2章 ホンラード王国編 ホンラードとオーエンの秘密

第25話 魔樹の森①

 ふと気づく俺は檻の中にいた。檻の外はよく見えなく、ここがどこだか分からない。檻の中には何やらベットやトイレがあって、まるで囚人が入る牢獄みたいだった。

 すると檻の外から複数の足音が聞こえ、その足音の方に視線を向けると、美保や山口の顔が見えた。


「美保! 菊池に山口、秋人、それに父さんたちまで!」


 俺は喜びの声をあげるが、俺以外は誰も喋ることはなかった。


「みんな、ここから出して! 多分こうなったのは白撫のせいだ!」


 そう言って俺は助けを求めた。これで俺は当然助けられると思ったいたが、みんなの反応は想像とは全く違った。


「なんで、檻から出さないといけないわけ?」


「動物園から、動物が逃げれば大変なことになるよ」


「てかそもそも、なんで俺たちと一緒の学校にいたんだ? キモイな」


「そりゃあ、こんな人間もどきが使えるパスなんてないよねw」


 美保たちが次々と俺を罵倒し始めた。いつの間にか、俺は俺のいる場所がなくなっているように思えた。


「は? 何言ってるんだよ? いいからここから出るの手伝えよ!」


「さっきからなんなの? 魔法が使えない人間もどきが!」


「まあまあ、七条さん。これもあなたとずっと一緒にいたわけですから」


「美保ちゃんもかわいそうだよね。こんなのとずっと一緒にいたわけだから」


「それ、太郎もだろ」


 そう言うと、美保以外は笑い出し、美保は本気で怒っていた。


「笑い事じゃないわよ! そのせいで私がどんだけ恥を書いたのか分かる?」


 美保たちの会話、そして美保の表情からみんなが本気で俺を人間扱いしてないことが分かった。そんな中、父さんたちは終始無言だったが、みんなが笑い始めたことで父さんが口を開いた。


「美保ちゃん、そこまでしてくれないか?」


 俺はこれが白撫の言っていた環境で最悪と思っていたが、そんな世界でも父さんは俺のことを庇ってくれていると思い、嬉しくなった。でもそれが勘違いであったのに気づくにはそう時間がかからなかった。


「そうよ、美保ちゃん。それに私たちが1番大変なのよ」


「す、すみません。おばさん」


「いいわよ、それに私たちも美保ちゃんの気持ちは分かっているつもりだから」


 母さんの言葉に俺は堪らず声を上げた。


「何言ってるんだよ母さん! それって母さんたちも俺が人間じゃないって言うのかよ!」


「さっきから黙って聞いていれば何なの? こうやってみんなで見に来てあげたのに。少しぐらい感謝しなさい」


「感謝って何? 俺はただ単にここから出して欲しいだけ! それとも俺が何かしたの?」


 そう言うと、父さんが相変わらず優しそうな雰囲気で俺を諭すように喋った。


「春人、人間には人間の生活があるよね。でも今君が言っているのは、それを壊すことだよ。猫に喋れって言ってもできないようにね」


 父さんの発言で俺は何も考えられなくなった。


「大丈夫! 父さんが必ず美味しい餌を用意するから」


 父さんがそう言い終わると、奥からまた1人やってきた。


「白撫さん!」


 美保たちが嬉しそうに白撫に近づいていた。また父さんたちですらも近づいて、まるで人気芸能人に群がるファンのようだった。すでに俺への関心がなくなって、みんな思い思いに、白撫に話しかけていた。すると白撫は、俺の方を見て気味が悪い笑みを向けてきた。その瞬間、俺の目の前が崩れ落ちた。







「うわああああああぁぁ」


 そう言って俺は目が覚めた。しかし目が覚めたと言っても全身が痛く、ろくに目が開けられないでいた。さらに自分でもわかるぐらいに、心臓の鼓動が大きくなっていて息が荒くなっていた。しばらくすると、収まり呼吸も安定して来た。全身に痛みを感じながらも俺は上体を起こし、目を開いた。そこは、さっき見ていた檻でもなく、真っ白な部屋でもなかった。

 そしてあらかた理解が追いつくと、俺は意識を朦朧としながらも周りを見渡し、林間学校で起こったことを思い出しながら、立ち上がり自分を奮い立たせた。


「ここはどこだ……いやどこでもいい。俺がどこにいようが俺だ! 絶対に俺は強くなる! たとえ魔法が自力で使えなくても強くなる……そう決めたんだ……」


 白撫に、いや自分自身にそう言い聞かせた。

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