第9話 DUN機関の勧誘
ミリンダの話によると、異世界で魔王だった父親が勇者によって斃された。
その仇討ちとして、ミリンダは自分が支配していたダンジョンで勇者を誘き出し戦いを挑むも結果は引き分けとなり、この世界に転生でなく転移されたそうだ。
「勇者によって半身を失い、こんな幼い身形となったというわけじゃ。本来の妾はそりゃもう超絶ナイスバディの美女で胸もバインバインで凄いことになっておったのじゃぞ」
知らんがな。
てか、なんで魔王の娘が日本政府に保護されてんの?
「ミリンダちゃ、いえミリンダ
「妾と共に政府に保護されたらしいが、間もなくして死んだと聞いておる。何せ向こうは生身の人間じゃ、妾と同じダメージを受けては生きておるまい」
なるほど、ミリンダは不老不死の吸血鬼が故に生き延びたということか。
だとしても人類と敵対する彼女が、どうして自衛隊とつるんでチーム班長なんかしているんだ?
確かに本物の吸血鬼っぽい感じだけど、アニメやラノベのような不気味で邪悪な存在には見えない。
そもそもだ。
「ダンジョン対策特務機関とはなんですか? 自衛隊が関与しているってことは防衛省絡みの組織とか?」
俺の問いに副班長の東雲さんが「私から説明いたしましょう」と言ってきた。
「確かに防衛省の後ろ盾を得られており、ダンジョン管理局と共同する組織ですが、あくまで非公式の特務機関です。なので『
ダンジョン管理局とは全国に存在するダンジョンを管理するため防衛省から設置された組織だ。
民間ギルドも、各地域の管理局から直接クエスト依頼を受けることもある。
「……妾を含むアリアとファティは、市民権を得る代わりに交渉してきた日本政府と協力関係にある。本来であれば異世界では種族や属性の違いから敵対関係にある筈じゃが、この世界にそれを持ち込んでも意味はない。お互い地に足をつけるため、こうして垣根を捨て同じチームとして団結しておるのじゃ」
「私達、異世界人の力はダンジョンのモンスターに対し最も有効のようです。しかしながら、ボス相手にはまるで歯が立ちませんが……」
アリアが補足の説明をしてきた。
「ミリンダさんでも?」
「うむ。全盛期ならともかく、今の妾はこのような身形じゃからな……身体が小さくなった分、大幅にパワーダウンもしておる。まぁ仮に元の姿でもダンジョンの支配者たる者を完全に斃すことは難しいかもしれんのぅ」
魔王の娘でさえダンジョンのボスを斃せないなんて……それを可能にする俺のスキルは相当レアだということか。
「この度、西埜君がバルサウロスを斃したことで、私達D班がキミの支援を全面的に行うよう指示を受けております。アリアを派遣し護衛につけさせたのもそのためです」
「アリアを護衛に? 東雲さん、誰の指示ですか?」
「
「え? 司令官なのに?」
「極一部の者しか、その姿を見た者はないという謎の上官じゃ。まぁ正確には日本政府からの指示だと思って良いぞ」
「日本政府が? どうして俺なんか……ただの高校生ですよ?
「何度も言っておるじゃろ? ダンジョンのボスを斃せる能力を持つということは、そういうことじゃ。楓、ミユキ殿にどういう意味なのか教えてやれ」
「わかりました班長。西埜君、心してお聞きください」
俺は東雲さんから色々と説明を受ける。
まずダンジョンのボスを斃すということは、日本にとってどれほど重要なことかについてだ。
なんでも斃されたボスは、他のモンスターや魔力鉱石と違いリポップされることはないのだとか。
支配する者が不在となったダンジョンはこれまでの均衡を崩し、上級モンスターが現れなくなる。
仮に出現してもゴブリンなど低級から中級に限られ、その程度なら民間のギルドに所属する
つまり超高効率化エネルギー資源である『
しかも資源は無尽蔵に沸いてくるので、未だ他国からエネルギー依存している日本にとっては経済的にメリットが大きい。
また各地域に点在するダンジョンを管理ではなく保有することで、その機能を意図的に封じて上で防衛用の巨大シェルターや地下コロニー建設などの構想があり、ゴミ処理問題の解決など国土の環境開発に大きな貢献がもたらされる見込みがある。
さらに世界への広報喧伝や海外からの要請など、政治的にも様々なマウントが取れる逸材スキルとして期待されているのだと言う。
要するに俺の《
わざわざ非公式組織のDUN機関に俺の護衛や支援を指示したのも、そういった理由からだろう。
「――つまり政府は僕を仲間に引き入れたいと?」
「うむ、そのとおりじゃ」
俺の率直な問いに、ミリンダは包み隠すことなく首肯する。
「正確に言うとミユキ殿にはDUN機関に所属し、妾の指揮する下でD班に配属してほしいことを望んでおる。その為にD班が結成されたとようなものじゃからな。我らはミユキ殿のダンジョン探索と戦闘面だけでなく、学業や私生活に至るまできめ細かなサポートと護衛が任務じゃ。ちなみにD班メンバーは全員粒ぞろいの美女ばかりじゃぞい」
「……俺に関わるチームは女子しかいないってこと? それって何か意図があるんですか?」
「さぁな。全て司令官が編成したメンバーじゃ。おそらくミユキ殿の趣味嗜好を考慮した上じゃろう」
「なんでも最近のアニメやラノベ文化にちなんだ、ハーレム展開とやらを意識しているとか。まぁ、むさ苦しい筋肉質の男ばかりより良いのではないでしょうか?」
真面目そうな東雲さんまで妙な補足を付け加えてくる。
まるで俺がハーレム展開を望んでいるような言い方じゃないか。
言われてみれば四六時中、筋肉質の男といるよりは遥かにマシだと言える。
それにマッチョキャラは親父の丈司だけで十分だ。
いやいやいや! そうじゃないだろ!
俺、ハーレムがいいなんて、これまで言った覚えがないんですけど!?
「勿論、給与は発生します。西埜君は日本、いえ世界を救う『救世主』となられるわけですから、一般人の年収を軽く上回ることでしょう。また今後の働き次第では某メジャリーガーを超えるかもしれません」
な、なんだって!?
うおっ、我が家の台所事情を考えると夢物語じゃないか!
凄い……いきなりの大出世コースだ。
もう《オヤジちゃんねる》を手伝わなくていいし、なんならあの学校を辞めたって……。
けどなぁ……いきなり救世主と言われても実感がないと言うか。
《
この俺、『西埜 御幸』個人が称賛された成果じゃないような気がする。
そもそも陰キャぼっちの俺がそんな大役が務まるのだろうか?
「あ、あのぅ……少しお時間をもらっていいですか?」
とても二つ返事で引き受けていい話じゃないと判断した。
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