第7話
ミリアは彼女の気持ちがよくわかった。クレアにとって、彼の記憶はとても大切なものだということはミリア自身が一番理解していた。だからミリアは、クレアの記憶を取り戻す方法を探すことに決めた。翌日、ミリアはクレアに提案した。
「今日は一緒に街へ出かけましょう。少し遠出しすぎて遅くなると思うから、泊まっていきなさい」
「うん、ありがとう」
そしてミリアたちは支度をして家を出た。
二人は電車に乗って隣町まで向かった。
しばらく乗っているうちに、車内はだんだん混雑してきた。そして、ミリアたちが座っていた席の隣に一人の女性が腰を下ろした。すると突然その女性の手がクレアの足に触れた。
「ひゃっ！？」
驚いたクレアは小さく悲鳴をあげて体をビクッと震わせた。ミリアはすぐに立ち上がりクレアの腕を掴んで立たせると自分の方に引き寄せ、もう片方の手で相手の腕を掴み関節を捻った。
「痛い！ やめて！」
女性は苦痛の表情を浮かべて叫んだ。だがミリアは容赦なく力を込め続けた。
「もう二度と私の友人に近づかないで下さい」
ミリアがそう告げると相手は観念して手を引っ込める。
それからすぐに次の駅に到着した。ミリアたちはそこで降りることにした。降りた後もしばらくは歩き続けなければならなかった。やがて住宅街に入り、ミリアたちの前に立ち塞がったのは大きな塀であった。だがそれは普通の住宅のものとは違うようで、高さがかなりあった。まるで何かを隠しているかのように思えるような造りをしていた。
門の前でミリアが手をかざすと音を立てて扉が開いた。そのまま中に入るとそこには噴水のある庭園が広がっていた。そしてその先には大きな建物が建っている。おそらくあれが屋敷だろう。
「すごい、お城みたい」
クレアが感嘆の声を漏らす。
「ここはね、昔私が住んでいた場所でもあるの。まあ、今はもう使われていないんだけどね」
ミリアはそう言いながら敷地内へと入っていく。
「ねえミリア、もしかしてあの建物がそうなの？」
「そうよ。さあ、行きましょう」
「でも、誰もいないのにどうやって中に入れば……」
クレアがそう言うとミリアはポケットから鍵を取り出した。
「これは私が使っていたもの。この建物の全ての部屋の合鍵になっているの」
「それじゃあ最初からそのつもりだったの？」
「ええ、そうよ。まずはクレアの部屋を用意しないとね」
そう言ってミリアは正面の大きなドアの方へ向かっていった。その奥には広い空間があり、さらにいくつか部屋が続いていた。そしてその先の階段を上がったところにミリアたちがいたのと同じぐらいの大きさの部屋にたどり着いた。
「ここを自由に使ってもらって構わないわ。家具なんかは全て新しいものに入れ替えてあるから」
そう言うとミリアは一通り説明を終えた後、自室へ向かった。
その後、食事の準備ができたと使用人が呼びに来た。ミリアはその指示に従いダイニングルームへと向かうことにした。
「あの……本当にいいの？」
不安げな様子でクレアは言った。その声は明らかに震えていた。
「もちろんよ。今日はここでゆっくり休んで」
「でも、もし見つかったら……」
「大丈夫よ。もし見つかっちゃってもきっと許してくれると思うし」
ミリアは笑顔で答える。それでもまだクレアは心配そうにしているようだった。するとミリアは、自分の指をクレアの唇に押し当てる。
「んっ……」
いきなりの出来事で驚いていたクレアだったが、次第に落ち着きを取り戻したのか表情に笑みが戻ってきた。
「落ち着いた？」
「うん、ちょっとびっくりしただけ」
そうして二人で談笑しているうちに夕食が運ばれてきた。
「どうぞ召し上がれ」
「いただきます」
「うーん、おいしい」
クレアは満面の笑みで言った。
それからしばらくして、ミリアはクレアに提案する。
「今日はここに泊まることになるけど……、あなたはどこか寝泊まりできるあてはあるの？」
「……うん、たぶん……」
「そっか、それならよかった」
ミリアは安心すると自分も食事を済ませ、入浴をすることにした。
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