○7章 世紀末でも強かった非セカイ系 ~ムーブメントはいつだってミルフィーユ~

 その引きでセカイ系やらないんかい! というクソ構成なわけですが、まあ普通に90年代後半から00年代前半は単純にエンタメ=セカイ系でしたというわけでもなかった。それまでのヒロイック・ファンタジー的ムーブメントからつながるファンタジー黄金期も絶好調継続中であり、セカイ系とはまた系統がずれる未来のトレンドが萌芽した時代でもある。

 ここはすっぱりと章単位で切り分けるべきだろう。というわけで、セカイ系以外の動きを先に見てしまおう。


◆ファンタジー黄金期に起きる、小さくも大きな変化◆


・1996~02年の小説戦線

「狂科学ハンターREI/中里融司」「デュアン・サーク/深沢美潮」

「ブラックロッド/古橋秀之」「月と貴女に花束を/志村一矢」

「エレニア記/デイヴィッド・エディングス」「気象精霊記/清水文化」

「月蝕紀列伝/南房秀久」「西の善き魔女/荻原規子」

「天と地の娘―根の国の物語/篠田真由美」「楽園の魔女たち/樹川さとみ」

「パンツァーポリス1935/川上稔」「ア・リトル・ドラゴン/中村うさぎ」

「タイム・リープ文庫版/高畑京一郎」「クリス・クロス文庫版/高畑京一郎」

「やさしい竜の殺し方/津守時生」「召喚教師リアルバウトハイスクール/雑賀礼史」

「人買奇談/椹野道流」「僕の血を吸わないで/阿智太郎」

「ブギーポップは笑わない/上遠野浩平」「ラグナロク/安井健太郎」

「フルメタル・パニック!/賀東招二」「スクラップド・プリンセス/榊一郎」

「皇国の守護者/佐藤大輔」「マリア様がみてる/今野緒雪」

「姫神さまに願いを/藤原眞莉」「斎姫異聞/宮乃崎桜子」

「コールド・ゲヘナ/三雲岳斗」「ザ・サード/星野亮」

「東京S黄尾探偵団/響野夏菜」「流血女神伝/須賀しのぶ」

「キノの旅/時雨沢恵一」「ダブルブリッド/中村恵里加」

「若草野球部狂想曲/一色銀河」「閃光のガンブレイヴ ゼロから始めよ/椎葉周」

「エンジェル・ハウリング/秋田禎信」「ストレイト・ジャケット/榊一郎」

「R.O.D READ OR DIE YOMIKO READMAN "THE PAPER"/倉田英之」

「野望円舞曲/田中芳樹&荻野目悠樹」「今日からマのつく自由業!/喬林知」

「イリヤの空、UFOの夏/秋山瑞人」「ウィザーズ・ブレイン/三枝零一」

「リバーズ・エンド/橋本紡」「スターシップ・オペレーターズ/水野良」

「トリニティ・ブラッド/吉田直」「ランブルフィッシュ/三雲岳斗」

「でたまか/鷹見一幸」「まぶらほ/築地俊彦」

「A君 (17) の戦争/豪屋大介」「武官弁護士エル・ウィン/鏡貴也」

「EME/瀧川武司」「ここほれ ONE-ONE!/ 小川一水」

「はっぴぃセブン/川崎ヒロユキ」「トゥインクル☆スターシップ/庄司卓」

「レヴィローズの指輪/高遠砂夜」「魔女の結婚/谷瑞恵」

「英国妖異譚/篠原美季」「少年陰陽師/結城光流」

「ローゼンクロイツ/志麻友紀」「灼眼のシャナ/高橋弥七郎」

「撲殺天使ドクロちゃん/おかゆまさき」「バイトでウィザード/椎野美由貴」

「伝説の勇者の伝説/鏡貴也」「カオス レギオン/冲方丁」「風の聖痕/山門敬弘」


 まず、ライトノベル前夜や誕生期に産まれた作品の多くがバリバリの現役だ。人気作は長寿シリーズ化し、この時代にデビューした作家にとっては「スレイヤーズ」「ロードス島戦記」「グイン・サーガ」などは過去の憧れではなく普通に生き残りを賭けたライバルや壁だったという話も聞く。また代表作をシリーズ継続しながら別レーベルで新作立ち上げなども当たり前の動きとしてあり、人気作家は複数タイトルが同時ヒットすることもままあった。時代を代表する作品としてライトノベル史に影響を与えるものは多い。いくつかは後ほど特筆する。


 古典枠に押しやられつつあった海外産ファンタジーを出していこうという動きもそれなりに見られた。「エレニア記」はアメリカで生まれたエピック・ファンタジーの名作「ベルガリアード物語(82年)」と同作者の作品であり、この時代のライトノベル・レーベルはまだそういった作品も取り扱っていた。それから日本に入ってくるのは02年となるが、「氷と炎の歌」が刊行されたのが96年だ。この作品は副題あるいは映像化時のタイトルで呼んだ方が伝わりやすいだろう、「ゲーム・オブ・スローンズ」の原作である。


 ライトノベル・ファンタジーの王道とでも言うような作品として「やさしい竜の殺し方」「ラグナロク」「伝説の勇者の伝説」などや、SFの息吹も継承するものとして「パンツァーポリス1935」「コールド・ゲヘナ」「野望円舞曲」などが出てきている。

 「キノの旅」は比較的短めのエピソード完結型の構造と「不思議の国のアリス」や「グリム童話」などの寓話的古典の香り漂う名作としてヒット作となり、「トリニティ・ブラッド」は80年代の耽美的なファンタジーも想起させるライトノベル時代の吸血鬼ものSF・ファンタジーとして注目作となった。それから、ぱっとタイトルだけを見た時に剣と魔法のファンタジーともSF系とも少し違う、近現代ものっぽさを感じさせるものも増え始めている。

 少女小説では恋愛青春ものが一大ジャンルであることもあって、現代ものは昔から多かったが、「マリア様がみてる」は男性ライトノベル読者層からも人気を得た。

 一般文芸から出ているライトノベル読者と相性が良い作品というのもいくつか拾ってきてはいるが、ここでライトノベル寄りな新規レーベルというものが出てくる。 

 「ソリトンの悪魔」は初出が朝日ソノラマ社のノベルズだが、文庫化の際はソノラマ文庫ネクストに収録された。「神様のパズル」は角川春樹事務所からの刊行であり、角川の名はついているが角川文庫やスニーカー文庫とは別の流れとなるこの出版社からはハルキ文庫が創刊されている。


 「氷菓/米澤穂信;著」(01年)はかなり特異な存在だ。スニーカー・ミステリ倶楽部というスニーカー文庫の姉妹レーベルからの刊行であり、ライトノベル系新人賞を経てライトノベル寄りのレーベルから出版されながら、後に一般文芸として角川文庫に移籍するという経歴を持つ。「西の善き魔女」はC★NOVELSファンタジア出身だが、角川文庫から新装版が出されている。富士見ミステリー文庫というレーベルも誕生しており、「Dクラッカーズ/あざの耕平」(00年)などが刊行された。

 赤川次郎がジュブナイル系の代表的人気作家となっていたり、80年代に「ぼくらの七日間戦争」の大ブームがあったりなど、そういったものからの影響も受けていたのがライトノベルではある。「ロードス島戦記」が角川文庫と角川スニーカー文庫の両方の顔を持つなど、角川書店の社風という要素もあるかもしれない。諸々を考えると急に現れた動きではないのだが、それでもライトノベル=ファンタジー(あるいはSF)という感じからは少しずつ変わってきている印象は出てくる。


 本記事では一般文芸にカウントしているハヤカワ文庫から「星界の紋章」が出てきている。また、後にSF界隈で超新星として名を馳せ、現代SF界の大御所となっていく小川一水もこの時期はライトノベルを主戦場としていた(※10)。

 他に一般文芸から紹介しておきたい作品は「池袋ウエストゲートパーク」「屍鬼」「NHKにようこそ!」「ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ」あたりだろうか。

 児童文学からは「精霊の守り人」「ダレン・シャン」「デルトラ・クエスト」「コララインとボタンの魔女」などが登場している。講談社青い鳥文庫でのロングセラーシリーズとなる「タイムスリップ探偵団」も挙げておきたいか。

そして97年には世界で一番有名なファンタジー小説とも言われるようになる「ハリー・ポッターと賢者の石」が刊行されている(日本語翻訳版は99年)。 


※10 作家デビューは別名義でジャンプ ジェイ ブックスから。ソノラマを含むライトノベル界隈とハルキ文庫で活躍し、ハヤカワ文庫へと主戦場を移していく。この作家を主役にして見るSFとライトノベルの関係性史なども熱そうだ


 私は70~80年代を背負ったSF・ファンタジーを本流とする流れとは違う動きがざっくりと4つほど明確化しだしたのがこの時代だと考えている。


・1つは、急速発展し続けている電脳(ネット)という概念とライトノベルの合流(さらにヴァーチャル概念も)

・1つは、ハイファンタジーとローファンタジーのような界隈激論の元ともなっていくファンタジー概念の二分化あるいは極端化

・1つは、新文芸(ライト文芸)と呼ばれるようなジャンル概念の萌芽

・1つは、後にセカイ系と呼ばれる一言では形容しがたい何かの誕生


 この4つである。全部を同時に語ろうとするとまず私の脳が破裂する。だからまあ1つずつみていくわけだが、焦らず順番にやってみるとしよう(※11)。


※11 フルメタはロボとファンタジーの章で触るとか、シャナは学園ファンタジーの章で扱うとか、別の章でやる作品も多々


◆ネットが娯楽に与えた影響の凄まじさ。それでもヴァーチャル概念は早すぎる◆


 「クリス・クロス 混沌の魔王/高畑京一郎:著」(以下:クリス・クロス)は1994年に刊行されたライトノベルだ。メディアワークスが開催した第一回電撃ゲーム小説大賞の金賞受賞作であり、電撃文庫ではなく単行本で刊行された。金賞より上の大賞受賞作は普通に電撃文庫で刊行されているため、そのことは当時のライトノベルファン層でもかなり話題になった。97年に電撃文庫として文庫化もされたが、そういった経緯以上に話題になったのがその内容だ。

 世界最大の電子頭脳を持つコンピュータ上で256人が同時接続可能な仮想現実世界を探検するダンジョンゲームを公開。しかしその裏にはリアリティを追及する天才科学者の狂気的なこだわりがあり……という作品だ。あっと思った人もいるかもしれない、「クリス・クロス」はヴァーチャルRPG系(※12)の始祖論でも顔を出す作品として名高い。


 インターネットは80年代から存在したが、一般化がはじまるきっかけと言われるWorld Wide Web、いわゆる『WWW』が構築されたのが89年、現代では当たり前の存在となったウェブブラウザ型のはじまりとされるNetscape Navigatorの登場が94年。この時代に仮想現実のRPGへダイブするライトノベルが存在したことは令和に振り返ってもやはり驚く(※13)。

 似たようなテーマ・題材の先行作はある。「クラインの壺(89年雑誌・93年文庫)」はバーチャルリアリティ(※12)を取り入れた最初期時代の代表作と言われているし、異世界へのアクセス手段をゲーム的デバイスとすることでRPGのセーブ&リセット感覚で異世界探検をするという描き方をした漫画の「遥かなる異郷ガーディアン(90年)」あたりもマニアや研究家には有名だろうか。

 異世界召喚ものを異世界転生とあわせて後でやろうと語っていないため構成が非常によろしくないのだが、現実と異世界あるいは仮想世界という2つの世界をテーマにした作品はヒロイック・ファンタジー的な古いファンタジーの時代から既にある概念であり、「遥かなる異郷ガーディアン」も本質的にはそっち側の派生と考えられている。それに対して「クラインの壷」と「クリス・クロス」はインターネット文化の発生とヴァーチャル概念の登場そのものを源流として採用した作品と見られており、特にファンタジーRPGを採用した「クリス・クロス」は、「攻殻機動隊」に代表されていくような電脳系のカテゴリとも重なりつつもまた少し異なる、それまでのSF・ファンタジー作品とは明らかに違うものとして認識されていく。


※12 本記事ではヴァーチャルとバーチャルを、ノリと勢いと好みと解釈で両方使います


※13 方向性としてはまた違う種類のヴァーチャルとして、漫画界では恋緒みなとがヴァーチャルアイドルをテーマとした作品を97年に手掛けており、これも未来をいき過ぎた作品と言われていたりする


 ライトノベルから「電脳天使(96年)」「電脳羊倶楽部(97年)」、一般文芸から日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞した「青猫の街(98年)」など、ネットを題材とした作品も見られるようになっていく。

 デジタル玩具として「たまごっち(96年)」の大ブームと「デジタルモンスター(97年)」の登場もあり、「デジタルモンスター」は現実とデジタルワールドがクロスする構造のアニメが高い評価を得るなど、この時代の少年少女が電脳世界冒険ものというジャンルを認識する動きに大きく貢献している。 

 「ア・リトル・ドラゴン」はあくまで異世界ファンタジーものであり、ヴァーチャルものではないのだが、未来から振り返った時にゲーム異世界系の源流枠の1つに挙げられることがある。そこらへんは「遥かなる異郷ガーディアン」に近い枠かもしれない。

 そしてこの方向での劇的な変化をもたらすのは02年発のアニメ作品となる。その名を「.hack//SIGN」といい、現代でもイメージしやすいバーチャル・リアリティなネットワークオンラインゲームのファンタジー世界へログインしたら、ログアウトができないという不具合が発生してしまい……という作品だ。「クリス・クロス」の時代にはまだ一般的娯楽として確立されていなかった、新しい遊びであるネットワークRPGの普及と認知が進むことで、それを題材としたフォロワー作品が生まれ、これがさらに未来の一大人気ジャンルへと発展していく。


◆ハイファンタジーは熱心なファン層による防衛本能?◆


 ハイファンタジーという言葉は、ファンタジー論に興味がある人なら一度は聞いたことがあると思う。特に本格ファンタジーとか本格的なファンタジーとかをやる時には、一緒に語られることが多い言葉だ。

 この言葉および概念は1971年にアメリカの作家が提唱したものが最初とされ、現実ではない架空の世界があり、その世界内では一貫した法則(魔法など)が存在する……そういったものを指す用語として定義された。これは非常にわかりやすい考え方のため、様々な場所で採用されるようになり日本へも自然と浸透していく。その過程で現実世界の中にファンタジー要素が入り込んでくるローファンタジーという概念も生まれ、ファンタジー作品はハイとローに分けられるといった雰囲気が醸成されていく(※14)。


※14 この過程・変遷は非常に複雑でややこしく、また一貫性もないためファンタジー研究において最高難易度かもしれない。ローファンタジーも最初はまったく違う意味で使われた言葉だという話もあり、今の意味でのローファンタジーという造語がいつ生まれたのかはよくわかっていない


 やっかいなのは普及と定着が進むにつれ、解釈や定義の追加・修正・変更が好き勝手に行われた言葉でもあることだ。それは麻雀やトランプの大富豪のローカルルールみたいにといえば多少は想像が出来るだろうか。ハイ=純粋な異世界の物語、ロー=現実世界が絡む作品という概念が基礎的なものとして定着こそはしたが絶対的ではなく、「ハリー・ポッター」などはハイ/ロー戦争の代表作化もしており『ハリー・ポッター ハイファンタジー』『ハリー・ポッター ローファンタジー』は、それぞれで興味深い主張を発信している。

 本記事的に重要視したいのはここまで解説してきた、「指輪物語」あるいは「ホビットの冒険」とエピック・ファンタジーや、「英雄コナン」とヒロイック・ファンタジーのような系譜の下に生まれた海外ファンタジー作品やその色合いを継承した国内小説、あるいは古き良き伝統的で本格的なファンタジーを一言で紹介する魔法の言葉としてハイファンタジーを採用するというムーブメントの発生と定着だ。ハイは完全異世界でローは現実が絡むなどの切り分けの厳密化はその時の都合で採用したりしなかったりして、その古き良き名作の中に若干ローっぽい要素が入っていてもこれはハイファンタジーの名作! というように扱うケースが増えていく。

 もともと数学の公式や化学式などのように法則が絶対視されるものでもないので、ある意味で言った者勝ち、あるいは反論した者勝ちの極めて都合が良いものとして愛好家層がファンタジーを語る時の装飾品となっていく。

 そうなると紹介した90年代末期から00年代初頭のライトノベルの動きをこう表現することも可能になっていく。古き良きハイファンタジーが減り、現代ものローファンタジーが増えだした時代だ、と。

 この展開をする論においては必ずしも純粋な異世界もののみを是としているわけではないことがあるのでまあ面倒くさい。この場合はさらっと現代編が存在してしまっている「バスタード」などもその部分は見なかったことにしてハイファンタジー作品となる。

 また、この考え方はハイファンタジー=西洋風世界と定義化しやすい相性の良さがあることも注目だ。本格ファンタジー論でアジア系ファンタジーなどは除外されるのに、ドラクエ世界における日本モデルの国・人・怪物・武器などはOKとされる流れを見て、ん? となったことはないだろうか。これは単純に世界史の授業が西洋視点ありきで日本が極東として描かれることに違和感がない現象と同じだろう。海外ファンタジーを中核にしてしまえば、どうしてもそうなる。

 だが、シンプルに架空の世界内で一貫した法則が存在している物語をハイファンタジーとするならば、それが西洋的でなければいけないルールなんてなくね? という考え方も当然出てくる。そうなると「桃太郎」も立派なハイファンタジーとなるわけだ。さらに歴史上の過去ではあるが史実ではない、現実世界に幻想要素が入り込んだものという解釈を発動させれば「桃太郎」=ローファンタジーも成り立つ。まあそういう話だ。


 ファンタジー論を複数見た時にそれぞれにハイファンタジーという単語があった場合、それは同じ定義の言葉ではない可能性がある上に、使っている者自身が明確な定義化をせずにふわっと使っているケースも多々ある。これはけっこうなトラップなので頭の片隅に入れておきたい。


◆新文芸は生まれるべくして生まれたジャンル?◆


 新文芸(ライト文芸)は2010年代に各出版社が新しいレーベル概念を作ろうと積極的に打ち出し始めた単語・概念で、ライトノベルと一般文芸の間にあるものとされることが多い。そして23年時点でもライトノベルほど強力な一つの言葉としては集約されておらず、キャラクター文芸、キャラノベル、ライト文芸など色々な呼び方で揺れ動いている。ライト文芸がおそらく一番人気なのだが、本記事では新文芸をその代表として採用する。

 と書くと、令和の小説エンタメに詳しい方は首を傾げるかもしれない。一般文芸とライトノベルの中間に位置する文芸作品をライト文芸と呼び、なろう系黄金期などに確立された新書や単行本スタイルのライトノベルのようでライトノベルではないWEB出身作品を新文芸と呼ぶという風潮があり、おそらくそれが一般的だからだ。だが本記事では我侭を承知で個人的こだわりからこれを採用しない。まあちょっとぐらいの我侭をねじ込むのも執筆者の特権ということで。

 本記事で新文芸と呼称する際は単独の出版社やレーベルを指したり、一部のWEB出身作品のみを指したりはしない。そうご注意願えれば幸いだ。


 さておき、本記事ではまだ世紀末の解説途中だ。この時代にはその概念はまだない。だが、私は新文芸(ライト文芸)につながるルーツの1つは富士見ミステリー文庫だと考えており、それが生まれるための土台も90年代後半には出来上がりつつあったと考えている。

 その中でも特に重要な先駆けと考えている作品が「タイムリープ あしたはきのう」だ。「クリス・クロス」と同作者の作品である。

 

 「タイムリープ あしたはきのう/高畑京一郎:著」(以下:タイムリープ)は95年に刊行されたライトノベルだ。「クリス・クロス」と同じく単行本で出された後、97年に電撃文庫版が刊行されている。現代を舞台にした物語で、一日前の記憶を失っている事に気付いた主人公がその原因を探るうちに時間移動現象-タイム・リープ-が発生している事が判明し……という内容だ。97年には映画化もされている。


 時間ものはこの時代の時点で既に一大カテゴリを築いているメジャージャンルではある。SF界の大御所であるロバート・A・ハインラインの「夏への扉(56年)」や筒井康隆の「時をかける少女(65年)」を筆頭に、世界幻想文学大賞を受賞したケン・グリムウッドの「リプレイ(87年)」も名高い。有名作やヒット作が多くて枚挙に暇がないうえに挙げれば挙げただけ致命的ネタバレ拡散罪が積みあがるという難儀なジャンルでもあるので、かなり慎重にどのタイトルを挙げるか配慮しなければいけないわけだが、もう少しだけ挙げるなら「アーサー王宮廷のコネチカット・ヤンキー(89年)」や「スキップ」「ターン」「リセット」三部作(95~01年)あたりだろうか。あるいは実写ドラマの「世にも奇妙な物語(90年)」や少年ジャンプ漫画の「アウターゾーン(91年)」などでも時間テーマの物語は人気を博した(※15)。


※15 この時代にはPCゲームで時間もの傑作が複数生まれたりもしているが、そのタイトルは隠す。あれらはプレイして知ってほしい


 高畑京一郎は一般文芸界で既に確立されているもの、新たに注目されつつあったものをライトノベル界に持ち込み、見事な調理をしてみせた天才と表現することも出来るかもしれない。その後のライトノベル作家たちが彼を指標としたかどうかはまた別の話となるが、古き良き海外ファンタジーから続くライトノベル・ファンタジーとは少し違う、登場人物の造形や作風はライトノベル的でありながら設定や世界観は一般文芸寄りとでもいうような作品の増加という流れの先鞭をつけたのは間違いないだろう。

 そしてそれでもまだまだライトノベル・ファンタジーが強い中で、ライトノベルにどっぷりはまった層が受け入れやすい一般文芸よりのライトノベルに特化したレーベルがあってもよいのではないか、そういう動きが出てくる。


 富士見ミステリー文庫は00年に創設されたレーベルだ。文字通りミステリーを武器として立ち上げられたが、それ一本では思ったほどにはライトノベル読者層には響かなかった模様で、03年にはミステリーに囚われないという方針転換を行っている。その意味では一般文芸よりのライトノベルに特化したレーベル化したのは03年以降ではある。今は02年までの流れを見る区切りなので、この転換がもたらしたものはそっちで追うとしよう。

 赤川次郎と少女小説界におけるミステリー系、スニーカー・ミステリ倶楽部、綾辻行人などによる新本格ミステリーの隆盛などとの関係性も興味深いわけだが、「金田一少年の事件簿(92年)」や「名探偵コナン(94年)」の大ヒットによる影響も強そうだ。他にも「姑獲鳥の夏(94年)」の刊行以来、和風妖怪伝奇×本格推理小説という独自世界を構築し続けて注目を浴びていた京極夏彦の影響もあったかもしれない(※16)。

 ここでは、王道的ライトノベル・ファンタジーで天下を争ったレーベルたちが、同時に後に新文芸と呼ばれるものの種を撒き始めてもいたこと、その動きは日本のファンタジーブームがピークを過ぎたあたりから既にはじまっていたことを覚えておきたい。


※16 本格や新本格ってミステリー畑での非常に有名なムーブメントの言葉なんですよね。本格ファンタジーの本格は間違いなくここがルーツと考えられるんですが、ミステリー史まではまあやれないっすね。島田荘司の名前はどこかに刻んでおきたいのでここに書いてしまおう。ミステリー出身で本格的なSFやファンタジーを書く作家は多く、京極夏彦も01年にルー=ガルー 忌避すべき狼というSF作品を出してたりします


 さて、最後にセカイ系と行きたいのだがこれは次章でやる。その前にまだ追えていない90年代後半から00年代頭のコンピュータRPGと、小説&ゲーム外の流れを見てしまおう。


◆ローカル通信の想定外爆発時代と、オンラインゲーム開闢期◆


・1996~99年のコンピュータRPG戦線

「スーパーマリオRPG/任天堂」「スターオーシャン/エニックス」

「ヴァンダルハーツ~失われた古代文明~/コナミ」「トレジャーハンターG/スクウェア」

「バハムートラグーン/スクウェア」「ルドラの秘宝/スクウェア」

「ポケットモンスター赤・緑/任天堂」「ポポロクロイス物語/SCE」

「ワイルドアームズ/SCE」「カオスシード~風水回廊記~/タイトー」

「女神異聞録ペルソナ/アトラス」「サクラ大戦/セガ」

「ガーディアンヒーローズ/セガ」「テラ ファンタスティカ/セガ」

「ドラゴンフォース/セガ」「竜機伝承/ケイエスエス」

「ディアブロ/ブリザード・エンターテイメント」「ハーレムブレイド/TGL」

「サガ フロンティア/スクウェア」「ファイナルファンタジーVII/スクウェア」

「ファイナルファンタジータクティクス/スクウェア」「アランドラ/SCE」

「ベルデセルバ戦記/SCE」「スペクトラルフォース/アイディアファクトリー」

「moon/アスキー」「デビルサマナー ソウルハッカーズ/アトラス」

「グランディア/ゲームアーツ・ESP」「マリーのアトリエ/ガスト」

「ウルティマオンライン/エレクトロニック・アーツ」「ゼノギアス/スクウェア」

「ブレイヴフェンサー 武蔵伝/スクウェア」「火星物語/アスキー」

「精霊召喚 ~プリンセス オブ ダークネス~/翔泳社」「玉繭物語/元気」

「だんじょん商店会 ~伝説の剣はじめました~/講談社」「レガイア伝説/SCE」

「東京魔人學園剣風帖/アスミック・エース エンタテインメント」

「マール王国の人形姫/日本一ソフトウェア」「ブラックマトリクス/NECインターチャネル」

「ドラゴンクエストモンスターズ テリーのワンダーランド/エニックス」

「リネージュ/エヌ・シー・ジャパン」「プリンセスクエスト/インクリメントP株式会社」

「ヴァルキリープロファイル/エニックス」「聖剣伝説 LEGEND OF MANA/スクウェア」

「デュープリズム/スクウェア」「クロノ・クロス/スクウェア」

「俺の屍を越えてゆけ/SCE」「ジルオール/コーエー」

「レジェンド オブ ドラグーン/SCE」「戦国TURB/NECホームエレクトロニクス」

「黒い瞳のノア/ガスト」「グローランサー/アトラス」

「ゲートキーパーズ/角川書店」「倫敦精霊探偵団/バンダイ」

「オウガバトル64/任天堂」「エバークエスト/SOE」

「戦女神/エウシュリー」


・2000~02年のコンピュータRPG戦線

「高機動幻想ガンパレード・マーチ/SCE」「ベイグラントストーリー/スクウェア」

「エヴァーグレイス/フロム・ソフトウェア」「聖霊機ライブレード/ウィンキーソフト」

「エルドラドゲート/カプコン」「サモンナイト/バンプレスト」

「7~モールモースの騎兵隊~/ナムコ」「ファンタシースターオンライン/セガ」

「ダンジョンセイバー/J・ウイング」「シャドウハーツ/アルゼ」

「ティアリングサーガ/エンターブレイン」「黄金の太陽/任天堂」

「マジカルバケーション/任天堂」「クロスゲート/エニックス」

「アンリミテッド:サガ/スクウェア」「キングダム ハーツ/スクウェア」

「ファイナルファンタジーXI/スクウェア」「ゼノサーガ/ナムコ」

「.hack//感染拡大 Vol.1 /バンダイ」「ラ・ピュセル 光の聖女伝説/日本一ソフトウェア」

「機動新撰組 萌えよ剣/エンターブレイン」「ラグナロクオンライン/GRAVITY」

「夜が来る!/アリスソフト」「らいむいろ戦奇譚/エルフ」

「うたわれるもの/Leaf」「超昂天使エスカレイヤー/アリスソフト」


 スクウェア作品が目立つ。RPGのスクウェアという名声を揺るがぬものとした黄金期でもあった。

 それでもこの時代の主役を1つだけ選ぶならそれは「ポケットモンスター」(以下:ポケモン)だろう。RPGといえば「ドラゴンクエスト」「ファイナルファンタジー」という概念は令和の時代までも続きはするが、この年代以降にゲームやRPGと邂逅した世代にとってはRPGといえば「ポケモン」となっていく、ゲーム史全体を通しても最上級の怪物ヒット作だ。通信交換や対戦という世界も切り開き、RPGの可能性を大きく拡張した。

 「ドラゴンクエスト」誕生の章でいつでもどこにでもあるドラクエというムーブメントを紹介したが、「ポケモン」こそが国内・世界最大規模でそれを体現する存在となっていく。参考・模倣・リスペクトを行う後発作が乱れ飛ぶようになり、「ドラゴンクエストモンスターズ」もフォロワー作品とされる。

 「ポケモン」は多くの部分で現実世界をモチーフにしているが、一貫した法則を持つ架空世界での冒険ものだ。これはハイファンタジーの定義に当てはまる。ポケモンはドラクエやエフエフ(ファイファン)と同じハイファンタジー作品である。……と言われると、間違ってもいないけど合ってもいないような、なんかこう違和感が、となる人も多いのではないだろうか。そこに畳み掛けるようにではハイファンタジーではないが、本格的なファンタジーであるでよろしいか? と問われれば、それもそれでそういう決め付け方はちょっと……ともなる。

 己の中で明確な区分や定義化が完了している人もいるだろう。令和に古き良きファンタジーというテーマで振り返る時に、「ポケモン」と「ドラゴンクエスト」を同じ枠にする者もいれば違う枠にする者もいる。この感覚差は、私は本格ファンタジー論の重要なピースと考えている。そしてそれは「ポケモン」からはじまったわけでもない流れであり、そこを掘り下げるのに一番やりやすい題材はジブリ作品だとも考えているので、ジブリを主役とする後の章で見ていきたい。


 あのマリオがスクウェアと組んでRPG化と驚かれた「スーパーマリオRPG」、コンピュータRPG界の現代学園ファンタジーもの代表というような地位を獲得する「女神異聞録ペルソナ」、和風×SF×ファンタジー浪漫の傑作としてゲーム外にも広がっていく「サクラ大戦」、冒険ファンタジーの金字塔として今でも名作RPGランキング上位争いをする「グランディア」、ハードなSF系世界観と練りこまれたシナリオで熱狂的ファンを生み出した「ゼノギアス」、北欧神話モチーフの美しさと驚きのマルチエンディングシステムが話題をさらった「ヴァルキリープロファイル」、恐ろしいほどの自由度と難解だが癖になる世界設定でゲーマーだけでなくゲーム開発者側に与えた衝撃も大きかったと言われる「高機動幻想ガンパレード・マーチ」、ディズニーコラボをよくあるキャラものゲーム化で終わらせず1つの作品として磨き上げた「キングダム ハーツ」など、名作に事欠かない。


 「ウルティマオンライン」は、世界ではじめて商業的成功を達成したMMO-RPGとも言われる作品だ(※17)。かつてコンピュータRPGにおける先駆けとしての地位を築いた「ウルティマ」が、00年代以降に巻き起こるMMO黄金期から見た始祖的代表作となる、これだけで恐ろしくドラマティックだ。

 MMO、あるいはたまにMOってのも聞くけど何ぞやというのは、大人数がオンライン上で同時に遊べるRPGという解釈で特に問題ないのだがもっとざっくりと「みんなで遊ぶ原神」とか「マインクラフトのマルチサーバの方」のスーパーご先祖様という認識でも大丈夫だろう。いや、「ファイナルファンタジーXI」だよでいいか。ナンバリングだがリスト入りした「ファイナルファンタジーXI」はシリーズ初のMMOということでも話題となった。

 日本でもコアファンを中心に長い人気を誇った「ウルティマオンライン」だが、より大きなブームとなったのは「リネージュ」「ラグナロクオンライン」の方かもしれない。エニックスも「クロスゲート」の運営という形で参戦してきている。また、ファミコン以来家庭用TVゲーム機が強かった日本において、オンラインRPGブームを生み出したのは「ファンタシースターオンライン」だという見方もある。

 

※17 MMOの概念自体は70年代にはあったとされ、ウルティマオンラインより古い商業作品も存在し、ネヴァーウィンター・ナイツというファンタジー作品が始祖論最有力候補になる。非常に興味深いことにこの作品は「D&D」のフォロワー作品として、TRPGそのままをコンピュータで遊ぶことを目指した作品だったりする


 RPG外からは、「メルティランサー ~銀河少女警察2086~」「トワイライトシンドローム」「ナイツ」「クラッシュ・バンディクー」「時空探偵DD 幻のローレライ」「ティンクルスタースプライツ」「ザ・ハウス・オブ・ザ・デッド」「メタルスラッグ」「牧場物語」「パラッパラッパー」「鬼畜王ランス」「この世の果てで恋を唄う少女YU-NO」「EVE burst error」「風のクロノア door to phantomile」「ネクストキング 恋の千年王国」「ブシドーブレード」「悠久幻想曲」「ワールド・ネバーランド ~オルルド王国物語~」「怒首領蜂」「ダブルキャスト」「もんすたあ★レース」「遊☆戯☆王デュエルモンスターズ」「電脳戦機バーチャロン」「ソウルキャリバー」「メタルギアソリッド」「機動戦士ガンダム ギレンの野望」「シーマン」「どこでもいっしょ」「真・三國無双」「ジェットセットラジオ」「遙かなる時空の中で」「逆転裁判」「デビルメイクライ」「鬼武者」「どうぶつの森」「ピクミン」「ICO」「シャンティ」「鬼哭街 -The Cyber Slayer-」「ガラクタ名作劇場 ラクガキ王国」「蒼い海のトリスティア」を挙げておきたい。そしてさらに、


・3D時代のホラーアクションゲームという切り口から新しいゲームの形を生み出した「バイオハザード」

・罠を仕掛けて侵入者を撃退するトラップアクションもの、一般的に悪側とされる方をプレイするゲームとしてジャンルを確立した「刻命館」「影牢 ~刻命館 真章~」

・今までにないゲーム性と謎めいた世界観にハードな難易度などから信仰的なファンも生まれることになるロボットものの「アーマード・コア」

・文明を育てるリアルタイムストラテジーゲームとして時間が溶ける、永遠に終われないなど中毒者を量産した「エイジ オブ エンパイア」

・女性トレジャーハンターを主人公に世界で最も有名なゲームシリーズの1つとなる「トゥームレイダー」

・(まだ解説できていない)TCGとボードゲームをデジタル世界で融合してみせた傑作である「カルドセプト」

・ファンタジー世界での育成&バトルというジャンルを打ち立てた「モンスターファーム」

・ビジュアルノベルというアドベンチャーの新世界を切り開いていく「To Heart」「Kanon」

・シリーズ発展に伴いオープンワールドの始祖的名声を獲得する「グランド・セフト・オート」

・オープンワールドのプロトタイプ、早すぎたセガの破滅的真骨頂とも言われた「シェンムー」

・ネットで定着していた掲示板文化を上手く取り入れて、国取り戦略×異世界の住人として生活する×ネットコミュニケーションという要素を昇華させた「キングダムオブカオス」


 など、未来につながる作品も多く見られる。

 この時代に大きく花開いたものとして、同人ゲームを紹介したい。「東方靈異伝」からはじまった「東方project」に「月姫」「ひぐらしのなく頃に」などは大きな人気を得て、商業作品としても広まっていくことになる。クローズドな空間であった特殊世界が市民権を得たというのはまだまだ早すぎるが、表へと拡散していく時代でもあった(※18)。


 ネットで気軽にダウンロードできる個人製作フリーゲームの流れもはじまっており、「コープスパーティ」は最初期の作品として名高い。「シルフェイド見聞録」はツクール系フリーゲーム黄金期の代表的作品と呼ばれることもあり、個人がダイレクトに作品を発表する動きも盛り上がっていく(※19)。

 今回は深追いできないが、フラッシュゲームやCGIゲームの流行もゲーム史では重要なファクターであり、そちらも大きく盛り上がった。

 

※18 個人あるいは少人数によるクリエイター活動の一部がこう呼ばれるケースがあり、サークルを名乗るケースが多い。同人という言葉自体に一次創作・二次創作の区分はない。明治の文豪活動や戦後昭和の漫画家活動が言葉のルーツだが、現代エンタメの同人はまた違うものとして扱われている


※19 Danteを源流に、RPGツクールとして定着したゲーム制作ツールで作られたゲームをツクール系と呼んだ。SRPGツクールなど派生も。他のゲーム制作ツールとしてはデザエモンや吉里吉里など。シルフェイド見聞録の作者は後にWOLF RPGエディターというツールを生み出している


◆オタクとエンタメの大転換点?◆


 小説とゲーム外ではどんな動きがあっただろうか。漫画から見ていこう。


・96~99年

「遊☆戯☆王」「封神演義」「サイコメトラーEIJI」「犬夜叉」「まもって守護月天!」「カードキャプターさくら」「天からトルテ!」「エクセル・サーガ」「サムライガン」「犬神」「エアマスター」「多重人格探偵サイコ」「ONE PIECE」「花さか天使テンテンくん」「ARMS」「デビデビ」「からくりサーカス」「フルアヘッド!ココ」「悟空道」「刻の大地」「鋼鉄天使くるみ」「D・N・ANGEL」「サイボーグクロちゃん」「天上天下」「狂四郎2030」「最遊記」「拳闘暗黒伝セスタス」「BLAME!」「EDEN ~It's an Endless World!~」「HUNTER×HUNTER」「シャーマンキング」「スピンナウト」「RED」「海皇紀」「東京アンダーグラウンド」「クロノクルセイド」「HELLSING」「なるたる」「フルーツバスケット」「神風怪盗ジャンヌ」「ヒカルの碁」「NARUTO -ナルト-」「RAVE」「SAMURAI DEEPER KYO」「魔探偵ロキ」「破壊魔定光」「ケロロ軍曹」「最終兵器彼女」「プラネテス」「蟲師」「まほろまてぃっく」


・00~02年

「BLACK CAT」「BM ネクタール」「ちょびっツ」「GANTZ」「ドロヘドロ」「ジパング」「一騎当千」「朝霧の巫女」「東京ミュウミュウ」「BLEACH」「ボボボーボ・ボーボボ」「CLAYMORE」「鋼の錬金術師」「うえきの法則」「金色のガッシュ!!」「ARIA」「BLACK LAGOON」「新暗行御史」「スカイハイ」「ふたつのスピカ」「冒険王ビィト」「アクメツ」「エア・ギア」「円盤皇女ワるきゅーレ」「彼岸島」「ZETMAN」「エルフェンリート」「GUNSLINGER GIRL」「パンプキン・シザーズ」「魔法遣いに大切なこと」「魔法使いの娘」「ローゼンメイデン」「エレメンタル ジェレイド」


 あたりは挙げておきたいか。大ヒット作が定期的に現れる少年漫画界でも他に類を見ないメガヒットとなった「ONE PIECE」の時代だ。「BLEACH」「NARUTO -ナルト-」とあわせて、少年ジャンプを大きく盛り上げた。他に「HUNTER×HUNTER」「シャーマンキング」「鋼の錬金術師」「金色のガッシュ!!」など、少年漫画ファンタジーの大豊作時代だ。

 「CLAYMORE(以下:クレイモア)」は「バスタード」「ベルセルク」と並んで国産ダークファンタジー漫画の代表作とされることが多い。

 異世界住人として日常を過ごし交流するジャンルの台頭も軽く紹介したが、 「ARIA」などは正確には未来系SFものにはなるが近いジャンルといえるだろう。未来系SFものという意味では「狂四郎2030」はヴァーチャル・リアリティを非常に個性的かつ生々しいキーアイテムとして活用した作品だ。「パンプキン・シザーズ」の近代的戦争にファンタジー要素が混ざりこむ作風は小説なら「皇国の守護者」などがあるが、こういった作品もこの時代に急増した印象がある。吸血鬼ものの代表作と表現したらファン層が否定しそうな「彼岸島」など、長く愛される作品も多い。


 いわゆるハイファンタジー作品だけでなく、現代×ファンタジー要素の作品も増えている。様々なゲームを題材にする「遊☆戯☆王」も大ヒット作だが、こちらはエンタメ全体に大きな影響を与える作品ともなっていく。

 少女漫画からは「カードキャプターさくら」が、女児向け雑誌掲載でありながら老若男女から熱狂的ファンが産まれる話題作となった。

歴史大河枠からは「バガボンド」「新撰組異聞PEACE MAKER」を挙げておきたい。「エマ」もこの枠になるだろうか。

 大いに悩んで見送ったのが「テニスの王子様」だ。実質ファンタジー漫画なのだが、でもまあ「アストロ球団」とか拾ってないしなあ。みたいな。超スポーツ系は今回はあまり拾えないかもしれない。

 とはいえ、ライトノベル戦線の今後としては現代ものや学園ものを取り扱うことが増え、ファンタジー要素がないものもライトノベル情勢を見るのに外せないとして拾っていくことになる。同じ意味で漫画やアニメもそうなっていくだろう。あまり広げすぎないようにはしたいところだが、この時代からは「彼氏彼女の事情(96年)」「ラブひな(98年)」「あずまんが大王(98年)」「花右京メイド隊(99年)」「ハチミツとクローバー(00年)」を挙げておく。


 「あずまんが大王(98年)」は女子メインの日常系漫画の先駆けとも言われる作品であり、萌え系漫画始祖論で名前を出されることもあるが、萌え系にカテゴライズすると荒れたりもする。萌え系とは何ぞやは今回は省略する。ぱっとイメージするそれをそのままにしておいてもらって、まあ問題ないだろう。

 本当は「極東学園天国(99年)」のような作品も取り上げていきたいのだが、さすがにさすがに。


 アニメでは「天空のエスカフローネ(96年)」「エルフを狩るモノたち(96年)」「魔法使いTai!(96年)」「少女革命ウテナ(97年)」といった作品が登場したが、深夜アニメ枠と呼ばれるようになる23~26時といった遅い時間帯にアニメ放送を行うTV局が出始めた時代でもある(※20)。家族向け定番アニメや人気少年漫画のアニメ化といった安定して枠が確保されていたもの以外の、多種多様なアニメ作品がこれにより急増していくことになる。「DTエイトロン(98年)」「カウボーイビバップ(98年)」「ブレンパワード(98年)」「無限のリヴァイアス(99年)」「スクライド(01年)」「学園戦記ムリョウ(01年)」「ちっちゃな雪使いシュガー(01年)」「.hack//SIGN(02年)」「灰羽連盟(02年)」「ラーゼフォン(02年)」「ナースウィッチ小麦ちゃんマジカルて(02年)」「キディ・グレイド(02年)」「アベノ橋魔法☆商店街(02年)」などが話題となるが、本記事のテーマとして重要作品になるのは前述した通りに「.hack//SIGN」だろう。


※20 エルフを狩るモノたちは漫画原作のアニメ化作品なので漫画枠で紹介するべきなんですが、今につながる深夜アニメ枠の始祖候補にされることが多いのでアニメの方をピックアップしました。深夜アニメ枠を作ったのはエヴァ再放送の反響だよ説などもあり、ここもまあまあややこしい


 これはもっと前の時代からある動きではあるが、マルチメディア企画としてアニメが中核となるケースも多い。「バトルアスリーテス大運動会(97年)」「星方武侠アウトロースター(98年)」「ギャラクシーエンジェル(01年)」などはその枠になるだろう。「星方天使エンジェルリンクス(99年)」は小説版が原案というクレジットになっている。

 「機動戦士ガンダムSEED(02年)」も挙げておこう。79年に誕生したシリーズの、新世紀における新たなスタンダードを目指した作品として大きく注目された。


 アニメでも重要度が増して行くSFやファンタジーではないオタクエンタメ系作品をどこまで拾うかというところだが、「おねがい☆ティーチャー(01年)」は挙げておきたいか。


 映画からは「新世紀エヴァンゲリオン劇場版(97年)」「パーフェクトブルー(97年)」「ガンドレス(99年)」などが公開されるが、この時代はやはり「ハリー・ポッターと賢者の石(01年)」と「ロード・オブ・ザ・リング(01年/日本公開02年)」だろう。後者は「指輪物語」のことであり、ライトノベルやコンピュータRPGからは潮が引きつつあった本格的なファンタジーブームが、海外実写映画を通して非オタクな一般層に波及した印象がある。「D&D」を原作とする「ダンジョン&ドラゴン(00年/日本公開01年)」も公開されたが、こちらはクオリティ面なども含めて大ヒットとはいかなかったようだ。


 「マトリックス(99年)」は大きな話題となったSF作品だが、DVD販売のタイミングが家庭用ゲーム機として初のDVD搭載機であるPS2の発売と重なったため、PS2最初期の最大ヒット作は映画というような現象も発生した。

 また、歴史的失敗と揶揄されてしまい、実際に会社経営悪化の原因になったとされる3DCG映画「ファイナルファンタジー(01年)」が公開された時代でもあった。

歴史大河枠からはローマ帝国の剣闘士をテーマにした「グラディエーター(00年)」がヒットした。

 「少林サッカー(01年)」も挙げておこうか。カンフー映画は昔からエンタメの人気ジャンルではあったが、「くにおくんシリーズ」をそのまま実写化しましたとでもいうような、究極カンフーサッカー映画としてヒット作となった。


 最後に、企業マスコットキャラクターが人気を獲得し、独立した存在としてエンタメ化されるといったムーブメントを紹介しよう。「デ・ジ・キャラット(98年)」はその先駆けと言える存在であり、00年代はそういった企業や個人店舗発のキャラクターが多く生み出されるようになっていく。


◆貴方にとってのFFを考える◆


 コンピュータゲームの話に戻るが、麻雀ゲームやパチンコゲーム、あるいはレースゲームがRPG要素を採用するなどの過剰RPGブームがかなりの期間発生しており、その際にファンタジー世界はセットで採用されるケースが多かった。「ドラゴンクエスト」と「ファイナルファンタジー」の有無でハードの売り上げが変わる、エニックスとスクウェアがついた方が勝つといわれた時代でもあり、特に「ファイナルファンタジーVII」はハードメーカーの生殺与奪の権利を持っているという認識で企業もユーザーも一致していた時代だった。

 その一方で、ゲーム業界では新しい概念・技術・カテゴリが続々と登場し、ポリゴンだモーションキャプチャーだ完全3DだTPSだFPSだと目覚しい中で、RPGもまた「ウルティマ」「ウィザードリィ」「ドラゴンクエスト」型だけがメインストリームでもなくなっていく。世界観もファンタジーはあくまで人気ジャンルの1つという落ち着きを見せ始めていた。

 ゲームからファンタジー観を読み解くというアプローチならば、この時代に限っては「ドラゴンクエスト」より「ファイナルファンタジー」の方が、影響度が高かったといえるかもしれない。そしてファイナルファンタジーの変化あるいはスクウェアの変化が日本におけるファンタジー観に与えた影響もまた極めて高いと私は考えている。

 ファンタジーとSFは誕生時から切り離せない兄弟のような関係性であることはさんざん語ってきた。意図的にSF要素が強い作品も扱っている。だが、例えば「ファンタシースター」はそれでもやはりファンタジー要素のあるSF作品であり、「ドラゴンクエスト」や「ファイナルファンタジーI~V」はSFと言われることはまずないファンタジー作品だ。それがVI以降の「ファイナルファンタジー」ではファンタジーはもっと自由に何でもありでいいのではないか? とでも問いかけてくるような、古典的西洋幻想、アジア的怪奇、スチームパンク、サイバーパンク、ありとあらゆるSF・ホラーに、近現代的世界観まで自由に融合させた、ここにしかないこれもまたファンタジー世界の表現が強まり出す。

 未プレイの方はちょっと答えようがないかもしれないが、それでもあえて問いかけてみたい。


貴方はファイナルファンタジーシリーズを全て本格的なファンタジー作品であると思いますか? 思わない方は、どれは本格的なファンタジーで、どれはそうでないと答えますか?


 この時代を探る旅はまだ終わらない、残しておいた最後のピース、セカイ系とは何ぞやを読み解いてみるとしようか。

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