第2話 キノコとハーブのスープ

SE:扉を叩く音


(声・遠・中央・ココから)

失礼します

(声・遠・中央・ココまで)


SE:扉を開ける音

お加減はいかがですか、旅人様?


お食事をお持ちしました


茸と野草のスープ


それに町の方から頂いた麦で焼いたパン


お茶もご用意しました


熱いのでどうかお気をつけて

(声・近・中央・ココまで)


(声・極近・左・ココから)

ああ、どうか無理に起き上がらないで


そのままベッドに……


せんえつながらわたくしがお口までお運びします


熱いので冷まさせてもらいますね


ふ~ふ~

(声・極近・左・ココまで)


(声・近・中央・ココから)

ふふっ、ご安心ください


毒など入っておりませんよ


ええ、旅人様の習慣で警戒してしまうのは


よく分かっております


でしたら失礼して、わたくしが先に食べてみせますね

(声・近・中央・ココまで)


(無声音・近・中央・ココから)

ぱくっ……もぐ……ごく……

(無声音・近・中央・ココまで)


(声・近・中央・ココから)

ええ、我ながら悪くない出来です


さあ、これでご安心いただけたでしょうか


今度こそお召し上がりくださいませ

(声・近・中央・ココまで)


(声・極近・左・ココから)

ふ~ふ~


お口を開けてください


あ~ん


おいしい、ですか?


それは何よりです


ふふっ、わたくしからしておきながら


少々気恥ずかしいものがございますね


では、もう一口……


あ~ん

(声・極近・左・ココまで)


(声・近・中央・ココから)

良い食べっぷりでわたくしも嬉しくなります


ええ、わたくしの分は済ませていますので


どうぞご遠慮なくお召し上がりください


こちらのパンはいかがですか?


種なしの平たいパンで


旅人様のお口に合うか分かりませんが……


軽くちぎってお口にお運びしますね

(声・近・中央・ココまで)


(声・極近・左・ココから)

どうぞこちらも……


あ~ん


ふふふっ、いかがですか、お味は?

(声・極近・左・ココまで)


(声・近・中央・ココから)

「ほんのり甘味といい香りがする」と?


よくお気づきになられましたね


はい、香草を少々混ぜております


気づいて頂けると嬉しい反面


少々面映ゆい気もいたしますね


ふふふっ


さすが、旅人様


色々な文化の食事を口にされてきたのでしょうね


さて、食後のお茶もいかがですか


こちらも身体に良い薬草で淹れました


少し独特な匂いがありますが


傷の治りにも効きますので、どうぞ

(声・極近・左・ココから)

どうですか?


身体の芯がじんと温かくなって


落ち着くような気がいたしませんか?


ふふっ、身体だけでなく


気分も良くなる効能があるんです


リラックスできますか?


それは何よりです

(声・極近・左・ココまで)


(声・近・中央・ココから)

ええ、薬草学には幼い頃より少々覚えがありまして……


ふふふふっ、キレイに食べて頂いて


嬉しいです


いえ、お礼を言って頂くほどのことではありません


わたくしも作り甲斐がありました


なにぶんズボラな性格なもので


一人で飲み食う分には味付けもいい加減なものですが


久方ぶりに張り切って料理致しました


やはり誰かに料理を食べて頂けるというのは


張り合いがあるものですね

(声・近・中央・ココまで)


(声・極近・左・ココから)

「おいしかった」と言っていただけて……


むしろ、こちらこそお礼を言いたいくらいです


お褒めいただき光栄です


ありがとうございます、旅人様


ふふふふっ

(声・極近・左・ココまで)


(声・近・中央・ココから)

はい、お粗末様でした


食欲があってなによりです


「温かな食事は久しぶりだ」と


まあ……


きっと旅人様もご苦労されてきたのでしょうね


おいしい、とおっしゃって頂いたのも嬉しい限りです


わたくしも誰かと食事を共にすることなど久方ぶりで


ずいぶん気持ちが若やいだ気がいたします


いえ、隠者のようにまったく誰とも交わらないわけではありません


少し離れたところにある町の方とは


いまでも時おり交流があります


病気の方を診たり、採れた野菜や作った薬を身の回りのものと交換したり


といったところでしょうか


ええ、先ほどのパンもこの食器も町の方に頂いたものです


顔見知りの方もそれなりにいらっしゃいます


でも、この森に住んでいることは


誰にも告げていませんので


もし何かあったときは……


人知れずひっそりと


神の御許へと旅立つこととなるでしょうね


……いけません、わたくしったら


つい暗い話をしてしまいました


せっかくのお食事なのに……


こうしてゆっくりと誰かとお話するのが久しぶりなものですから


どんな話をしていいかも、すぐに思い浮かびません


……旅人様も同じ、ですか?


そうですね、旅の身空にあるとはそういうことなのでしょうね


出会いと別れの繰り返し……


誰かとのまじわりも


うたかたの夢のように過ぎ行くものなのでしょうね


「話ベタなところも」ですか?


ふふふっ、わたくしたち似た者同士かもしれませんね

(声・近・中央・ココまで)


(声・極近・左・ココから)

世の交わりから外れてしまった者同士が


束の間、こうして同じ時を過ごしている……


なんだか、神のいたずら心を感じてしまいます


ですが、不思議ですね……


あなた様となら、無理に言葉を交わそうとしなくとも


共にいるだけで心が安らぐような気がいたします


旅人様も同じお気持ちですか?


まあ、嬉しいです


ふふふっ、不思議なものですね


あなた様とは出会ったばかりだというのに


もう心が通じ合っているような気がいたします

(声・極近・左・ココまで)


(声・近・中央・ココから)

さて、お食事のあとは少々傷の具合を確かめさせていただきます


薬油を用意いたしますので


そのままベッドで、少々お待ちください

(声・近・中央・ココまで)


SE:扉を開ける音

SE:遠ざかる足音

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