第33話 美少女達を一斉に誘ってみた

 あれから昼休み。


 俺は校長室で謝罪を受けた件もあり、友人達を屋上へと誘った。

 と言っても男の友達はいないので、全員女子ばかりだ。


 しかも学校屈指の美少女ばかり……。


「御幸くんから誘ってくれるなんて超嬉しい~! まぁ、二人っきりなら最高だったんだけど……」


「柏木さん、なんか言った? てか聞こえているんだけど!」


 サヤの愚痴に対し、莉穂がムッとして問い詰めている。

 珍しくアリアが仲介に入り、「まぁ二人とも」と宥めていた。


「御幸くん。あの件・ ・ ・を彼女達にも声をかけるの?」


「センパイ、優しいねぇ。そこに痺れる憧れるぅ!」


 事情を知る、四葉さんと鈴音が言ってくる。

 俺は「うん」と頷いた


「まぁ、話だけでもっと思ってね。悪い話じゃないと思うから……」


「話ってなぁに?」


 莉穂が首を傾げて訊いてくる。


俺は以前から誘いを受けていた『聖雲学園の転入』の件を二人に伝えた。

昌斗さんと早織から、「アリアだけじゃなく、俺の友達も同時転入しても良い」と言われている。

 条件として俺と共にという事だけど、莉穂とサヤにとって悪い話ではない筈だ。


 超名門校、聖雲学園に転入するということは将来を約束されたと言っても良い。

 それだけ魅力のある名誉あることだと思う。


 ちなみに四葉さんと鈴音は、アリアと同様に俺の護衛役として着いて行く形となる。

 聖雲学園を経営する不和財閥は、DUN機関のスポンサーでもあるので何かと融通が利くらしい。


 俺の話を聞きながら、二人は「……噓でしょ?」と呟き呆然としていた。


「……う~ん、凄すぎて現実味がないねぇ。流石は御幸くんだねぇ」


「いきなり変な話してごめん、サヤ……けど、ここにいるみんなならいいよって、人材委員長の早織さんも言ってくれているんだ」


「いいよん、御幸くんのお誘いだもん。迷う必要なし、あたし行くぅ!」


「本当、サヤ?」


「うん、ガチ。だって絶対にモデルの仕事でもプラスになることだし、友達もまたそこでも作れるからねん」


 流石、ポジティブガールだ。

 二つ返事でOKした。


「それに~」


 サヤはニコニコと微笑みながら、不意に俺の腕に抱き着いてくる。

 ぷにゅっと柔らかい胸の素敵な感触が二の腕から伝わってきた。


「え、ええ!?」


「御幸くんと一緒だもん! 絶対に同じクラスをキボンヌぅ!」


「こら、貴様ッ! ご主人様になんて破廉恥な真似を! わ、私でさえ、まだ一度も……いや違う! とっとと離れぬか!!!?」


 アリアは激昂し、サヤを無理矢理引き離そうとする。

 俺から離れたサヤは「ぷう~っ!」と頬を膨らませていた。


「もう、アリアちゃんたら初心なんだから! これくらいアプローチしないと好きな男の子には気持ちが伝わらないんだからねぇ!」


 さらにと、とんでもないことを言い出す、サヤ。

 帰国子女のハーフっ娘だけに、そういう面でやたらオープンだ。

 こんなスタイルが良く可愛い子に好きだと言われて嬉しい筈なのに、あまりにもぶっちゃけ具合からかどう反応していいのか戸惑ってしまう。


「……ぐっ! た、確かに一理ある。だがしかし!」


 アリアは妙に納得しつつも、円卓騎士ランスロットとして戸惑いを見せる謎のジレンマに侵されているようだ。

 サヤのペースに乗せられてしまうと、彼女はポンコツと化してしまう。


「サヤちゃんの言うとおりかもね……御幸くんって奥手だし、その姿勢を見習わせてもらうわ」


「恋愛マスターだねん。これからはサヤ先輩と呼ぶねぇ!」


 四葉さんと鈴音はやたら納得しつつ、称賛までしている。

 何を見習うのか知らないけど、この状況を止めてくれないのかなぁ……。


「……御幸。凄くいい話だけど、私にその資格があるかな?」


 莉穂がぽつりと呟く。

 その言葉に僕だけじゃなく、その場にいる誰もが視線を向けた。


「どういう意味だい?」


「いや……私、何もしてあげられなかったのに、そんな好意に甘えていいのかなって」


「まだ藤堂のこと気にしているのか? 莉穂はいつも止めてくれていたじゃないか? 昔のことだって俺の方から勝手に離れたのに……感謝しているよ」


「……見るに見かねてだよ。もっと、やりようはあったと思う。けど、私はそれ以上は何もできなかった。あの藤堂ゴミに付きまとわれるのが怖かったから……」


 今思えば無理もない。

 奴は教師さえ黙らせる親のコネがあった。

 またBランクの探索者シーカーとして実力もある。

 周囲が何かしら藤堂の味方みたいなもんだ。


 そんな相手にたった一人が抵抗したって何もできない。

 少なくても俺はそう思い半ば諦めていたくらいだ。


 けど莉穂は違う。

 周りが見て見ぬ振りをしようと、必ず俺を庇ってくれた。

 彼女だって藤堂からストーカーのように付きまとわれていたにもかかわらず。


「――そんなことない! 誰がなんと言おうと、俺は莉穂には感謝している! だからこうして声をかけているんだ! それじゃ駄目か?」


「……ううん。そんなこと……ありがとう御幸(やっぱり優しい……大好きな頃のまま変わってない)」


 莉穂は瞳を潤ませ微笑んでくれた。

 いじらしい幼馴染の姿に思わず胸が絞られる。

 またあの頃の関係に戻りたい……心からそう思えた。


「幼馴染強しだね~。けど、あたしは負けないよ! これからポイント稼ぎまくってやるんだからねぇ! 過去は過去ッ! 未来に向かって突き進もうね、アリアちゃん!」


「……サヤよ、何故、私に賛同を求めるのだ? しかし。貴様のそういう鋼の如き精神だけは、私も見習うとしょう」


「名言ね、メモっておかなきゃ」


「ガチ、サヤ先輩凄いっす」


 サヤの姿勢にD班のメンバー女子がやたらと納得してみせている。

 なんだろ……嫌な予感がしてくるぞ。


「――話は聞いたわ、西埜君!」


 不意に聞き覚えがある女子の声が響いた。

 振り返ると、屋上の扉前に女子高生が腰に両手を添えて立っていた。


 眼鏡を掛けたインテリ風の美少女。

 生徒会長の鷲見 怜花さんだ。


「鷲見さん?」


「私のことは、怜花って呼んでね。御幸君と呼んでいいかしら?」


「うん、いいよ。ところでなんか用?」


「水臭いわ、御幸君。どうして私に声を掛けてくれないの?」


「声? ああ、聖雲学園のことね……一応、俺の友達限定だから」


「私達だって友達でしょ? まぁ柏木さんほど図々しくはないし、生徒会も忙しくて、なかなか会いに行けないけど」


 確かに時折一緒に登校しているけど。

 名指しされたサヤは「何気にディスらないでくれるぅ、生徒会長~!」と怒っている。


 けど怜花は無視し話を続けてきた。


「別に私は名声のために聖雲学園に行きたいとかじゃないの。目的はその子達と同じよ!御幸君と一緒に過ごすことで、キミのこと沢山知りたいし、私のこと知ってもらいたいの。それに聖雲学園に転入すれば、私は生徒会長の枠から外れてその時間が増えるわ。今より自由に動けるだろうし、媚びへつらう貴女達には絶対に負けないんだからね!」


 いきなり女子達に宣戦布告してくる、怜花。

 あれ? この生徒会長、こんな痛い子だっけ?


「言ってくれるね~、生徒会長ぉ」


「こっちこそ、ぱっと出の一見さんに負けるつもりはないんだけど」


「うむ! その挑戦、受けて立とう!」


「面白い子ね……気に入ったわ、うふふふ」


「怜花パイセン、上等ぉ!」


 その場にいる女子達全員が不敵に微笑みいきり立っている。

 てか、さっきからなんの話をしているんだ?

 何やら修羅場にも見えなくもない……。

 一応、フォローだけでも入れておくか。


「わ、わかったよ。それじゃ、鷲見さ、いや怜花も一緒に見学に行こう。先方からは、それから決めてもいいって言われているからね……日程はおいおいってことで」


「うん、ありがとう御幸君!」


 こうして学校を代表する美少女達を引き連れて、聖雲学園に見学することになった。

 万一全員が転入ってことになったら、また学校で妙な騒ぎになりそうだ。



 それから帰宅時、多くの報道陣が校門前に押し寄せていた。

 最近ずっと、こんな調子だ。


 なんでもダンジョン攻略に貢献した俺だけじゃなく、苛めをスルーしていた学校側に対しても責任追及したいらしい。

 だけど明らかに他生徒の妨げとなり迷惑となっている。


(参ったな……下手に捕まったら何を聞かれることか)


 こうした疎ましさも、俺が転入を考える原因の一つだ。

 しかし学校側の配慮もあって、僕とアリアはこっそり裏門から抜け出すことに成功した。


 なんとか無事に帰路に着く。

 

 が、


「――待ってたぜ、西埜」


「と、藤堂!?」


 そう、藤堂 健太。

 奴が待ち伏せていたのだ。

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