第2話
彼女が考えているうちに眠ってしまったらしく、次に気がついた時は夜になっていた。部屋を出て食堂に行く途中のことだった。玄関の前に見慣れぬ黒い車が停まっている。誰か来客があったようだ。ミリアはその車の方を見ながら歩いていたが急に立ち止まった。突然後ろから何者かに押されてしまったのだ。振り返ると彼女のすぐ後ろに背の高い痩せこけた男が立っていた。
「……」
男は何か言おうとしたようだったが、口ごもってしまい声にならなかった。しかしその目つきからは怒りとも憎しみとも言えるような感情を感じた。
その時、玄関の方から父親がやって来た。彼は見知らぬ男の姿を見ると驚いた様子でこう叫んだ。
「おい!一体どういうつもりだ!?」
すると男は懐からナイフを取り出して刃をこちらに向けた。そしてそれを父の方に向け突進してきたのだ。一瞬の出来事だった。
ミリアが我に返った時には既に父親の腹部に深々と突き刺さり血が滴り落ちているところであった。
ミリアは悲鳴をあげた。男はゆっくりと倒れてゆく父を見てニヤリと笑みを浮かべ、走り去っていった。
「おとうさん!!」
彼女は叫びながら倒れた父親のもとに駆け寄った。
「うぐっ」といううめき声とともに父は顔を上げた。目は虚ろになり意識はもうろうとしていた。だがかろうじてまだ息はしている。
ミリアは泣きじゃくりながらも急いで救急車を呼んだ。すぐにサイレンの音が聞こえてきた。病院に運ばれた後、医師に手術室に運ばれて行く途中で彼は力尽きて亡くなってしまった。彼の葬儀には大勢の参列者が押し寄せ、多くの花が添えられていった。
その葬式の日の翌日、一人の少年が現れた。彼の名前はアベル・マーティネス。アメリカ人だと名乗った。彼がここにやってきた目的は、父の遺品を整理しにきたのだと言う。ミリアは、
「そんなことをしに来たの?お父様が亡くなったばかりなのに……」と言ったが、その言葉とは裏腹に内心では嬉しかった。一人で過ごす時間が多すぎたため話し相手が欲しくなっていたのだ。
「君が娘さんかい?」
アベルは父に渡された写真と見比べて訊いた。
「えぇ、そうよ。私はミリアっていうの。よろしくね」
とミリアは笑顔で挨拶した。
「君のこともお父さんから聞いたよ。僕が今日来たことについては秘密にしておいてくれって頼まれているんだけど……。僕も誰にも言わない約束をしたからなぁ」
ミリアは少し不安になった。
「でも僕はこれから言う話を、誰に対しても秘密にするという条件付きで話すよ。それでもいいかな?」
彼女は
「わかったわ」
と言って承諾した。
「僕の父はとても偉大な研究者だった。しかしあることが原因で研究が失敗して、父はその責任を取らされて研究所を追われることになった。僕はその研究所の跡地に行ったことがあるんだ。するとそこで、あるものを見た。いや、会ったといった方が正確かもしれない。僕はそこに、もう一人の自分と出会ったんだ。もう一人の僕とは不思議なことに意思疎通ができた。彼は、自分がこの世界の外からやってきたと言っていた。それで自分は『異世界人』なんだと……。」
(この人が話している内容……、それはおとうさんの本に書いてあったことと一緒だわ)
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