第10話 プールでナンパされる!?

「起きてください!!」


 俺はゆさゆさと揺すられる。なんだろう、この夢は……。夢の中で美少女が俺をゆっくりと揺すりながら起こしていた。


「て、夢じゃないだろ!!」


「おはようございます」


 目の前で由奈がニッコリと微笑んだ。て言うか由奈は、ベッドの中にもそもそと入り込んでた。


「えと、その由奈さんや」


「はい!!」


 満面の笑みを浮かべる由奈。


「あのさ、いつからベッドで寝てたの?」


「昨日、2時に起きたのですが、寝付けなくて、その……たっくんの隣ならいい夢みれそうだなって……」


「てことは、昨日2時から一緒に寝てたのか? 俺」


「はい!! 凄く幸せそうに寝てましたよ。そのなんか、エッチな夢見てるようでしたけども」


「はい?」


「大丈夫ですよ、まだ何もされてません」


「まだ!?」


「はい、……でも心の準備はできてます!!」


「あのさ、俺、明日からキッチンで寝るわ」


「えーーーっ、何故ですか?」


 このまま行ったら絶対我慢の限界がやってくる。堤防は一度決壊したら、もう戻れなくなる。そうなったら、死後の世界一直線だ。由奈は好きだが、俺はまだもう少しは生きたい。


「なんでもだ」


 それはそうと、俺はベッドの時計を見た。時間はまだ7時だった。待ち合わせ時間は10時だっけか。


「早くないか?」


「プールが楽しみで、待ちきれませんでした」


 本気で楽しそうに笑うんだよな。


「分かった、分かった。雅人には先行っておくとLINE送っとくから、今から行くぞ!」


「いいんですか?」


「いいんです」


 プールは電車に乗って二駅のところにあるレジャープールだった。ここは都会ではないが人が多く住んでるから、東京駅まで行かなくても大体のものが揃う。


「で、お前、その格好!?」


 由奈はもう着替えていた。しかも……。


「由奈、お前、それは露出が高いからやめなさいと言った服じゃねえか」


「でも、買ってくれました。今日はこれで行きます!」


 まあ、購入したのは事実だ。できれば部屋着にして欲しかったがそれは無理だろう。


「分かった、分かった。じゃあちょっと待ってくれよ」


 俺はいつもの服を選んだ。隣にいるのが美少女の由奈だから絶対浮くよな、と思いながらも……。ただ、俺も服のレパートリーが多い方じゃないしな。


「さあ、行くぞ」


 俺は部屋の鍵を締めて、由奈の手を取った。


「るるる♪」


 なんか凄く機嫌が良いようだ。スキップしながら、俺の腕に自分の腕を回した。


「だ・か・ら……」


「だめですか?」


「だーめ」


 俺は腕を離して、手を握る。これでさえ、やばいんだからな。呪い殺される前に睨み殺されるよ、きっと俺……。


 電車の中でも何人もの男の視線を感じた。余計なことは考えるな。いつ絡んでくるかなんて分かったもんじゃない。


 そして、駅を出て坂を少し登ったところに、レジャープールがあった。


「とうとうやってきました!」


「嬉しそうだな」


「勿論です!!」


 一片の迷いもないんだよな。


「じゃあ、ここで待ち合わせな」


「はい!!」


 俺は男子更衣室に入る。由奈は女子更衣室だ。それにしても、会って数日だと言うのにすごく距離を詰めてきたような気がする。このままで俺大丈夫だろうか。


 考えていたら少し着替えるのが遅くなった。由奈はあの調子ではもう待ち合わせ場所にいるんじゃなかろうか。


「いかんいかん」


 俺は慌ててプール前の待ち合わせ場所に向かった。あの可愛さならナンパされててもおかしくはない。




◇◇◇



「君、可愛いねえ」


 由奈の目の前に茶髪の明らかにチャラチャラした男が3人いた。どうやら由奈をナンパしてるようだった。


 それにしても俺がいなくても見えてるじゃないか。いつ見えなくなるんだよ、と思いながらも助けないと、と俺は近づこうとした。


「あなた達は誰ですか? もしかしてたっくんのお友達!?」


 パンと手を叩いて嬉しそうにニッコリと笑う。


 確かに雅人もチャラチャラしてるけども、こいつらみたいな軟派じゃねえからな。そう思いながら、俺は由奈の目の前に立った。


「由奈、そいつらとなんの関係もないからな」


「そうでしたか。てっきり声をかけてこられましたので、お友達かと思いました」


「なんだよこら、お前はこの女のなんなんだよ」


 このグループのリーダーぽい真っ黒に焼いた男が俺に敵意剥き出しで睨みつけてきた。


「万が一にでも彼氏だったとしても、お前じゃ釣り合いなんて取れてねえんだよ。すぐに彼女を置いて帰んな」


 そんなことできるわけねえだろ。


「俺はあいつの保護者だ。俺はあいつを守らないとならない」


 いい終わる前にパンチが飛んできた。やべえ、殴られるよ。目の前の光景がスローモーションのように見える。ゆっくりとパンチが近づいて俺の顔にあたって吹っ飛ばされた。


 無茶苦茶、痛いぞ、これ。しかも、これはやばい。足が震えて動けねえ。


「由奈、逃げろ!!」


「へへへへっ、女は逃さねえぜ。こんなダサい男にこんなセクシーな水着見せるなら、俺達となら、もっといいことできるだろ」


 由奈は逃げることもなく、ゆっくりと男の方を振り向く。ダメだダメだダメだ。身体よ、動いてくれよ。ふざけんなよ、身体に力が入らないなんて、あるかよ。


「……るさなぃ」


「お嬢ちゃん、あんな奴放っといて俺たちといいとこ行こうよ」


「由奈、逃げてくれ!!」


「逃さねえよ、なあ、俺たちとホテル行こうよ。絶対楽しませてやるからよ」


 頼む、頼むから逃げてくれよ。由奈まで壊されたらもう生きていけないよ。


「逃げろだと、本当にクズだよなあ。ここでおとなしく愛しの彼女がホテルに連れて行かれるところでも眺めてりゃいいんだよ」


 男は由奈の肩に手を置いた。その時、由奈が怒っていることに初めて気がついた。


「たっくんを叩くなんて……絶対許さない!!」


「なんだ、嬢ちゃん、怒った顔もかわいいね。そんな怖い顔しても俺たちには怖くないんだぜ」


 由奈の右手がリーダーの男に触れた。その瞬間、あり得ないことが起こった。


「うわああああっ」


 男の身体は数メートル飛んで、プールに沈む。一体、由奈は何をしたと言うんだ。何もしてなかった。ただ、触れただけだ。


「こいつ、何をしたんだ!!」


 ふたりの男がプールに沈んだリーダーの男を見る。その瞬間、由奈が軽く手を振った。


「うわあああああっ!!」


 突風が巻き起こり、仲間二人が飛ばされプールに沈む。そして、由奈は俺の方を振り向いて、ニッコリと笑った。


「大丈夫!? たっくん」


 由奈はこちらに向かって走ってきて、俺の胸に飛び込んだ。


「あっ、ああ大丈夫だ」


 俺は由奈を抱きしめながら内心、由奈の人間離れした能力ちからに正直怖くて震えた。

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