第4話「属性魔法の説明」

「すこし休憩しましょう」

 

 とオリビアは言って庭に設置されたベンチに三人並んで腰を下ろす。


 まるでどこかから見ていたようなタイミングで、三郎丸の記憶にない女性神官たちが三人に水を持ってきてくれた。


「これはガラスですね」


 と三郎丸は驚く。


 日本で見かけるものと比べるとややゴツゴツしているが、ほかはほとんど遜色ない。


「ガラスのコップってこっちにもあるんだね」


 綱島は珍しそうにガラスのコップを回転させる。


「ええ、皆さまの世界にもあるのですね」


「うん、あるよ。ちょっと違うけど」


 オリビアと綱島のやりとりは女子トークのようで、三郎丸には入りづらい。

 そこへほかの神官と女子たちがやってくる。


「オリビア様、すこしよろしいでしょうか」


 アイシャが代表するように王女に話しかけた。


「どうしました?」


「【魔法適性】をお持ちの方は、わたしたちで交代で教えたほうがよいのではないかと思いまして」


 とアイシャがオリビアに答えるのを聞いて三郎丸はなるほどと思う。

 

「光属性と錬金術を覚えるのは、たしかに彼らのためではあります」


 オリビアは即答を避けて三郎丸を見る。


「ヨーヘイさん、いかがしますか? あなたなら光魔法と錬金術に挑戦してみる価値はありそうですけど」


 とオリビアは言う。


「三郎丸は火魔法と雷魔法の下級呪文、もう使えるもんね」


 綱島がうらやましそうに言ったことで、やってきた女性陣全員が驚愕の表情で視線を三郎丸に集中させる。


 女子の注目をこんなに集めたことがない陰キャの三郎丸は、くすぐったく思う。


「すごい。どちらも会得難易度が高めの属性なのに」


 とリリーがつぶやく。


「え、むずいんだ?」


 綱島が目を丸くした。


「はい。だからヒカリさんは決して悪くないです。ヨーヘイさんがすごいだけなのです」


 とオリビアが彼女をフォローする。


「三郎丸くんってすごい人だったんだ」


 本郷が感心した。


「意外って言ったら失礼か」


 竜王寺も見直したという顔である。


「そちらの進捗状況はどうですか?」


 とオリビアが問う。


「サクラさんが錬金術の初級呪文を、マヤさんが水魔法の初級呪文を覚えました」


 とリリーがまず答え、


「ほかの方は感覚がつかめないようです。異世界から来た方たちなので当然なのですけど」


 とアイシャが擁護するように話す。


「魔法を初めて覚えるときは感覚に頼る部分が大きいですからね」


 オリビアは仕方ないと笑顔を見せる。


「国家は危機的と申し上げましたが、皆さまの成長をお待ちするくらいの時間はありますから」


「ならいいんだけどさ」


 綱島たちを筆頭にまだ魔法を会得できてないメンバーが胸を撫でおろす。

 

「こうしてると、危機的状況って言われてもピンと来ないですね」


 と三郎丸は遠慮がちに本音を打ち明ける。


「でしょうね。ここは最前線から離れていて、まだ安全度は高いでしょうから」


 オリビアの顔に苦笑に近い微笑が浮かぶ。


 安全だと言い切らないところに彼女の心理、もしくはこの国の状況が現れているように三郎丸は感じた。


「話を戻しますが、ヨーヘイさんはどうしたいですか?」


 とオリビアは笑みを引っ込めて問いかける。


「そうですね」


 三郎丸は即答を避けて考えた。


 オリビアの発言から魔法を会得するチャンスは逃がさないほうがよい、と結論を出す。


「せっかくだし挑戦してみます。何でもすぐに会得できるとは思いませんけど」


 とオリビアに考えを伝える。


「承知しました。ではアイシャ、リリーお願いしますね」


 オリビアに頼まれたふたりの神官は目くばせをして、まずアイシャが三郎丸と目を合わせた。


「ではまずはわたしから。光よ、力を顕せ【ルミエール】」


 彼女が呪文を唱えるとその右手が光る。

 

「光属性の下級呪文です。暗がりを照らしたり、モンスターにダメージを与えることも可能です」


 と彼女は語った。


「光よ、力を顕せ【ルミエール】」


 三郎丸がさっそくマネをしてみると、右手がほんのりと光る。


「えぇぇぇ……」


「ウソ」


 アイシャとリリーが目を丸くし、女子たちが驚きの声をあげた。


「いきなり三属性も発動させるなんて、にわかには信じがたいです」


 オリビアはまじまじと三郎丸の顔を見つめる。

 驚き以外の感情が込められているそうで、三郎丸には照れくさい。


「俺も驚きました」


 三郎丸は言ってからしらじらしい気がしたが、ほかに言葉が見つからなかった。

 

「三郎丸くん、やばくない?」


「本当に英雄だったりして」

 

 女子たちはひそひそと会話する。


「やるじゃん、三郎丸」


 と言って彼の右肩をすこし強くと叩いたのは竜王寺だった。

 彼には一度も向けたことがない種類の笑顔である。


 三郎丸はようやく自分が認められた気がして、頬がゆるみそうになった。

 

「オリビア様、ヨーヘイ様にほかの属性を教えることを考えてもよいのではないでしょうか?」


 水を持ってきてくれた女性神官のひとりが提案する。


「いえ、やめておきましょう。あせりは禁物です」


 オリビアが冷静に退けたので、三郎丸としてはすこしホッとした。

 彼としては自分の役割が欲しいだけで、他人の役割を奪う気はない。


「火属性と光属性を中心にしたほうがいいんですよね?」


 と三郎丸は念押ししたくてオリビアに聞く。


「ええ。火属性は攻撃が得意ですし、光属性は攻撃、浄化、治癒と役割が多い優秀な属性です。どちらも大いに助けとなってくれるはずですよ」


 彼女の返答を聞いて彼はうなずいた。


「そういうものなんですね」


 防御ができない気がしたものの、それはほかの人の役割かと解釈する。


「ほかの属性について聞いてもいいでしょうか?」


 と手をあげて本郷が質問した。


「もちろんです」


 オリビアはニコリと微笑む。


「風属性は索敵や情報伝達を得意とします。鍛えれば強力な嵐を起こせますが、道のりは長いでしょう」


 と彼女は言う。


「水属性は癒しや支援に長けた属性です。攻撃もできますが、火属性や雷属性と比べたら破壊力では譲ると言われています」


 オリビアの説明を覚えようとみんなが意識を集中させている。


「土属性は最も守りを得意とします。使い手次第では多彩な攻撃も可能です」


 と言ってからオリビアは水を飲む。


「結局のところどの属性でも使い手の力量と応用力が重要ですね。わたくしが言ったのはあくまでも一般論で、実力者ならひっくり返せますから」


「あの、属性同士の相性みたいなものはありますか?」


 と三郎丸が手を挙げて質問する。


「ないわけではないのですが、実力者ならひっくり返せてしまうので、過信は禁物ですね」


 オリビアは優しく答えた。


 つまり、ゲームなどで見かける相性のいい属性にはダメージが二倍、みたいなことはなさそうだ、と三郎丸は解釈する。

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