第12話 水着の幽霊

「お待たせ!」


 水着姿に着替えた由美が合流して、全員が揃った。


「うわっ、可愛い彼女だね。なんて名前?」


「えと、由奈と言います。よろしくお願いします」


 由奈が由美と向き合ってぺこりと頭を下げた。


「あれ、由奈ちゃんって……」


「前川由奈です」


「やっぱり……雅人、例の幽霊だよ、この娘」


「えっ!? そんなことあるわけねえだろ。こんなに可愛いのによ」


「もともとあそこの幽霊可愛かったじゃん」


「でもよ、服だって地味だったしよ」


「着替えたら済む話でしょ」


「えと、そのわたしが噂の幽霊でして、今はたっくんのマンションで住まわせてもらってます」


「えっ、あなたたち一緒に住んでんの?」


「昨日からだけどな」


「可愛いのは確かだけど、大丈夫なの?」


「それも含めて昨日、神社に行ってきたんだ。神主さんが言うには凄く変わった幽霊だけども、呪いの類ではないので、暫くは大丈夫だってさ」


「ここら辺で有名な神社って、もしかして山川先輩のところの神社?」


「うん、昨日知らないで行ったんだけどな」


「へえ、確かにあそこは山川先輩で一時期結構有名だったんよね」


「えっ、何かあったの?」


「何にも知らないのね……、確か家族失踪事件の犯人をテレビ取材で山川先輩が見つけ出したのよ」


「えっ、ただのオカルトな人かと思ってたんだけども」


「テレビ見てないの? 霊能力とかそこら辺じゃ、山川先輩、その世界では有名なのよ」


「じゃあ、一度見てもらったほうがいいのかな」


「そうね、お父さんも若い時に警察と協力して難事件を解決したって聞いたし、実は凄い一家なのかもね」


 へえ、知らなかった。ただの酒好きのオカルト女だと思ってた。


「まあ、そんなことだから一度行ってみたらいいと思うよ」


 そう言って由美は由奈をじっと見た。


「それにしてもあなた可愛いわね。幽霊と分かっても、寄っていく男が多そうだわ」


 由奈はキョトンとした表情をしている。由美の話についていけてないようだ。


「まあ、そんなことより折角プールに来たんだから楽しみましょ」


「おぉ、そうしようそうしよう」


 雅人が相槌を打つ。どうやらみんな由奈のことは気にしてないようだった。俺たちは、二人ずつに分かれてビーチバレーをしたり、俺と雅人で泳ぎを競ったりして遊んだ。


「お腹空いてきたら、なんか買おうか」


 プール横のフードコートが水着でも出入りできるようになっていて、プールサイドで食べれるようになっている。


「じゃあ、じゃんけんだ。負けた二人が買いに行くって言うことでな」


「ジャン・ケン・ポン」


 俺と由美がパーで雅人と由奈がグーだった。結局、雅人と由奈が買い出しに行くことになった。


「じゃあ、カレーライス四人分と飲み物な」


「由奈、大丈夫か?」


「大丈夫、だよ」


 目の前の由奈はニッコリと微笑む。


「お前は過保護か!」


 雅人がそう言ってツッコむとみんなが笑った。こんな日常がずっと続けばいいな、と俺は思う。雅人とは高校の時からの腐れ縁だが、由美と由奈とは最近出会ったばかりだ。でも、なんかずっと四人で一緒だったような気がした。


「じゃあ、行ってくるな」


 そう言って雅人と由奈がフードコートに行ってしまうと由美が俺に近づいてきた。


「実体を持った幽霊なんて珍しいわね」


「そんなもんかな?」


「わたしだって幽霊に詳しいわけじゃないわよ。でも高校の時にその手のオカルト話で盛り上がったから、色々ネットで調べたことあったけども、実体のある幽霊なんて知らないわよ」


「貞○とかいるじゃん」


 由奈がそう言ってたな、と思いながら話しかけた。


「あれは、創作映画でしょう。そりゃ、あんな演出でもないと怖くないからね」


 実際の幽霊は実体を持っていることは非常に稀だそうだ。洋服を着替えて、料理も出来て、手を繋いだりもする。なんか幽霊詐欺にあってるみたいだ。


「本当に幽霊なのかな?」


「どうなんだろ? そこら辺は専門家じゃないから分からないけどね。なんか人間では、できそうにない事とかなかった?」


「そういや、さっき男たちにナンパされたんだよ。その時に俺殴られて動けなくなったんだけど、その時由奈が怒って手を触れただけで男たちを吹き飛ばしたんだよ。俺の傷もこの通り、由奈が治してくれた」


「えー、さっきそんなことがあったの?」


「うん、凄い事が起こってたんだけど、ナンパしたやつ逃げて行き、目撃した人もいなかったので、騒ぎにはなってないんだ」


「なんかラノベファンタジー小説の魔法使いみたいだね」


「それは思った。そういや治療してくれた時に、ヒーリングと唱えてたよ」


「こんな話あり得ないと思うけど、転生者と言うことはないかな」


「幽霊じゃなくて、転生者?」


「ファンタジー小説とかであるじゃん。異世界に転生したみたいな」


「異世界から転生した?」


「そう考えたら辻褄は合うよね」


 転生者か。確かにその線もないことはないだろう。いきなりこの世界にやってきて魔法が使える。転生者なら、あり得ないわけじゃない。


「ありがとう。ちょっとその線も含めて調べてみるよ」


「そうだね、それと一度山川先輩に会って話してみると良いと思うよ。あの人結構凄いらしから……」


 俺はコンパの時の山川先輩を思い出した。確かに別の意味ですごい人だけども……。


「ほら、買ってきたぞ」


「このカレーライス美味しそうだよ」


 ニッコリと笑って由奈は飲み物とカレーライスをビーチのテーブルに並べていく。


「食べようよ!」


 由奈は俺の隣に座ってニッコリと笑った。


 ビーチでのカレーライスは、なぜこんなに美味しく感じられるんだろう。ただのカレーライスなのに、お腹が空いていたこととビーチの雰囲気で三倍は美味しく感じた。


 午後は俺と由奈、雅人と由美に別れてプールに入った。雅人の持ってきた浮き輪に捕まってプールを漂う由奈。


 正直、かなりエロい。豊満な胸を隠すビキニと結構際どいパンツライン。俺はゴクリと唾を飲み込む。


「どうしたの?」


 由奈は不思議そうに見てくる。水で隠せてるが俺の股間は結構やばかった。そういや……。


「明日は学校だけど、どうする?」


「うん、一緒に行きたい!」


 まあ、大学行ったら山川先輩に会えるかもしれないし、それもいいかもな。


 俺はそう思いながら、由奈とのひと時を楽しんだ。

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