだされた用紙の一番右側に目をやる。


 するとそこには、1位【西條琴音】の名前が。


 そしてその下には得点が――1000点と記されていた。


 …………いや。


 いやいやいやいやいやいや。

 琴音さん……満点はやりすぎですって。


 正直900点ぐらいだと思ってた。


 それで満点て。

 すごさを通り越して恐怖すら覚えるわ。


 完璧とかそういう次元じゃねぇじゃん。

 神様じゃん。


「さすがは琴音様ですわ! グレーステスト満点だなんて、琴音様以外には為せない偉業ですわ!!」


 金髪が自分の事のように喜んでいた。


「そんな事ないですよ。そうです、静流さんはどうでしたか?」

「はいっ! えっと私は……あっ、2位ですわ!!! やりましたわ!! ふふっ、琴音様の隣に並べるなんて……!!♡」


「なんだと!?」


 嬉しそうに笑う金髪の順位は2位という事だった。

 実際に見てみると2位のところに『天宮静流 889点』という文字が記されている。


 ま、まじか……あの金髪野郎……そんなに頭良いのか……。


 さすがに琴音の追っかけをしてるだけあって、琴音の隣にいても恥じることのない一流お嬢様の一人だったんだ。


「静流さんも十分すごいではないですか! さすがは静流さんですねっ」

「そ、そんな……っ! 琴音様に比べたら、この程度、大した事は……♡」


 琴音に笑顔で褒められて、金髪は非常に幸せそうに頬を緩めている。


 金髪の嬉しそうな顔はムカつくが……これはあいつの努力の結果だろう。


 今回ばっかは何も言わないでおいてやるか。


 そんなやり取りをしていると、七瀬の影が薄くなっているのに気付く。

 気付けば七瀬はビクビクとした様子であたしの背中に隠れていた。


「……何してんだ、お前」

「……いや、だって……! あんなすごい人たちと……ミズキちゃん、普通に喋ってるから……」

「まぁダチだからな。あ、金髪は違うぞ! ダチなのは琴音だけだ。あいつはなんかいつも周りにいるだけのハエみたいな奴だ」

「ふぇええ……あの西條さんを呼び捨てで呼んだ上に、あの天宮さんをぞんざいに扱ってるよぉぉ……」


 七瀬から見てもやっぱ琴音と金髪はすごい存在なんだな。


「そうだ、お前をあいつらに紹介するの忘れてたな」

「え、紹介!??」


 昨日琴音に紹介するって言って紹介しそびれてたのを思い出した。

 丁度いい機会だし、あいつらにも七瀬を紹介しておこう。


 こいつにとっても、交友関係が広がっとくのは悪いことではないはずだ。


「え! えっと、う、うまく話せるかな……わたし、根暗だし、キモいし…………」


 七瀬の表情が曇る。

 それは何かに不安を感じて、怯えているような表情だった。

 こいつは誰かとコミュニケーションを取る事が怖いのだろう。


 まぁ一回慣れちまえば、ガンガン喋れる奴なんだけど。

 最初の一歩が中々踏み出せないんだ。


 あたしが背中を押してやって


「で、でも……あの二人からはただならぬ百合の波動を感じる……!!! 知りたい……近くで味わいたい……!!! 極上のお嬢様百合を!!」


 いや……こいつにはそんな心配しなくてもいいか。


「んじゃ行くぞ」

「え、ままま、待って!! まだ心の準備がぁぁぁぁ」


 あたしは嫌がる七瀬を引きずって、渦中の二人の元へと向かう。



「おい二人とも、ちょっといいか?」

「何ですの?」

「どうされました?」

「この辺にさ、静かに話せるところってないか?」


 さすがにこの場所では他のお嬢様の視線が鬱陶しい。

 だから別の場所に移動してから、七瀬を紹介しようと思ったのだ。


少し考えた後に琴音が口を開いた。


「静かな所でしたら、学園内にある庭園などどうでしょう?」

「名案ですわ琴音様!! 天才的な素晴らしいご提案です!!!」

「よし、じゃあそこに一緒に行こうぜ。紹介したい奴がいるんだ」


 そう言ってあたしは背後に隠れている七瀬に目をやった。

 すると七瀬は、不安そうながらも琴音と金髪に頭を下げた。


 それからあたし達は、その庭園とやらに移動するのであった。

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