第13話「初めてのモンスター戦」

 初めてということで四人は慎重に直進する。


「横穴はなさそうだね」


 と綱島が注意深く見回しながら言う。


「うん、モンスターかも」


 三郎丸が声を上げると、ほか三人は止まって彼が見る方向に意識を向ける。

 現れたのは灰色の大きなネズミのような怪物だ。


「ね、ネズミ? にしてはすごい大きいね。小学生くらいありそう」


 綱島が驚くと、


「そもそもネズミなの? 二足歩行してるけど」


 本郷が冷静な指摘をする。


「ビッグラットというモンスターです」


 背後にひかえるオリビアが名前を教えてくれた。


「ネズミような怪物ってことか」


 三郎丸は安直だなと思ったが、わかりやすさを重視したの名づけなのかもしれない。


「雷よ、荒ぶる力を【トネール】」


 綱島が先手必勝とばかりに雷属性の下級呪文で攻撃する。

 ビッグラットはひらりと左にかわす。


「え、避けた?」


「雷よ、荒ぶる力を【トネール】」


 そこを三郎丸の雷属性の下級呪文が命中して、一撃で倒れた。

 女子たちの視線が彼に集中する。


「避けたタイミングを狙うといいと思ってたら、上手くいったよ」


「フォローあんがと」


 綱島は一瞬悔しそうになったが、すぐに切り替えて三郎丸に笑顔で礼を言う。


「先手をとるのは間違ってないと思うけど、連携も考えなきゃか」


 竜王寺がすこしめんどくさそうな顔をする。


「綱島が仕掛けて俺がトドメ、竜王寺が防御、本郷が分析とか?」

 

 と三郎丸はとりあえずアイデアを出してみた。


「うん、いいんじゃね?」


 彼にとって意外なことに綱島は反対しない。


「誰かがディフェンスはやんなきゃだしね」


「わたしは戦力になりづらいものね」


 竜王寺、本郷のふたりも彼を支持したので、パーティーの方針が決まる。


「本郷はかなり大事なポジションだと思うけど。薬師と錬金術だから」


 三郎丸はおそるおそる告げた。


「フォローありがと。でもそのうち役に立つから」


 本郷はにこりと笑う。


「う、うん」


「へー、いいとこあるんじゃん、三郎丸」


 綱島が三郎丸の肩をぽんと叩く。


「フォローできる男はポイント高いよ」


 竜王寺も彼を褒める。


 三郎丸には思いがけない展開だったので、フォローできるように頑張っていこうと思った。


「ところでこの死骸はどうする?」


 と彼が聞いた視線の先にはビッグラットのものがある。


「魔力を回収して、部位を持って帰ればいいんだっけ? どこを選べばいいのかわかんないね」


 綱島が首をひねった。


「証明というからには特徴的な部分よね。頭部なら間違いないと思う」


 と本郷が自分の意見を話す。


「たしかに、間違えようがないだろうな」


 三郎丸の言葉に綱島と竜王寺が同時にうなずく。

 オリビアは何も口を出さず見ている。


「桜の考えで正解なのかな?」


 と綱島が声を小さくして疑問を言う。


「失敗も勉強のうちって思われるかも」


 と三郎丸は答える。


「そっちかぁ」


「ありそう」


 竜王寺、本郷は彼の意見をもっともだと思ったらしい。

  

「解体しないとな」


 三郎丸は言ったものの、どうやってやろうか悩む。

 手ぶら同然でやってきたので、死骸を切断する道具を持っていない。

 

「あ、わたしやってみたい」


 と本郷が小さく手を挙げる。


「いいけど、どうやって?」


 三郎丸は思わず問いかけた。

 彼女は女子としては平均的な身長で、腕力だってあるように見えない。


「実はわたしは持ってきてるの、これ」


 本郷はポーチから大きめの包丁を取り出す。


「そ、そうなんだ」


 三郎丸は女子はカバンやポーチを常に持ってるよな、くらいにしか思っていなかったので、完全に意表を突かれた。


「俺がやろうか?」


「ううん、自分でやってみたいの」


 三郎丸の申し出を断って本郷は自分で解体をはじめる。


「桜、こういうのやりたがるタイプだから、三郎丸は心配しなくていいよ」


 竜王寺が彼に話しかけた。


「そうなんだ」


「おとなしそうだからギャップあるよね。ウチも最初びっくりしたよー」


 綱島はニコニコしている。

 本郷は意外と慣れた手つきで切断し終えて、バッグに収納した。


「三郎丸くんがフォローしようとしてくれたのはわかってるから」


 立ち上がって本郷がニコッと彼に微笑む。


「そうそう。三郎丸、いいやつじゃん」

 

 と竜王寺がうなずく。

 三郎丸はボタンの掛け違いみたいなことが起きなくてよかったと安心する。


「次はどうする?」


 綱島が三郎丸に問いかけた。

 

「とりあえず今日はモンスターとの戦闘と、ダンジョン内を歩く練習だけやるつもりがいいんじゃないかな? 安全が懸かってることだから」


 彼は慎重論を唱える。


「そだね。今日わたしたちだけでやってみて、わかんないことだらけって理解できたもんね」


 本郷が真っ先に賛成した。

 

「知らないことばっかだから、練習やらせてもらって正解でしょ」


 と綱島も同意する。


「あーしらだけで大丈夫かねー?」


 竜王寺が珍しく弱気な発言を漏らす。


「練習して相談していけばいけると思うよ」


 三郎丸は励ますつもりでポジティブな言葉をかける。


「それにいざというときに待機してくれてるし」


 とちらっとオリビアを見た。


「三郎丸くん、かっこよかったのが台無しだよ?」


 本郷が苦笑する。


「いいこと言うって感心したのに」


 竜王寺があきれた。


「ま、三郎丸らしいかも」


 と綱島がケラケラ笑う。

 三郎丸もつられて笑った。


 そのあと、四人は立ち上がって戦闘をこなしていく。


「全部で何体の敵と遭遇したっけ?」


 と三郎丸が確認する。


「ビッグラットが五体、ゴブリンが三体ね」


 本郷が即答した。

 ゴブリンとは醜い顔をした小柄な鬼である。


「三郎丸、魔力の余裕は?」

 

 と綱島が問いかけた。

 三郎丸がいままでずっとひとりで光源を担当してるからである。


「まだ平気なんだけど、一回変わったほうがいいかな?」


「余裕があるうちに休むべきだと思う」


 とこれまた本郷が最初に即答した。


「あと、ウチも練習したいからさ。光源を維持しながらの戦いを」


「おっと、そうだね」


 綱島の意見はもっともだと思ったので、三郎丸は光を消して交代する。


「二階に下りる階段を見つけたけど、どうする?」


 と本郷が右斜め前を指さして問いかけた。


「まずは行ってみようか」


 三郎丸の考えに異論は出なかったので、彼を先頭にして一向は下りていく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る