第20話

「次の漢字にいくぞよ」

 大夫たいふが筆をぴかんと光らせて言う。



「『俵』。にんべんの横に表」

「『桜』。きへんの横にツに女」

「『接』。てへんに立つに女。この字は『ぐ』と訓読みで使うのが難しいぞよ。『ぎ木』とかの」



「王位をつぐ、とか?」

とおれが言うと、ジュンが

「その場合は継承するっていう意味になるから、『継』じゃない?」

 と言った。

 その瞬間、大夫の筆がぴかーん、ぴかーんと光り、ジュンが正しいことが分かった。

「ジュンくん、すごい!」

「へへ」

 ジュンは漢字好きなんだよね。


「漢字はの、意味を考えて書くといいのじゃ。それはまた今度の機会にやるとするぞよ」

「うん!」

 おれたちは漢字を書き、呪文を唱えた。筆がぴかーんと光り、大夫はひげをなでて笑った。



「では次じゃ。間違えやすい漢字じゃよ」



「『編』。いとへんに戸の中にかこいをはねて書いて、横たてたて」

「『衛』。ぎょうがまえの間に五の上の横ぼうがないのを書いて、口を書いて、年の中身。書き順は右から順番に書くんじゃよ」

「『属』。戸の一がないものを書く。ノを書いて、虫にはねるかこい。ただし、書き順は虫の口部分を書き、先にはねるかこいを書いてから、虫の続きを書くんじゃ」



「『編』は、たてたて、ね! 横二本かと思ってたわ」とレイアちゃん。

「あ、おれも!」

「ボクは『衛』の字の中の部分が年の字の中身といっしょっていうのが分かりやすかった!」とジュン。

「おれも、それ、なんて書いてあるか、さっぱり分からなかったよ。それにおれは、『属』に虫があるって分かってよかった!」


 おれたちはていねいにノートに漢字を書き、呪文を唱え、そうして大夫の筆を光らせた。ぴかーん!



「呪文じゃからの。どんどん唱えるぞよ‼」

「はーい!」

 大夫の筆はぴかんぴかんと喜んでいるようだ。



「『綿』。いとへんに白に巾」

「『夢』。くさかんむりに横にした目、細長いワの中に夕」

「『雑』。九の下に木、横に進むのしんにょうのないのを書く」

「『確』。いしへんの横に細長いワを書く。ワにつき出るノを書いて、そのまま進むのしんにょうのないのを書く」



「進のしんにょうのないの、ふるとりっていう名前なんだよ」とジュン。

「へえ、ジュン物知り!」

「ジュンくん、すごい!」

 ジュンは照れくさそうに笑った。

 大夫も嬉しそうだ。


「おれ、『夢』の夕の部分、冬のてんてんがないのを書いていたよ」とおれ。

「間違えやすいところじゃのう」

「わたしは『確』が難しくて……」とレイアちゃん。


「じゃあ、みんなで呪文を唱えて覚えよう!」

 ジュンが言って、みんなで呪文を唱えながら、漢字を書いた。

「呪文を唱えながら書くのもいいかも!」とおれが言うと、みんなうなずいた。

「うむうむ、いいのう」

 大夫は、ほ、ほ、ほ、と目を細めて笑った。

 もちろん筆は大きく光った。

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